第3話 姉は抜けてて甘えん坊
「ゴブリンの討伐?今更ですかぁ?」
昼間の冒険者ギルド、そこで依頼書を見ていた俺達三人に受付嬢の人が頼んますと手を合わせてそう言ってきた。異世界・現実共通のお願い作法なんだな、それ。
「ドラゴンの討伐は見事見事の大活躍。素材もたっぷり手に入って、ギルドもかなり潤っております」
「でしょうな」
鼻が伸びる。
「そんな大業績の立役者・ヒサミチさんにこんなしょーもない依頼を受けて貰うのはあまりにも心が苦しいです・・・」
「でしょうなぁ」
更に鼻がぐんぐん伸びていく。
その上、俺は信じられないぐらいふんぞり返りながら話を聞いている。周りのおっさん冒険者達は「転ぶぞ」「お姉ちゃんに手で支えて貰うな」「こういう所なけりゃいいんだけどな」など好き勝手言ってる。
「ですが、ですが、ヒサミチさんなら受けてくれると信じてます。だってこのギルド一の冒険者ですから!!よ、スーパースター!ドラゴン殺し!イケメン!!」
受付嬢がごまをすりすりしてくれるので機嫌良くなってしまう。おだてられたら人はちょっとぐらい面倒くてもやってやりますかな・・・になるのである。
「んー、了解しました。いいでしょう、引き受けましょう!!」
周囲のおっさん冒険者も「こっちの受付業務して欲しいからさっさと引き受けろよ」「妹さんも支え始めてるじゃねえか」「体、地面に対して45度になってるぞ」など素敵な応援コメントがこっちに来る。
「では、はい!よろしくお願いします!!」
受付嬢も既にクエスト受けるのを知ってたのかぱっぱと処理を済ませて業務に戻る。さっきまでは褒めてくれたのに既に仕事モードになっている。あっさり過ぎて少し寂しい。
妹と姉が背中を押して立たせてくれる。ついつい頼ってしまう。
後ろを見ればにこにこと笑っている二人。あれほど恐ろしい感じだった姉と妹にもなんか慣れてしまった。
本当に血の繋がった家族だったりしたのかもしれない。
――――――
ゴブリンはドラゴンがいた森、その近くの草原地帯に住み着いていた。
「おお、すげえな」
短い草が一面に生えて真っ青な空と雲。あまりにも清々しい。深呼吸をしているとドンドンと地ならしみたいな音が鳴る。
「まてー」
姉である。制服を着た黒い姉がゴブリンを捕まえてはぶん投げて潰している。長く大きな姉はますます大きくなっており、比べるものが無い草原であることも合わさって異様にでかく見える。
ってか本当にデカい。
「久通くーん、ほらー、もうすぐ終わるよ」
手を真っ赤に染めた姉がえへへと手を振っている。顔の闇は少しばかし剥がれてその下にある人の顔が見える。真っ白な素肌に病的な美しさ。
・・・やっぱ血の繋がった家族ってのは嘘だな。だって顔の造形が全然違う。
「お姉ちゃんも頑張ってるね」
制服を着た妹は俺の隣でうーんと背伸びしている。こちらも異様に綺麗である。実は俺も本当にイケメンかもなと思って剣を抜いて顔をうつす。・・・うん、冴えない男が一人いるだけである。
「兄ちゃん何やってるの?」
「いや、もしだよ、もし血が繋がってたら俺がイケメンである可能性もあったかもと思ってな」
「兄ちゃんはイケメンだよ?」
家族の贔屓目だぞと言いそうになるがナチュラルに彼女達を家族と思い始めている。いけないいけない。あの女神を殺した事を思い出せ。
いや、よく考えたらけち臭い女神だったな。それになんか馬鹿にしてた感じもあった。何より前世の記憶もいまいち復元してくれなかったな。不満ばかり出てくる。案外、冷たい奴なのだ。俺は。
「どしたの?さっきからボーっとして、お姉ちゃんに見蕩れてたとか?」
「・・・まあ、多少はね」
「だったら直接言ってあげてよ。お姉ちゃーん!!」
「なーにー、今行くー」
遠くの方から仕事を終えた姉が帰ってくる。大きさは元に戻っている。それでも俺よりデカい。
「お姉ちゃんは妹ちゃんと違って難しいことはそんなに色々考えられないからさ。こういう時に活躍したいんだ。はい!」
その手にはゴブリンの亡骸が圧縮されて握られている。血まみれの球体。それが地面にごろんと転がる。そして、妹が姉を手招きする。姉が体を屈めると妹が耳をつけてごにょごにょと話しだす。
満面の笑みになる姉。
「えーーー、久通君!!もーー、お姉ちゃんに見蕩れてたのーー!!へへ、へへ、なんか嬉しくて、涙が出てきちゃった・・・へへ」
ボロボロと涙を流す姉。
顔を手でこすると血が付いて涙と混ざる。青い空、緑の草原、白い顔、赤い涙、黒い姉。確かに見惚れてしまう。すると妹が近づいて抱き付いて来る。
「ねえ、次のクエスト早くやろうよ。今度は私がやる」
「妹ちゃんってば妬いてるの?可愛いね。よしよし」
「姉ちゃん手に血が付いてるって!」
わちゃわちゃしている二人を見てると昔を思い出す。いや、前世の記憶は無いから多分存在しない記憶なんだろうけど。
――――――――
【生前】
「ここに入っときなさい」
村の偉い人にそう言われて俺は社の中で寝ていた。とんでもない事をしてしまったのは分かっているだがここまで大事になるとは。
「マジでどうすりゃいいんだ・・・」
「どうしたいの?」
起き上がる。背中から声がした。それは床下に何かいるという事である。覗くと目が合う。いや目は合ってない。そこには真っ暗な闇があってそこに目が浮いている。そんな感じだった。
「うわあ」
小さな悲鳴も出ずにただ驚く様な声だけ。そして、下がると扉の外に何か大きな存在がいる。のそ、のそと動いているそれは天井や壁の隙間からこちらを覗いている。
さっきと同じ闇の中に目玉が浮いている。そして、それは同時に俺に向く。
目が合ってしまう。
「ねえ、何がしたいの」
「したいこと教えて?なんでもやってあげる」
俺はただその場に立ちながら目を合わさないよう隙間以外を見る。社に張られた無数の御札、大量の文字が書かれた柱、俺の手足に付いている数珠、そして俺の手に握られた石の欠片。
俺はただその場で固まって夜が過ぎるのを待つだけだった。
――――――
気が付くとすっかり夜が明けていた。俺は言われたとおり、扉を開ける。そこにはあの二人はいなかった。一安心する。
そして、少しばかし歩く。深い森の中、朝日の明るさで目が焼ける。俺が細めになりながら目的のものを探す。
すぐにそれが見つかった。
壊れた古ぼけた祠。石造りのそれは年期こそ入っているが自然に壊れるようには出来ていない。俺は握っていた石の欠片をそこに置いて手を合わせる。
「・・・すみません、俺が悪かったです。許して下さい。どうか、どうか」
「なんで謝るの?」
目を開けるとそこには黒い小さな女が立っていた。逃げようとするが背中を誰かが掴んでいる。ゆっくりと体が倒れ込む。後ろの誰かが見えてくる。黒く大きな女だった。
「そうだよ、感謝してるんだよ」
「そう、感謝してるんだよ」
二人はそう言い続けている。話が違う。
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