第4章 血族 第13話

「キィィィィーン!」

黒傷『硬えっ!まさか此処までとは!』


 オリビアに少し遅れて到着した黒傷はスカルドラゴンの頭蓋にデスサイズ(大鎌)を振り下ろすも弾かれ手の痺れに苛立つ、数多の魔族を葬ってきた黒傷でさえスカル程の大物との対峙はそう多くはない。


黒傷『それよりさっきからアイツは何がしたいんだ?』


 黒傷が参戦した事によりスカルが翻弄される時間が増しヴィンス隊の面々も懐へ迫る回数が増えてきていた、しかしその一方で見当のつかない行動を繰り返す者が一人居たである。


ヴィンス(ここで乗る!?)

「ドスンッ!」


 ヴィンスは雷撃に乗ることすら出来ず凍った地面に滑って転ぶ人の様に何度も尻餅をついていた、オリビアの助言を我が物にしようと躍起になってはいるのだが簡単にはいかないものである。


ラヴ『アンタさっきからな〜にやってんのよ!』 


 見兼ねたラヴがヴィンスを激しく叱責した、強敵を前に部隊長がやらかしているのである至極当然であった。

 だがそんなヴィンスを長年観てきたラヴは彼がなんの意味もなく行動を起こす事が無いことも深く理解している。


ラヴ『今回はなんなのよ!?簡潔に述べなさい!』

ヴィンス『いかずちに乗りたい!だが滑って乗れない!』


 ラヴは呆気にとられて顎が外れるほど大きく口を開いていた、通常ならば頭に一発御見舞しているところではあったが状況が状況である為にラヴは6秒間我慢した…


ラヴ『ヴィンス君…勢いついたモノにいきなり乗れば足だけ持っていかれてバランス崩しますよね!解る?じゃあ先に自分も勢い付けとけば持ってかれるのマシになるんじゃないですかね!?なんの事言うとんのか知らんけどな!!』


 半ば呆れて半ばキレ気味に言い放たれたラヴの言葉だった、しかし焦る気持ちが先行し冷静さを欠いていたヴィンスには充分な助言になった…ようだ…、ただ足元をすくわれひっくり返ってばかりいたヴィンスは雷にから雷に様な感覚を掴み取ろうとしていた。


ベクター「ええいっ!目障りな小バエ共め!ライオネル!何とかしろ!」

ライオネル「陽の高いうちは遠慮したかったのですが…やむを得ませんね!」


 巨体が故に小さな標的を捉えられずに苛立ちを募らせるベクターはライオネルに大声で叱咤するとライオネルがスカルの影からユックリと浮上する様に現れそれと同時に闇に隠れていたゾンビ達もゾロゾロと建物の外へと動き出した。


ライオネル「コールスの虫ケラどもよ!私の姿を拝覧出来る事を光栄と思いなさい!我が名はライオネル!(スケルトンではなく)リッチである!!」

ラヴ「ライオネル…リッチ…だと…」


 その場にいる者たちはその名を聞いて超有名な世界的吟遊詩人を思い浮かべていたが誰も口にはしない…


ライオネル「フフフ…驚愕のあまり声も出ぬか…ならば貴様らに嘆きの歌をうたわせてやる!過放電オーバーディスチャージ!」

ラヴ「吟遊詩人だけに歌に掛けたのね!」


 ライオネルはバンパイア達の羽根を焼いた過放電を放つが強者である黒傷は兎も角ヴィンス隊の面々も辛うじて避け直撃を喰らわずにいた、ヴィンス隊には雷撃使いのヴィンスが居る!日頃の訓練で雷撃の対処法を学び雷撃に対する恐怖心をも克服するヴィンス隊に無差別に放たれる放電など恐れるに足りなかったのだ。


ラヴ「当たらなければどうということはない」

ライオネル「ほぉ〜過放電を避けきるとは中々やるではないか!」

ベクター「おいっライオネル!お前の放電でゾンビ共が殺られとるではないか!!」

ライオネル「な…何いっっっ!!」


 言うまでも無い…ヴィンス達を狙って放たれた過放電だ、ヴィンス達の周りに迫るゾンビ達にも当たる事は当たり前である。


ライオネル「小癪な奴らめ…ゾンビ共を盾にするとは…」

ベクター「………」

ローサ「あの骸骨、自分の仲間を倒してるね!バカだね!」

ラヴ「こいつ本当にリッチなのか…頭悪過ぎだろう…」

ライオネル「ならばこれはどうだ!岩石含竜巻ロック・イン・ツイスター


 ライオネルの周りには岩石を含んだ雲にも届きそうな数本の竜巻が現れヴィンス達を追尾し始めた、竜巻に巻き上げられたゾンビ達は岩に弾かれ風に切り裂かれ見るも無惨に塵へと姿を変えていった。


ベクター「だ〜から!範囲魔術は使うな!」

ライオネル「えーいっ!細々と煩いやつだなっ!我は派手な魔術が好きなのだ!!」

ベクター(此奴強力な魔術使いだからと見逃していたが…基本的なところが馬鹿だったのか…)

ラヴ(しかし奴の魔術の一つ一つは人族の軍隊相手なら相当やばい代物だ…アイツが馬鹿でよかった…)


 ライオネルは決して馬鹿なのではない…雑魚兵の事など微塵も考えていないからだと考えて頂きたい。

 

ライオネル「…ケッ!ならば一体ずつ始末すれば文句はなかろう!?一人ずつ氷漬けにしてやろう!」

「ピキィィィィン!」


 ライオネルが掌を向けた先の地面に魔法陣が現れ其処から突然氷柱が出現し辺り一帯のゾンビ達を氷柱の中にのみ込んだのだ。


ヴィンス(クリスの氷結に似ている…)

ライオネル「狙いが難しいのだ…」

ベクター「構わん!其れなら被害も少なく済む!それでいけ!」


 同士討ちでゾンビの数を減らす思惑は頓挫しヴィンス達はライオネルの魔術を避けながらスカルドラゴンに対峙しなければならなくなった、そして建物の中からは未だゾロゾロとゾンビが溢れ出し辺りの街道を埋め尽くしヴィンス達を包囲する勢いだった。


 ライオネル&ベクターの凸凹コンビに何気に追いつめられるワンチーム!

 ヴィンス達はこの危機を脱する事が出来るのか!?



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