第153.5話 ギルドマスター視点

 ifの方で書いた話ですが、

 本編で良いのではというお言葉を頂きまして、

 こちらに移すことにしました。


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 「ギルマス!貴族の方が見えています!」


 ち、糞が。今日はツイて無い日らしい。


 貴族が冒険者ギルドに来るのはそこまで珍しい事でもない。

 遣いも出せないような木っ端貴族の次男やら3男やら態々やって来て、依頼をくれてやるからありがたく思えだの偉そうに上から物を言ってくる。

 貴族の相手を下っ端に任せる訳にもいかねぇんで、しょうがないからそう言う輩の相手は俺がすることになっている。

 はぁ……今日もゴミ貴族のゴミ令息にゴマすりか。ギルマス何かになるんじゃなかったぜ。

 俺は急いで一張羅に着替えて受付に向かった。


 「あん?おい、お貴族様はどうした?」


 俺が受付に着くとそこには件の貴族の姿は見えなかった。


 「それが、魔物の解体を依頼してさっさとお帰りになりまして……」


 ああ?あの一言目には下の者では話にならん、ギルマスを出せ。が口癖のお貴族様が?しかも魔物の解体だぁ?


 「その魔物は?」


 「此処では出せないので広い場所は無いかと聞かれたので、解体班の主任さんに倉庫の方に案内して貰いましたけど……」


 「ここでは出せない?どういう状況だそりゃ」


 「さぁ……」


 「まぁ良い、倉庫に確かめに行く。それで?そのお貴族様の名前は?」


 「アーバン=グランシェルド様です」


 「グランシェルド?……記憶にねぇなぁ。ギルドの記録に名前は?」


 「ありません。グランシェルド家の方がギルドを使用するのは初めての筈です」


 「だよなぁ」


 イマイチ要領を得ない受付嬢の話の真相を確認すべく、俺は倉庫に向かった。


 「うお!でけぇ!!なんだこれ?見た目はゴブリンに似てるが――」


 色々調べるうちにそのゴブリンの体の中からやべぇもんが出て来た。


 魔道具だ。


 俺は魔道具にそれほど詳しくねぇが、状況から見るにこのゴブリンたちが巨大化した原因は間違いなくこの魔道具にあるだろう。


 国に報告しない訳にはいかねぇよなぁ…………




 最悪だ。


 王家が例の魔道具を2つ3つ寄こせと言って来やがった。

 とりあえずなんとか言い訳をして時間を稼いだが持って5日。貴族が約束の日時にギルドを訪れるわけ無いので例のアーバンとかいう貴族が来るのは10日後か、20日後か――

 とりあえずギルドこちらから連絡を入れるが、平民からの連絡如きでお貴族様が動いてくれるわけもねぇ。

 ……は?グランシェルド家は侯爵家?アーバンは長男?い、意味が分からない。が、そんな高位の貴族の長男ならば尚更だろう。


 王家の打診を断るのは不可能。つまり魔道具を王家に渡す事は決定事項。

 だからと言って勝手に魔道具を王家に渡したとなれば貴族は怒るだろう。相手が王家でも関係ない、平民如きが断りもなく貴族の持ち物を誰かに譲渡した事が問題だと騒ぐに決まっている。


 つまり八方塞がり。

 この歳で職を失う事になるとは。勘弁して欲しい。俺には妻も子もいるのだ。

 いっそ冒険者に戻ってやろうか、その方が俺の性に合ってる。

 ……まさか実際に首が飛ぶ何てことないよな?





 「ギルマス。例のアーバン様がお見えです」


 「なんだと?!直ぐに応接室にお通ししろ!」


 まさか貴族が約束の日時を守るなんて。

 俺がギルマスになって初めての珍事じゃないか?

 兎に角助かった。これで王家に魔道具を渡す前に当人に説明が出来る。


 応接室に現れたのは普通のガキだった。

 歳は15・6か?多分貴族が通うと言う学園を卒業したばかりの年齢だと思う。

 よくギルドに来るくそったれた貴族令息様にありがちな年齢だ。


 「初めまして、アーバン=グランシェルド様。私はこの冒険者ギルドでギルドマスターを務めさせて頂いております、レガーと申します。この度は貴重なお時間を頂きまして感謝の念に堪えません。この様な小汚い場所しか用意出来ずに申し訳ありません。何せ冒険者ギルドなんぞに来る高位貴族の方など滅多にいらっしゃられないのです。どうぞご容赦ください」


 本当は滅多にどころか俺がギルマスになってからはテメェが初めてだけどな。

 ……待てよ?何で高位貴族が遣いの者を寄こさないで本人自ら出向いたんだ?

 貧乏だから使用人が少ない男爵ならわかるのだ。侯爵家に遣いを寄こす余裕すらないなんて事あるのか?ないよな?じゃあ何でだ?

 ……もしかして、あの魔道具が関係しているのか?コイツは最初からあの魔道具の事を知っていて。なんらかの理由でそれを冒険者ギルドに取り出させた?

 時期当主自ら足を運んだのも、それだけあの魔道具が重要だからか?

 だ、だとしたら本人に断りなく王家に報告した事を責められるのか?俺の首はまだ危険なままだった?


 「はじめましてレガー殿。この度私はどういった用件で呼ばれたのでしょうか?」


 ビクリと体が震えた。

 見るとアーバンは笑っていた。それはもうにこやかな笑顔だ。

 こちらの考えがすべて見透かされている気分だ。

 

 こわい。

 たかが15・6のガキが怖くて仕方ない。

 これが高位貴族なのだ。

 普段ギルドに顔を出す貧乏男爵家の次男や3男とは格が違う。


 ……素直に事実だけを話そう。

 俺みたいな学の無い平民が駆け引きなんぞするだけ無駄だ。

 もうどうにでもなれ。




 「とにかく、調査の為だと言うのなら喜んで協力します。王家には冒険者ギルドの方からその旨を伝えた上で魔道具をお渡し下さい」


 それがアーバンが下した判断だった。


 「……りょ、了解いたしました」


 「それで?ゴブリンからは何か素材になりそうな部位は取れましたか?」


 「い、いえ。本当にただのゴブリンが巨大化しただけのモンスターでしたから。素材らしい素材は何も……一応睾丸から弱い毒は作れますが、如何なさいますか?」


 「……そちらで処分しておいて下さい」


 「かしこまりました」


 結局、残りの魔道具だけ持ってアーバンは帰って行った。


 つ、疲れた。

 浴びる程エールを飲みたい気分だ。

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