第19話 グラウンドは静まり返っている。

 グラウンドは静まり返っている。


 「今日は調子が良いみたいですね、くくく。それじゃあ、他の属性の魔法も試してみますね」


 適当に誤魔化してさっさと終わろう。


 「では、使っている生徒が多かった火球で試してみますね」


 下手に微調整を狙うと水魔法より点数の出やすい火魔法だと点数が高くなりすぎる気がするし、威力は全力の3分の1程度に抑えよう。

 水魔法を下回る分には水魔法が得意で火魔法が苦手だと言えば良いだろう。


 「≪火球≫」


 俺は手のひらの上にピンポン玉より少し大きな火の球を作り出した。この場でそのサイズを笑う物はいない。

 魔法の威力が強くなり過ぎないように意識して、火球ををクリスタルに放った。


 表示された数値は135。

 いや何でだよ!?

 水球よりかなり威力は抑えたぞ!?


 水魔法は威力が出にくいと聞いていたけど、まさかこれ程とは。

 でもこれは結果的には良かった気がする。水魔法が一番得意だから水魔法を使ったという理由に真実味が増す気がする。


 その後は、風魔法と土魔法でも試させられたが、どちらも全力の3分の1の力で試したところ、風が101、土が109だった。火魔法が特別点数が高くなりやすい傾向にあるのか、あるいは俺が得意なのは本当は火なのか、兎に角なんとか威力の調整に成功した。


 「よ、4属性全てで100点越えなんて……化け物だ……」


 ポツリと誰かが漏らした言葉が静まり返ったグラウンドに響いた。


 もしかして風と土はもっと抑えても良かったか?いやしかし、水魔法と点数を離し過ぎるのも不自然だよなぁ。


 「さて、諸君らのお望み通り、グランシェルドに魔法を使わせたが、不正の方法が分かった者はいるか?」


 ………………


 メモリ先生の問いに帰ってきたのは沈黙だった。


 「これで文句はないな?グランシェルドの試験に不正は無かった。それでも納得の出来ない者は後日でも構わん。不正の証拠を見つけてから文句を言え。以上だ!」


 こうして、俺の不正の話や退学処分の話は消えたわけだが、一度芽吹いた疑惑の芽は中々に消えない。


 クラスではまだまだボッチ生活が続きそうだ。

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