異世界転生してから【姉と妹】に言われるがまま無双し続けている
床の下
第1話 姉と妹のお陰で今がある
「兄ちゃん、そこそこ」
「久通君、頑張れ」
「よっしゃ!!これで!!終わり!!!」
森の中、俺の鋼剣がドラゴンの首を吹っ飛ばす。サポートしてくれていた周囲の冒険者も騒ぎながらこちらにやってくる。
「おお!!遂にか!!」
「やっと死んだかこいつぁ!!町の人間食いまくってからに!!」
「素材剥ぎ取るぞ!!三日掛かるぞ!この大きさは」
「ヒサミチ、ようやってくれた!!報酬たっぷり渡すからな」
「ヒサミチのお姉さんに妹さん、お二人もありがとうな」
「いえいえ、私達は何も。久通君が全てやったことですから」
「そうそう、兄ちゃんは凄いんだよ!」
俺の背後にいる二人がそう謙遜すると冒険者集団のリーダー格であるおっさんがうんうんと頷いている。
「いやー良く出来た、ご家族さんだよ。ヒサミチ!お前、結婚する時が大変だぞ。こんな良いお二人を上回る子なんてそうそうおらんぞ」
「いや、はっは」
俺の軽い調子、背中をバンバンと叩くおっさん、うんうんと頷く二人。何事も上手くいっている。そう問題は無いのだ。だが、疑問はある。
俺の背後にいる姉と妹を名乗るこの二人、俺はこいつらについて何も知らないのだ。
――――――
「目覚めなさい、井下久通」
目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。おお、記憶が曖昧だ。よくある異世界転生じゃんと思いながら目を覚ますとマジでよくある異世界みたいな女神がいた。服装もギリシャ神話のあの白い奴みたいなのである。
「あなたは現実でトラックに引かれました。ですが、その死は本来の死ではありません。なので異世界でのやり直しを許しましょう」
「おお・・・凄い、ここまで聞き慣れたフレーズだけだと逆にビビるわ」
女神にはあ?と言われてしまう。だが、本当にたまに読む異世界転生物と似たような感じなのだ。もう予習復習も完璧に出来ている。こっからの流れも大体分かる。
「じゃあ、ここは一つなんか素敵なスキルやマジックアイテムなどをお願いしますよ」
ゴマをする俺、それを見て溜息を吐かれる。
「・・・何を言ってるのですか?あなたには第二の人生を与えたではありませんか。それで十分でしょ。さあ、行きなさい!その命を賭して魔王を打ち倒すのです!」
しみったれてるなと思いながら女神が指さす方を向く。そこには扉がある。そこを抜けたら異世界だろう。でも多少不安はある。なんせ裸一貫で向かうのだ。
「あの、じゃあせめて武器だけでも・・・」
振り向くとそこに女神はいなかった。いや、女神のいた場所。そこには巨大な血だまりがあった。真っ白な空間に鮮烈な赤、そしてその上に二つの影があった。
一人は俺よりも背が高い女。髪は真っ黒で古めかしい黒の学生服を着ている。そしてその目からボロボロと涙が落ちている。
もう一人は俺よりも小柄の女。髪は抹茶色で同じく古めかしい黒の学生服を着ている。そして、ケタケタと笑っている。
「・・・誰?」
「悲しいなぁ、覚えてないの?お姉ちゃんだよ?」
「笑っちゃうね、私だよ?お兄ちゃん」
いや、一人っ子だし・・・父も母も真面目で頑固。隠し子とかもあり得ない。二人は血だまりからゆっくりとこちらに近づく。
二人の背後に隠れていた。
それは・・・女神の死体。
手足はへし折られてその顔は苦悶の表情だった。
「うお、うおおおおお」
情けない声を出しながら扉に向かって走る。が、ぺたぺたぺたと足音が近づく。
「兄ちゃん、安心してよ。チートもスキルもマジックアイテムも何だって手に入れてあげる」
「そうそう、どんなモンスターも怖くない。全部、私達が解決してあげる」
後ちょっと、後ちょっとで入り口。その時、二人に手を掴まれる。終わった・・・と思うが手が前に引っ張られる。二人の姿が目の前に現れ、扉に入っていく。
恐ろしく白い肌、整った顔立ち、そして口元は女神の血と肉がべっとりと付いていた。
「「さあ、行こう!!」」
――――
【生前】
「来るな、来るな、来るな」
俺は必死になって逃げ続けている。手にはビニール袋に入った酒。もうこれ無しでは夜も眠れないのだ。俺は一本取りだしてそれを飲む。ふらふらとした足取りだが、それでも飲まない選択肢は無い。
「危ないよ、お酒飲んで走ったら、転んだら怪我しちゃう」
真上から声が聞こえる。見上げる。それは長い長い黒い女。俺の通っていた高校の学生服を着ている。ぽつぽつと降ってくる。雨じゃ無い。それはこいつの涙だ。
「五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い、黙れ黙れ黙れ」
「はは」「どうして」「どうしてどうして逃げてるの」「私達はただ」「あなたと」「一緒にいたいだけなに」
周りから聞こえる無数の声。走りながら横見ればそこにそいつはいる。まるで独楽のように回る小さな小さな黒い女。声の主は全てこいつ。その口から沢山の人の声が聞こえる。
「頼むから消えてくれよ、マジで頼む」
上から声がする。
「いやいや、絶対いや、ずっとずっと側にいる、好き好き大好き」
周りから声がする。
「ずっと一緒、死ぬまで一緒、大好き好き好き」
もう勘弁してくれ。もう無理だ。俺は片っ端から酒を飲んで脳味噌をふやかす。恐怖心も薄れ、彼女達の触れる感触も鈍くなる。俺はそのまま走り続け、車道に飛び出す。
「ああ・・・あああ・・・」
「いやぁ・・・いやぁ・・・」
二人が手を伸ばす。必死にそれから逃げてると目の間が明かりに埋め尽くされる。
けたたましいクラクション、向かってきたのは・・・トラック。
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