第739話 通信機からアーサーの声が流れる。
『カボルトさん。カボーネさん。敵は初手から5体とも飛び上がろうとしています。ここは作戦を変えて、こちらは全員で攻撃を開始、敵が空に上がる前に撃ち落します!』
通信機からアーサーの声が流れる。
「ラジャー」
『了解です』
今は3戦目、戦っているのはエルフ4人とワーウルフ1人のチームだ。
俺はアーサーの指示に従って、敵機との距離を詰めながら、ビームライフルを連射した。
横を滑る様に進むカボーネの動きに合わせながら。
あ、どうも、カボルトことアーバンです。
という事で、俺は今、カボのフリをしてリョウサーンに乗っている。
……このリョウサーンっていうふざけた仮の名前、そのまま正式に採用されちゃったんだよね。
ちょっと後悔している。
ちなみに声は変声機の魔道具でカボの声、つまりカミーユの声に変えてある。
名前と言えば、格好良い名前が良いと言ったのに、カボルトって……どう思う?
ぶっちゃけ俺のネーミングセンスとそう変わらないと思うんだよね。
もしかして、先王もネーミングセンスはそんなにない感じですか?
お仲間ですね!
ちなみに、なんでこんな事をしているかと問われると、もちろんきちんと仕事をこなせているか、教導隊と搭乗型ゴーレム部隊の練習をこっそり視察する為だ。
……嘘である。
楽しそうだったからである。
それにしても、アーサーは噂通りに結構戦える様だ。
指示もそれなりに的確だし、臨機応変さも持っている。
対して、新米パイロット達は結構な体たらくである。
こちらはこれから頑張ってねぐらいしか言える事がない感じだ。
3組目のエルフとワーウルフのチームは、それで言うと一応連携を取ろうとはしていたのかも知れないが、作戦が笊過ぎた。
飛び立つ前に全機撃墜して終わりである。
さて、次はダークエルフ4人とワーウルフ1人のチームだ。
『それでは、両者準備は良いか? ……はじめ!!』
4回目のモーリスの合図で試合が始まると、相手チームはこちらの初戦の戦法を真似したのか、1機が突っ込んで来た。
『あ、こら! ワーウルフ! 勝手に突っ込むな!』
『待て、止める必要はない』
『俺達はこの隙に上空に上がるぞ』
『囮にしたようで申し訳ないが――勝手に突っ込んだ奴が悪い――』
……別に作戦を真似した訳じゃなかったらしい。
『……突っ込んで来たリョウサーンは私が押さえます。お2人は奥の飛ぼうとしている4体を狙って下さい』
「任されました」
『了解です!』
あらかじめ数パターンを考えて居れば良いからかもしれないが、判断が早く支持も的確。戦力もちゃんと把握できてるっぽいし、うん、アーサーの指揮下だと限定した能力でもそれなりに戦いやすくていいね。
俺とカボーネは、アーサーと突っ込んで来たリョウサーンがビームサーベルで鍔迫り合いをする横をすり抜けて、飛び立とうとするリョウサーンとの距離を詰めつつビームライフルを連射する。
出ました!
ビームサーベル同士の謎の鍔迫り合い! 良いよね!
まぁ、これはビームっぽい見た目に調整した魔法だけどね。
魔法同士なら鍔迫り合いが発生するのかって?
もちろん、そうなるように無駄に調整を頑張ったのである。
具体的に言うと、鍔迫り合い時だけ、芯が生まれる。実際はそれがぶつかり合っているだけなので、例えば実体剣相手だと鍔迫り合いは発生しない。
あと、別の誰かが独自で造り上げたビームサーベルがあったとしたら、それとも鍔迫り合いは発生しない。
なお、芯は細い黒い剣を使っているので、そう簡単に折れる事はない。
そんな事はさておいて――
俺とカボーネの連射で2機のリョウサーンを撃墜出来たが――残念、2機は空に逃げられた。
やっぱり制限されたカボと、それに実力を合わせた状態の俺ではこれぐらいが限界だろう。
『2人とも、空に逃げた敵に牽制射撃を続けて下さい。こちらは後少しで片が付きます』
「イエッサー」
『はい!』
アーサーから直ぐに次の指示が飛んでくる。
戦いながらもちゃんとこちらの状況も把握できている様だ。
指揮官としては、ムスタファと良い勝負なんじゃなかろうか。
俺はビームライフルで空中のリョウサーンを牽制しながら、アーサーの戦いを観戦する。
数度のビームサーベル同士のぶつかり合いの後、ビームライフルを交えた攻撃を繰り出したアーサーの攻撃を躱し切れなかったワーウルフのリョウサーンが右手を撃ち抜かれ、次にビームサーベルで足を斬られてお終いだ。
ちなみに、模擬戦でこんなにゴーレムを壊しまくって良いんかい? と思うかも知れないが、修理用のゴーレムが直ぐに修理するので何の問題もない。
費用もほぼ無料である。魔法万歳。
アーサーは直ぐにこちらに合流するかと思ったが、離れた場所で上昇を開始し、そのまま敵機よりも高い位置に移動する。
『そのまま敵機の注意を引き付けておいてください。上から攻撃をしかけます』
「アイアイサー」
『はーい』
その作戦は上手く行き、敵機の片方は上からの攻撃に不意を撃たれ撃墜した。
『うわぁ!!』
『な――?! 上からだと?!』
上に気を取られたもう1機は、今度はしたらからの俺とカボーネの攻撃によって撃墜した。
これで4戦4勝。
やるじゃんアーサー。
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