第4章 血族 第18話

  『ベクターの走馬灯…』


(今回のお話はベクターに関心の無い方にはオススメしない回となっておりますm(_ _)m)


ベクター「…あぁ…私は死ぬのか…死とはこんなにも呆気ないものなのだな…」


 雷の刃に貫かれ焼け焦げて死んだベクターであったが直接の死因は核に対する感電によるショック死だった…


ベクター「…私ともあろうものが死に際になって思い出すとは…」


〜〜〜〜〜


 私は100年程昔に魔族領の首都パンデモの下水道で孵化した。

 寄生虫は一度に300を越える卵を産卵するがその卵を捕食対象とする者がいる為に無事に孵化出来るのはその半分も満たないし成虫まで生き残れるのは両手の指で足る位なのだろう。

 我ら寄生虫は魔族の内でも忌み嫌われている、大きさこそ小型犬程はあるのだが見た目も質もナメクジ其のものである…それもコレも寄生しやすい身体に進化してきたからだ!

 だがその醜い容姿だけでは無く体内に寄生されるかもしれないと言う理由から同じ魔族だと言うにも拘らず嫌われ迫害され、事もあろうに虫けらの如く足で踏み潰す奴等も少なくは無かった。

 生き残った寄生虫の中には頑丈な魔族や地位の高い魔族に寄生した者も少なくは無かったがそのもの達は直ぐに見つかり処刑された…当時の魔族軍幹部が寄生を全面的に禁止し厳しく摘発しだしたからだ、魔族には寄生された個体が容易く見分けられる、探知・感知・嗅覚等に秀でた者が多いのだから。

 私は憤慨していた奇跡に近い確率で成虫まで生き延びたにも拘らず…寄生もせずに静かに生きる者達すら同罪だと…我々より知能で劣る身体が丈夫なだけの脳筋バカに当たり前のように無慈悲に殺される…我らだって意志や感情を持つひとつの生命体だと言うのに…

 

 そんな時、私は私の虫生じんせいを変える出会いをする。

 首都パンデモで魔族軍の凱旋パレードが大々的に開催されたのだ、隣国(人族が統治する)を完全制圧したのだと言う…その制圧戦で多大なる戦果を挙げた部隊が凱旋したのだ…キメラ部隊…

 彼等は魔族の中でも異形のモンスターだった、異種族混血の多い魔族領を下地に稀に奇形や異形の子が偶然産まれる事があるのだが其の子達が重宝される時代なのだ!解りやすく言えばライオンと鳥のキメラなら空を自由に飛べるライオンの出来上がりということだ。

 私は考えた…寄生するから蔑み忌み嫌われるが異形とは言えキメラの様な融合体ならば拍手喝采の凱旋パレードまで催してくれるようになれるのだと…私は決意した!融合体キメラを人工的に造ってみせると!

 それは必ず我々寄生虫の未来に繋がると信じて!


 私は魔族領を出て人族の街に渡ったキメラの研究の為には多種多様の実験体が必要だからだ、魔族領で魔族を実験体にすれば即処刑だからな…

 私はイリス王国の王都イリスノリアに渡り人族の子供に寄生する事にした人族は我々が寄生していても気付くスキルを持ち合わせていないからだ、子供に寄生したのは人族は寿命が短か過ぎるのが主な理由だった。

 裕福で学問に専念が出来る家柄で健康体、出来るならば……!?見つけた!稀有なスキルの持ち主!、これが人族ノーマン・ベクターとの出逢いだった!彼は産まれて1年足らず…何よりものスキル持ち!最高の獲物だった。

 私はノーマン・ベクターとして学問に励み人並外れたとして称賛され成人するとイリス軍の生態研究部門に志願し入隊する。

 入隊してからの私はどころではなかった、生態研究など寄生虫である私の能力を持ってすればお手の物だ!切り刻み調べるふりをして一旦寄生すれば生態であろうが弱点であろうが身体の秘密を瞬時に解明してしまうのだから…軍では大絶賛だ!今まで苦戦していた魔族・魔獣の弱点がわかったのだからな…

 私は出世し研究部門の副官となり研究の自由を獲得し歓喜した!これで隠すことも隠れることもなく思い付いた研究と実験が出来るのだと!

 生態研究と称して繰り返される融合実験!周りの人族は私の実験が魔族共を追い詰めるものだと疑わない…本当に愚かな生き物だ…

 その頃に私は魔石から木偶人形を造り出す事にも成功し実験体の一部として使用した、しかしこの木偶人形召喚は役に立った!売れば研究資金になるからな…知能は無いに等しいモンスターだがな…人族とはバカの集まりだ…

 だが本当に愚かなのは私なのだろうと今更ながらに思う…この頃の私の頭の中には寄生虫の事など忘れ去られていたのだから。


〜〜〜〜〜


 数年たちここでまた分岐点が訪れる事となる…魔王が勇者アレキサンドロスに討伐され魔族軍は降伏…終戦するのである。

 終戦すれば私の表の研究(生態研究)の必要も失せ研究費も大幅に削減された…もう少しだと言うのに…

 其の後、生態研究と称した融合体研究が公となり人体実験マッドサイエンティストとして国外へ逃亡する事となる(詳細は割愛する)。

 この後はご存知の通りだ、ムーア帝国からセントルア王国へと流れその度に邪魔をされる…

 あと一歩だったのだ魔石より作り出した木偶人形の寿命が余りにも短か過ぎたのだ!そこで今回のライオネルとの共同作戦の報酬として不老種バンパイアを貰い受けるとしてナルバくんだりまで来てやったというのに…


 私の尊い研究パーフェクトキメラは私の死によって永久に闇に葬られるのだろうな…

 私の生涯とは何だったのだろう…

 そう思った時に思い出してしまったのだよ…初心というものを…

 融合術さえ確立出来れば寄生虫だとしても何に怯えることもなく静かに暮らしていけるのに…

 そんな青臭い事を考えていたのだったな…私とした事が…


〜〜〜〜〜


 彼の死後ノーマン・ベクターの研究資料は禁忌として闇に葬られた。

 しかし遠くない未来にマッドサイエンティストの悪名は一部の者たちの間で『神の知恵、ノーマン・ベクター』と崇められることとなる。

 遠くない未来にこの世界でも魔術や魔法の類は廃れてゆき伝説のモノとなる、そうなれば魔術や魔法に頼らない文明が発展するのは自明の理だ。

 医学医術も例外では無く発展する…しかしその医学医術も頭打ちの時を迎えた、延命や部位欠損の為の移植術だった。

 一部の細胞から部位を育て上げる研究が続けられたが一朝一夕に出来るものでは無い、しかしとある学者が高級学校時代に話に出た都市伝説を思い出したのだ…人体実験マッドサイエンティスト、ノーマン・ベクターの話を!

 とある学者はあらゆる伝を使い藁をも掴む思いで探しに探した…見つかったのである、王城の地下に有る立入禁止の倉庫の中に…

 ベクターの資料はその時代の医学界に想像を絶する恩恵を与えた、当然であるその資料には全く違う2つの遺伝子を融合と言う技で拒否反応無く繋ぎ合わせてしまうのだから…

 更にベクターの資料には魔石から健康な魔族の身体を作ることが出来、融合移植手術に使用できる事も分かったのだ、之には一部の人道主義者達の反感もあったと言うが…


〜〜〜〜〜


 マッドサイエンティスト、ノーマン・ベクターは死んだ、だがもし彼の産まれた時代が違っていたのなら…もし違う道を選んでいたのなら…また違った二つ名を持つ偉業者として見送られていたのかも知れない…



 

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