第13話 見た目と中身が比例する人間っているよね

 いつもの通学路を、いつものクロスバイクで駆け抜ける。

 駅近くにある市役所前の長い信号を待つのもいつも通り。


 違うのは今日が土曜日ってことくらいだ。


 いつもなら制服で通る道も、今日はチェーンの服屋で買った涼しいと評判のTシャツにパンツという超シンプルなファッション。


 ……ファッションなんてわかんないんだよ、ちくしょうめ。


 しかしだ。涼しいと評判の服装をしているのに汗が滴りでやがるのは、昨今の深刻な温暖化が問題だよな。


 くそ。せっかくのデートなのに、こんなに汗だくじゃ第一印象は最悪だ。


 美ヶ丘北高校は駅よりも北にあるため、いつもなら通り過ぎるはずの駅前のロータリーで自転車から降りる。

 一時預かり所へと自転車を預けた。


 おっちゃんに小銭を渡して、領収証みたいなものをもらう。それをポケットに入れて、待ち合わせ場所へと歩いて行く。


「時間は……めっちゃ余裕だな」


 時計代わりにスマホを見る。現在八時三〇分。約束は九時に駅改札前なので随分と余裕だ。


 スマホを見て思い出す。まさか、あの出雲琴とメッセージのやり取りができる日が来るとは思いもしなかった。ま、向こうは絵文字もスタンプもないあっさりとした文章を送って来たけどね。


『土曜日は九時に高槻駅の改札前でも良い?(絵文字キラキラ+スタンプ)』


『わかった』


 以上。


 こりゃ、脈はないぞって言いたいのかね。傷つくな。


 そんなネガティブなことを考えながら、駅の改札が見えて来る。


 ちょっと早く着いちまったな。楽しみにしてたって思われるかも。


 まぁ、実際はそうだし、女子を待たせるより全然良い。日夏が来たらなんて言おうか。


「全然待ってない」


 ふぅむ、王道的過ぎるな。


「おせぇよ。ほら、行くぞ」


 あかん、あかん。オラオラ系なんぞ今時流行らない。


 「流石は美女。男を待たせるのが仕事だね」


 うんうん。これで良いや。なんだかとっても俺らしい。嫌味臭いところとかまさに俺だよな。あ、はい、自分で言ってて傷ついてしまった。


 放つセリフが決まったところで目を疑った。


「──うそやん」


 俺の嫌味な予定はすぐさま打ち砕かれてしまう。


 改札前には、学校のスタイルとは違い、眼鏡を外して三つ編みを解いた日夏八雲が既に待ち合わせ場所に立っていた。


 白のロゴTシャツにカーキのショートパンツを合わせたカジュアルスタイル。足元のサンダルが夏らしさを表している。


 彼女がこちらに気がつくと、軽く手を振ってくれるので急いで彼女の下へと駆け寄る。


「こんな美女を朝から待たすなんて、良い男ね、四ツ木くん」


 くっ。俺が言おうと思ってたセリフに近い言葉が飛んで来ちまったから、負けた気になる。


「デートの待ち合わせ三〇分前以上に来ている日夏が良い女過ぎるんだ」


「見た目と中身は比例するを証明できたわね」


「ただの最高の女かよ」


 控えめにピースサインをよこすと、やっぱりちょっと恥ずかしかったのか、はにかみながら言い訳をされる。


「げ、芸能界は色々と不規則だからね。朝早いのには慣れているのよ」


「いつ来たんだ?」


 日夏は左腕にした可愛らしい腕時計をチラリと見る。


「三〇分前?」


「早すぎるだろ。待ち合わせの一時間前に着いたのかよ」


「待機時間だって仕事だから、待たされるのだって慣れっこよ」


「もしかして、俺とのデートを楽しみにしてたとか?」


「なっ……」


 小さく声を上げると、ちょっぴりだけ顔を赤らませて、ビシッと指を差してくる。


「勘違いしないで。あくまでも今日はこの前のお詫びなんだからね」


「ですよねー」


 わかっていたことなので、そこまでのショックはないため、軽い口調で返しておく。


「で、でも、四ツ木くん。お詫びのデートといえど、楽しませてくれなかったら、しょうちしないからね」


「あいあいさー。じゃ、そろそろ電車も来るみたいだし、行きますか」


 改札の上にある電光掲示板を見ると、あと数分で目的地へ向かう電車が来るみたい。


「ところで、今日はどこに連れて行ってくれるの?」


 そういえばまだ目的地を話していなかったことに気が付く。お眼鏡にかなわなかったら帰られてしまうからな。ちょっぴり緊張しながら声を出す。


「神戸に行こうと思って」


「神戸。良いわね」


 軽く言い放つと隣に並んでくれる。


「どうかしたの?」


「いや、デート場所が日夏のお眼鏡にかなわなかったら帰られるから、ちょっと緊張してな」


 素直に言うと、「ぷっ」と小さく吹き出した。


「そんなの冗談に決まってるじゃない」


「そうなの?」


「そりゃ、いきなりお家デートとか誘われたら警戒するけどね」


「流石の俺でも、いきなりは誘わないさ」


 彼女は楽しそうに、「ふふふ」と笑いながら言って来る。


「なに? 私に帰られないように必死にデート先調べてくれたの?」


「ほっとけ」


「なに、その反応。四ツ木くんって可愛いわね」


「うるせーよ」


「ほらほら。プンプンしない」


「させてるのは誰だよ」


「さ、行こう。四ツ木くんが必死に調べてくれた神戸デートへ」


「こんにゃろ」


 いじられながらも、どこか楽しく、俺達はICカードを自動改札にタッチしてホームへと向かった。

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