第184話 ワーゲルとガステアの共闘(中)
【ガステア】
うっ……緊張で吐きそうだ。
が、我慢だ。ゴーレムの中で嘔吐なんてしてみろ、大惨事だぞ。
そうでなくともこのゴーレムは王家の所有物なのに。
「先ほどはお見苦しいところをお見せしましたな、ガステア殿」
スラスターを噴かせながらの移動だと、普通あまり良く聞き取れない物だと思うが、ワーゲル殿は腹に響くような大声で話すので割と問題なく聞き取れる。
「い、いえ、べつに……」
まぁ、多分こっちの声は聞き取れないだろうけど、礼儀として一応返答はしておこう。
「あやつは剣の腕だけは確かなのですが、それ以外はからっきしでしてな。団長の器では無いと思うのですが、如何せんその剣の腕が副団長とかけ離れ過ぎている所為で周りに担ぎ上げられているのです。まぁ副団長が上手く補佐してくれているお陰で上手くやれてはいるようですが」
「そ、そうなんですね」
褒めているのか、貶しているのかどちらなんだろう。
声色を聞く限り、どちらかと言うと前者かな?
「とはいえ天狗になり過ぎるのも良くはない。ここらで一度奴の鼻っ柱を折ってやりたいのだが、残念ながら我にはもうそんな力を残されておりません。いやはや、歳は取りたくないもんですな、がっはっはっは」
「ご、ご謙遜を―――」
「というわけですので、ガステア殿、息子の事はどうぞ気兼ねなくボッコボコにしてやってください」
「か、仮にゴーレムに負けてもそれで鼻っ柱が折れますか?」
「………およそ8年ほど前だったでしょうか、一度奴の鼻っ柱を折ってくれた少年がおったのです。当時学園への入学を控えていた子供でした」
「……はい?」
「名をアーバン=グランシェルドという少年です。齢9歳の男子に、膝を付かされたと呆けた顔の息子から聞かされた時は、こいつも冗談を言える男になったか、と笑ったものです」
「そ、それは面白い冗談ですね」
8年前と言えば、キヴァ殿は既に、団長か副団長だった筈だ。そんな人間が子供の剣術の稽古の相手をする筈が無い。まして膝を付くなんて事は天地がひっくり返っても起こりようが無い。
……ん?アーバン=グランシェルド?
「しかし、息子の表情はとても冗談を言う時のそれでは無かった。気になってそのアーバンという伯爵家の少年に会いに行ってみたのです。そして彼の父親であるグランシェルド伯爵に頼んで10日という短い期間だけですが、剣術の指南役を務めさせてもらいました」
現役の団長だか副団長だかの次は引退した元王国最強の騎士に指南役を務めて貰える伯爵家の子供って……というか、さっきから聞き間違いじゃないよな?確かにグランシェルドと言っている。という事は本当にあのアーバン=グランシェルドの事?今は結婚してアーバン=ネフィスに変わっているけれど。
「結果は、我が指南役など烏滸がましいと思えるものでした。確かに彼はまだ幼く、教えることが無いわけではありませんでしたが、何度模擬戦をしても膝を付いているのは我の方でした。しかも、教えたことは全て直ぐに吸収して自分の物にしてしまう。10日経った頃には、実力差は明白で、もう我では真面に相手をしてあげる事も出来なかった」
……やっぱり別人か?アーバンといえば、魔道具開発で名を轟かせている天才だ。最近は玩具用のゴーレムを作り販売している。私が毎日のように遊んでいたあのゴーレムの製作者の名前の筈だ。私が世界一感謝し尊敬している人物の名前だ。
そんな男が9歳の時に剣術で元王国最強や、その息子の現役でトップクラスの騎士を打ち負かした?……ちょっと意味が分からない。
「卒業後は間違いなく騎士になり、また息子の鼻っ柱を、今度は粉々に砕いてくれると思っておったのですが……しかもネフィス家に婿入りしたのなら尚の事、何故騎士になってはくれなかったのか、アレだけの才を眠らせておくなど、勿体ない事です」
ネフィス家に婿入り……間違いない。本人じゃないか。
しかし、彼の才は別に眠っているわけでは無いのでは?別の道で遺憾なく発揮しているではないか。
直接聞いたわけではないが、このパワードスーツゴーレムだって、間違いなく彼の手掛けた物だろう。彼が販売しているミニゴーレムと系統が酷似している事からそう思う。
恐らく、ネフィス家が所持している搭乗型ゴーレムを元に作り上げたのでは物ではないだろうか。魔道具の解析など現代の魔道具師には不可能な筈なのに凄まじい才能だ。
まぁ、ワーゲル殿の性格を考えたら、魔道具製作より剣術の才能に目が行くのかも知れないが……
それにしてもネフィス家の搭乗型ゴーレムは何処で発見された物なのだろうか。ダンジョンから発見されるにしては余りに巨大過ぎるし……どこかの遺跡に眠っていた物だろうか?
ヨルレア・フェーレもアーバンが作った何て噂されてたけど、まさかね。
……いや、このパワードスーツゴーレムが作れるのなら………作れる、のか?
「おっと、おしゃべりをしていたらあっと言う間でしたな、例のゴブリン共が見えて来ましたぞ」
「……あれが」
遠すぎでサイズ感は良く分からないが、周辺の木々と比べると確かにデカい。
7・8メートル……下手をすればもっと。
「あれは斬り甲斐がありそうですな。ではこの辺で一旦止まりましょう」
ワーゲルがゴーレムを停止させたので、私もそれに合わせて停止する。
そしてワーゲルはゴーレムの前面を開くと、ゴーレムから出て来た。
「あ、あの…本当に生身で戦われるのですか?」
「勿論ですぞ。そうだ、ゴーレムの魔法剣は一本お貸し頂けますかな」
「それは勿論ですが、では魔法銃も」
「そちらは結構。やはり騎士は剣で戦ってこそですからな!」
「え~…………」
「おっと、言い忘れておりましたが、我も楽しみたいので、全てのゴブリンを瞬殺されるのは出来れば控えて頂きたい」
「あんな巨大なゴブリン相手に、そんな事出来るわけありませんよ」
「がっはっは、ガステア殿の事を過小評価したのは息子だけでは無かったようですな」
「むしろワーゲル殿が私を過大評価為されているのでは?」
「結果は直ぐに分かりますぞ、では参りましょうか」
「は、はい……」
実践など卒業試験以来だ。しかもあの時は安全を確保されていた。
あの時と違い敗北は死を意味する。
うぅ……やっぱり吐きそうだ。
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