見える子と魔女と■/02


「……疲れた」


 入学式のあとのホームルームは流れるように直ぐに終わり、友達もできる気配もなく私は真っすぐ最寄りの駅へと向かう。


 校門をでて徒歩にして11分遠いようで近い駅までの道を歩く中で、

声も名前も知らない同級生が1人1人曲がり角やバス停に立ち止まりどんどんと少なくなり

最終的に駅に着くころには私以外生徒1人も電車通学をしている人が居ない事に気づく。


 バス停に何十人も並んでいた理由が分かったが、電車の利用者数が少なすぎるというよりも皆無だ。


 駅構内へ入り私は1人でベンチに座りながら1時間に4本しか出ていない電車が来るのを十分待ちようやくと遠くから音を立てて電車がやってきた。


 電車に乗り込むと朝の通勤時間ではないからなのかそれとも元々乗車率が低いのか、車内に女の子が一人いるのをよそ眼に、入学式で疲れ切った私は椅子に座り込みながら目を閉じた。


 だが、私が目を閉じる瞬間に見えた”有る物”に引っかかりを覚え、閉じたばかりの目を開け女の子へと視線を向ける。


 背格好からして小学高学年くらい身長でボブカットの女の子で、年齢から似つかわしくない動物を模した人形のバッグパックが気になった。


『どっかで見たような……』


 バッグバックの前カバーが大きなまん丸お目目が印象的な顔の部分、荷物が入っている所がぷっくりとしたお腹、小さいがしっぽがあり、ちょうど少女の腰下あたりに重なり有っているから本当に生えているような見える。

 私はメガネをかけ直し思い出せず頭を巡らせていると電車がカーブしたところで目を疑った。


 なぜなら女の子は微動だにしなかったからだ。


 電車でカーブをすれば少なくとも体に重力を感じるはずなのに女の子は動かないだけでなくバッグパックも動かなかった。


 私は驚くと同時に、人形と目が合い人形がまばたきをした。


「!!」


 私は人形の正体を思い出し驚きの声を上げそうになった瞬間、女の子は後ろ向きの状態で迫ってきた。


 女の子は音もなく歩くではなく浮いているかのようにバッグバックに引きずられるような形で私の目の前まで近づき口元をモニュとした押さえつけてきた。


 恐怖よりも何が起きているか分からない。

 バッグバックの人形と私の距離は10㎝もない。

 そしてバッグバックの前カバーがパタパタと動き出した。


「声を荒げるな、食いはしない。安心しな、いいな。とにかく声をあげるな」

と言い、私は返事の代わりに何度もうなずいた。


「よーし」

「人形が女の子で!本体!」

「こーら。混乱するのもわかるけれど、声をあらげるな」


 人形の手にしてはのゴム風船の中に水を入れたようなフニフニした手で頭を叩かれる。

 痛くはないが何だかその振る舞いが現状に納得は一切していない私を大人しく落ち着かせた。


「よーし、落ち着いたな」

「うん……」


 人形の正体は昨晩見たベルの音を響かせていた動物の方だった。

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