第4章 血族 第14話

 同士討ちでゾンビの数を減らす思惑は頓挫しヴィンス達はライオネルの魔法を避けながらスカルドラゴンに対峙しなければならなくなった、そして建物の中からは未だゾロゾロとゾンビが溢れ出し辺りの街道を埋め尽くしヴィンス達を包囲する勢いだった。


※※※


ラヴ『ダメよ!このままじゃ包囲されちゃうわ!』

黒傷(もぉおせぇ…リッチかスカル何方か一方だけでも直ぐに消さなきゃ全滅だ…)


 状況は切迫していた、この様な状況にならない為の作戦だった…

 中隊長クラスのスケルトンナイトは大方始末した、しかしそれは軍団としての統制を指揮系統を削ぐための作戦だった、魔族軍の指揮系統が混乱していることは明白だったがこの様な乱戦になれば少数で戦っているヴィンス達は成すすべが無くなる…


ラヴ『全員散開!ヴィンス全員を官庁舎へ引かせるのよ!』


 ラヴの呼び掛けにヴィンスも首を縦に振る!ここで全滅する訳にはいかないのだ、だがその時この状況を好転させる援軍が到着する!


アスル『みんなケルルに集まって!半径ケルルの体長!其処が安地よ!』

ケルル『ガオォォォォン!』


 アスルの念話がヴィンス達に届いた!全員が官庁舎の方角に振り向くと空に黒く大きな魔獣が此方の方角へ飛び込んでくる!


ヴィンス『ケルルか!?』


 ヴィンスの頭の上を飛び越え着地したケルルはスカルを牽制しつつ大きく息を吸って一気に魔力を放出させる。

 ワンチームの面々はアスルの呼び掛けにケルルの周りへと集結した。


アスル『OK ケルル!』

ケルル『いっくよぉ!グラビティ!ワイドレンジ!』

「ドォォォォォン!」


 ケルルの掛け声と共にケルル(半径ケルルの体長)の外側に居たゾンビ達が跪く・平伏す・布の様に潰れて地面に貼り付いた。


ライオネル「な…何故ケルベロスが!?」

ケルル『お姉ちゃんゴメン!あの偉そうな骨とドラゴンの骨には効きそうにないや!』

アスル『ケルル充分よ!そのまま頑張って!』


 ケルルのグラビティワイドレンジは自身を中心に広範囲の相手に重力魔法を掛ける代わりに威力が弱まる為リッチやスカルドラゴンには左程の効果も期待できなかった(半径・体長✕およそ10程のエリア)。


ベクター「ライオネル!統制のとれてないゾンビ共がゾクゾクとグラビティエリアに突進しているぞ!止めんか!」

ライオネル「あ〜ん…いくら我とてあれだけの数を一人で制御など出来ぬわ」

ベクター「な…な…この役立たずのイカレポンチが!」


 またもやチグハグコンビが揉めだしたが二人の為に説明しておこう。

 ライオネルは火・氷・風・土・雷の5属性もの魔術を扱えるリッチであり元魔族軍では次期四天王の一人とまで言われた実力者である。

 方やノーマン・ベクターは魔族戦争の折より種族を問わない世界的生物学の第一人者である、二人は住む世界こそ違えど天才なのである!


ライオネル「グヌヌヌ!貴様は次期四天王の呼び声高い(高かった)我を愚弄するか!寄生虫の分際で!」

ベクター「あーっ!あーっ!バーカバーカ!お前バーカ!人の秘密を軽々しku!!!」

ライオネル「…なんだ?秘密なのか?」

ヴィンス(寄生虫…だと…)


 駄目押しである…二人の漫才に其の場の全員が大きく口を開けて唖然とするしかなかった。


ベクター「ぐぎぎぎ…こうなればこの場の全員に死んでもらうしかない!ライオネル!今こそ特大範囲魔術を奴等に御見舞してやれ!奴等は安地から出られん様だしな、クククッ」


 馬鹿な芸人にしては良い判断であった、今のワンチームはケルルの側から離れられない!もし今グラビティを解けばその周りに山のように集まっているゾンビの群れが一斉になだれ込んでくるからだ。


ライオネル「良いだろう…スーパーウルトラ特大魔術を撃ち込んでやろう!」


 ライオネルは両手を空に向け魔力を集中させる、宙には数段の魔法陣が重なりその上空に紅く光る小さな玉が現れた。


ライオネル「もっとだ!もっとだ!ゾンビ共我に魔力をわけるのだオラに元気をわけてくれ!」

黒傷「おい!あんなの喰らったら俺達どころか街まで消滅するぞ!」


 ライオネルの頭上…雲の高さにに現れた小さな玉は周りに居たゾンビ達の魔力を吸収し続けマダマダ大きく膨らみ続ける、あたかも巨大な隕石の様に!


 頭上に現れたメテオ級魔術の出現にバンパイア勢の頭領であるオリビアは覚悟を固める…バンパイア族の未来の為に例え其れが自分の居ない未来だとしても。


オリビア『やれやれ…この技は使いたくなかったんだけど…』

オリビア『良いかい私がライオネルを抑える!その間に…いや、後は頼んだよ…』


 言うやいなやオリビアは真の姿へと変化する!

 髪は白銀に染まり瞳は真紅に輝く、蝙蝠の様に…しかし巨大な翼を大きく開き雄叫びを上げる。


オリビア『時間は無いいくよ!』


 オリビアを中心に風の渦が現れ身体の周りに紅い靄が現れる『オラダニアで見た靄!』ヴィンス達が思い出す。

 その紅い靄が渦にのって渦自体が徐々に大きくなり真っ赤な紅い竜巻へと成長してゆく!


オリビア『 血界けっかい!!』


 紅い竜巻が瞬時に消え紅い靄は霧となり辺りに拡散した…『世界が紅くなった…』誰かが言った…


ライオネル「…グヌッ!バンパイアめ!」


 ライオネルは知っている、バンパイア王の血族だけに引き継がれるアビリティ『血界』の恐ろしさを…

 ライオネルは体験した事があった『血界』に取り込まれたリッチがどうなる事かを…

 ライオネルは地面に落ちると小刻みに震えている…


ライオネル「こ…これでは…制…御しき…れな…い…」

オリビア『時間が無い!早くスカルを!』


 オリビアの血界がライオネルを抑えてはいるが苦しそうなのはオリビアの方だった、オリビアの皮膚はシワだらけとなり身体は乾きまるで老婆の様に変わっていく。


アスル「オリビアどうしたの!?」


 アスルの問い掛けに九死に一生を得たステイサムが答える。


ステイサム「アスル殿…血界とは相手の魔力や魔術を無効化するバンパイア王族だけが継承するアビリティです…が…その技は…大量の血と魔力を消費します…」

アスル「じゃあオリビアは!?」

ステイサム「…オリビア様は王族の末裔とは言えその血は薄く魔力量も多いとは……」

アスル『オリビア!!』


 オリビアの血界は生命を賭けた技であった。

 ライオネルを抑えることは出来たワンチームだがベクタースカルは健在である。

 

 ワンチームは残された時間でこの窮地を脱する事が出来るのだろうか!?

 


 



 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る