第254話 例の執事さん、名前をタナファと言うらしい

 例の執事さん、名前をタナファと言うらしい。……セバスチャンじゃないのか。

 そのタナファを待つ数日、俺はせっせこと飛空艇造りに勤しんでいる。

 そりゃね、可愛い嫁の頼みですからね、造りますとも。

 こちらも謎金属で造りたいと思ったのだが、デザイン画が木造船。という事で木造になりました。まぁ素材を集めるのに手間がかかるぐらいで、ちゃんと魔法陣で強度を増して、防腐もするので並みの鉄なんかより丈夫には出来る。

 問題は謎金属以外だと素材を買う必要があるという事なのだが、その辺はヌゼが嬉々として手配してくれた。

 全長は大体50メートルぐらいになる予定だ。ネモフィスと比べると小さいが、ナイトロードやリストゥエラが甲板に立ってさまになる大きさだとこんな物かなという適当な理由である、あと小さい方が単純に作るのが楽だし。

 

 庭でトンカントンカンやっていると(実際は作業の殆どがゴーレム魔法なのでこんな音はしないが)例のタナファが使者の馬車に乗せられてネフィス邸に訪れてきた。

 相手が平民という事もあって、面接は屋敷の応接室ではなくて、工房の1階で行うことにした。


 「散らかってて申し訳ありません」


 「?!………とんでも御座いません」


 あ、しまった。相手が年上だからまたちょっと丁寧な言葉になってしまった。


 それにしても、タナファ。期待していた見た目とは違ったなぁ。

 俺の想像では背筋がピシリと伸びて、執事服が良く似合う覇気のあるダンディなオジ様を期待していたのだが、ちょっと草臥れている感がある。

 いや、草臥れているは失礼だな、服装もきちんとしているし、一応背筋も伸びてはいるのだ。好々爺っぽいと言っておこう。

 ついついタナファさんと呼んでしまいそうな雰囲気だ。田中さんのイントネーションで。


 「コホン――タナファはケーシー侯爵の下で執事として働いていたんだよね?」


 「はい、およそ30年、先代のケーシー侯爵様の代から執事を勤めさせて頂いておりました」


 「侯爵ともなれば、普通執事には下級貴族の人間を雇うと思うけど、タナファはよっぽど優秀なんだな」


 「……いえ、私は単なる凡人に御座います。ケーシー侯爵の目に止めて頂いたのは偶然が重なった結果でしょう」


 単に金をケチっただけだと思うし、タナファもそれには気付いているだろう。それでも前の主の悪口を堪えたのはプラス1点って感じかな。


 「大変失礼な事を聞くけど、あまり貯えが無くて新しい働き口を探していると聞いたけど、それは本当かな?」


 「はい、お恥ずかしながら本当です。この歳ですから新しい働き先も中々見つからず、今は男爵家を中心に執事の経験がある事を触れ込んで自身を売り込んでいるのですが、退職理由が理由だけに中々……」


 も、もしかして前の職場を解雇された理由を馬鹿正直に告げているのか?

 それは確かに見つからないだろう。何たって主の個人的な書類を勝手に書き写した上に、主の情報を売ってお金を受け取った事にもなっているのだから。

 仕事が出来るかどうかは知らないが、そもそも執事には向いていない性格なのかもしれない。


 「えっと、執事以外の仕事はしたく無い感じかな?」


 「いえ、そのような事は。ただ年齢的に肉体労働は厳しいと考えております」


 それは多分使用人たちが”山羊頭の試練”と名付けた【試しの遺跡】での訓練でどうにでもなると思う。

 いや?年齢的な肉体の衰えの場合はどうなんだ?試してみればわかる問題か。

 ブリッジクルーが肉体労働かどうかは知らないが。


 話してみた感じ、問題は無さそうかな?

 タナファにこちらで働く意思があるのならば雇い入れるのに問題は無いだろう。


 「実は今俺の下で働いてくれる人材を探していてね。タナファに声を掛けさせてもらったわけだけど、やってもらいたいのは執事の仕事では無いんだ」


 「では、どの様なお仕事なのでしょう?」


 「副艦長」


 うん、ブリッジクルーとぼんやりと決めていたけど、副艦長が良いだろう。

 年齢的には艦長でも良さそうだけど、艦長はミランダって決めてるし、艦長って貫禄じゃ無いし、もともとケーシー家の執事って事もあるし、俺は気にしないけど平民が艦長だとどこからか不満の声が上がるかもしれないしな。それは副艦長でも一緒か。まぁ上手くやって欲しい。


 「副艦長、ですか?」


 「そう副艦長。戦艦の副艦長として、艦長であるミランダ嬢を支えてあげて欲しい」


 「ミ、ミランダお嬢様はこちらで働いていらっしゃるのですか?」


 おや?確か彼はミランダがウチにいるのは知っていた筈では?

 う~ん?


 「ミランダ嬢がこちらに居るのは知っていると思っていたが?」


 「は、はい。しかし、働いていらっしゃるとは……」


 ああ、客人として丁重に扱われていると思ってたってことかな?

 くっくっく、アーバンさんの人脈の無さを侮って貰っては困る。

 俺が思いっきり遊ぶためには客人を眠らせておく余裕など無いのだ。ブリッジクルーが足りません。


 「まぁまだ戦艦は実働してないから、今はその準備をして貰ってる感じだね」


 「その、お嬢様はご壮健であらせられますか?」


 「ん?ええ、そうですね。大変元気にしていますよ。お友達のヒルダ嬢もウチで働いてもらっていますし。他の者たちとも仲良く出来ているですよ」


 「それは何よりです」


 「それで、どうでしょう?ウチで働いて頂けますか?」


 「はい、喜んで」


 「それは良かった」


 「ですがその前に、業務内容と雇用条件、それと出来ましたら勤務形態などを詳しくお教え願えますか?」


 あ、そこはしっかりしてるのね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る