閑話 チラズのこれから
「チラズ君は卒業後の進路はどうするの?」
ある日、アーバン先輩が僕にそんな事を尋ねて来た。
進む
僕の進路は決まっている。
将来はきっと実家の手伝いで、そのまま領地に骨を埋める。そう考えていたし、それに不満なんて無かった。
夢なんて無かった。何かになりたいとか、何かをやりたいとか、そんな事を考えた事すらなかった。
「少し残念なのは、せっかくアーバン先輩の元でゴーレム魔法や魔法陣に付いて色々勉強させて貰ったので、出来ればそれを生かしたいですが、行商について行くだけだとあまり機会はありそうにありませんよね。かと言って魔道具師として雇ってくれるところのコネとかありませんし」
自分で口にして驚いた。
魔道具師になりたいなんぞという貴族は変わり者だ。この国での魔道具師の扱いはそれほど良くない。ここ100年での彼らの功績が魔道ランプを魔石に対応させた事ぐらいな事や、戦闘に用いる魔法を魔道具に頼るのは無様(魔法剣や魔防具はその限りでは無いが)と考えるのが貴族の一般的な常識な事が原因だ。
「そう言う事なら俺に雇われるつもりはない?」
「はい?アーバン先輩にですか?」
聞けばアーバン先輩は卒業後、5分の1スケールのHMGシリーズとアーバン先輩が呼んでいるゴーレムを玩具用魔道具として量産し、それで事業を興したいのだと言う。正直意外だった。先輩は事業とか商売とかには興味が無くて、一生ゴーレムだけ作れたら満足なのかと思っていた。次元収納の使用料だけで、一生遊んで暮らせる額は稼げるだろうし。
僕の1本道だった進むべき路が急に二股に別れた。
立札なんてない、どちらが正解かなんてわからない。でもきっとどちらを選んでも後悔はあるし、どちらを選んでも未練はあるだろう。でも、どちらかを選ばなければならないのだ。だったら少しでもそれらが少ない方を選ぼう。
僕はその場で了承の返事をした。
父もきっと反対する理由は無いだろうからと、アーバン先輩には伝えた。
「父さんはいる?」
「ただいま書斎で書類仕事をなさっております」
「そう」
長期休暇で実家に帰った僕は真っ先に父の元に向かう。
流石に緊張する。
アーバン先輩にはああ言ったが、正直認めて貰えるかどうかは五分五分だろう。
息子がアーバン=グランシェルドの元で働けるメリットはデカい。
しかし、同時に息子が魔道具師の路に進むと言う不名誉な事でもある。またアーバン先輩の事業の内容が魔道玩具を専門に扱うというのもマイナスに働くだろう。
僕は呼吸を整えてから父の書斎の戸をノックした。
「チラズです」
「……入りなさい」
「失礼します」
書斎に入ると、父は一人で机に向かい書類仕事をしていた。
「帰宅の報告に参りました」
「……ああ」
父は寡黙な人間だ、この言葉数の少なさが僕の緊張を加速させる。
「それとご報告があります」
「…………」
「アーバン=グランシェルド殿が事業を立ち上げるそうです。10センチほどの大きさの小さなゴーレムを貴族の令息をターゲットに販売すると言っていました」
「……そうか」
「僕の卒業後、自分の元で働かないかと誘われました。事後報告にはなりますが、その場で承諾の旨を伝えております。アーバン殿の元で働く許可を頂けますか?」
「………」
「……」
父はペンを置き、ゆっくりと顔を上げた。
懐かしい父の顔だ。
優しさも、厳しさも含んだ目をしている。
僕は父の目をしっかりと見つめ返した。
「魔道具師は他の貴族たちから一段下に見られる」
「はい」
「それが子供の玩具を作る仕事となれば尚更だ」
「はい」
「………わかっているなら良い」
「……」
「それでもアーバン=グランシェルドの元で働きたいのだな?」
「はい」
「………そうか」
「……」
「お前の好きにすると良い」
「ありがとうございます」
「話しはそれだけか?」
「つきましては一つお願いがあります」
「聞こう」
「私に書類仕事の手伝いをさせて貰えませんか?」
「……理由は?」
「アーバン殿は魔道具に関しては天才です。いえ、それ以外の才能も他を圧倒的に凌駕しています。ただ、その、なんと言いますか、一般常識に疎く、またそれらを蔑ろにする傾向がみられます。彼の元で働くのならば、ゴーレム魔法や魔法陣の勉強と並行して事務方の仕事も学んでおくべきだと考えまして」
「……そんなにか?」
「はい、むしろそちらの勉強を優先した方が良いまでありますね」
「……わかった、基本的な事から教えよう。明日からで良いか?」
「よろしくお願いいたします」
「……ああ」
「それでは失礼します」
書斎を出た僕は一気に息を吐いた。
緊張した。
だけど父が認めてくれて良かった。
「チラズ様、お部屋の準備が整いました」
「ああ」
使用人が学園から持ち帰った僕の荷物を運び終わった事を知らせてくる。
そのまま部屋に向かおうと、足を動かして、ふと思い出した。
「お疲れ様」
「―――?!」
使用人が驚いた表情を見せる。
それはそうだろう、下級貴族の出身の使用人にならともかく、貴族が平民の使用人に気を使うような事を言う事など普通あり得ないのだから。
ただ、アーバン先輩の元で働くなら、平民と接する態度も改める必要がある。
以前、文化祭の時に平民の意志を蔑ろにするような発言をアーバン先輩の前でしてしまった事がある。あの時一瞬だけアーバン先輩がみせた顔は忘れられない。
普段おちゃらけてヘラヘラした表情ばかりみせてきた人間とは思えなかった。まるでゴミでも見るような、そんな冷たい目をしていた。
おそらくアーバン先輩にとっては平民も貴族も大差ないのだろう。伯爵令息として一般的な教育を受けて、どうしてそんな思考が身に着いたのかは分からないが、これからは出来るだけ彼の思考や理念を理解できるように努力しようと思う。
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