第10話 救出作戦
「ルリ様。息子のソラです」
ルリが4歳の頃。屋敷にきた使用人の夫婦にはルリと同い年の息子がいた。
「ほら、ソラ。ご挨拶して」
歳より幼く見えるその子は、オドオドしながら頭を下げた。
「ソラです」
一生懸命名乗る姿は好ましく、ルリは手を差し出して自分も名乗った。
「ルリだ。今日からよろしく頼む」
差し出された手を握ろうと一歩を踏み出したところで、ソラが転んだ。
目の前に転がる小さな頭に驚きながら、ルリは手を掴んで起き上がらせる。
「大丈夫か?」
泥だらけの顔にキラキラした目が輝いていた。どんくさい自分を躊躇せず助けて心配してくれるルリに、ソラは尊敬や喜びをたくさん詰めた目を向けていた。
その目を見た時、ルリの心に初めて矜持というものが芽生えた。
「ルリ君、もうすぐ着くよ」
マイトが運転席から声をかける。昔の思い出に浸っていたルリはその声で意識を現在に戻した。
「はい。ありがとうございます」
「しかし、本当にヒスイ君の案に乗るのかい?普通にソラ君に会って話せばいいじゃないか」
「アイツの行動には少々怒りを覚えていますので。これくらいの仕返しはしてもいいでしょう?」
「……俺はルリ君を怒らせないようにするよ」
ハンドルをきりながらマイトは苦笑した。
「ルリ様が敵にとらわれた⁉︎」
トーカとヒスイに会ってから1週間。ソラはミリッサに呼び出され、とある町に来ていた。
「そうだ。昨日、ある任務の最中にな。それが終わったらお前に会わせようと思っていたんだが」
ミリッサの顔が暗い。よほど事態は切迫しているのかとソラは不安になる。
「あの、俺にできることってないですか!何でもします!」
「ああ。そのために君を呼んだんだ。今から我々は彼の救出作戦を実行する。もちろん来てくれるな」
「はい!」
ソラは力強く手を握りしめる。一刻も早くルリを助けたい。はやる気持ちをなんとか抑えるソラを見て、ミリッサは気づかれないように笑った。
「あ、来た来た。ソラ!ミリッサさん!こっちこっち」
「あれ?ヒスイ?なんでここに?」
「俺も作戦に加わるんだよ。ソラにルリを会わせるって約束したからな」
ミリッサに連れて行かれた先には、マイトやトーカ、それに組織の人間と思われる人間が何人もいた。
「そうか。ありがとう。ルリ様が無事ならいいんだけど」
「大丈夫だよ。ソラが助けに来たんだから」
ヒスイの笑顔にソラは不安が小さくなるのを感じた。
不思議な子だなとソラは思う。たぶん彼が与える安心感は、彼の立場ではなく人柄からくるものなのだろう。
ソラはヒスイのことがとても好きになった。
「では作戦を説明する。目的はいたってシンプルだ。あの建物の中にいるノゼ・ルリを救出すること。この1点だ」
ミリッサが前方にある大きな建物を指差す。
「入ってすぐが大広間になっていて、そこに敵が30人ほどいることが確認されている。その奥にある部屋にノゼ・ルリがいる」
ソラが再び手に力を入れる。
「ノゼ・ルリの救出はこのソラが行う。あとの者はソラがノゼ・ルリを連れて建物を出るまでの間、敵を足止めすること。以上!」
ソラが「え?」と戸惑う。まさかいきなり連れてこられた自分にそんな大役が任されるなんて思っていなかった。
「ソラ、任せたぞ!」
ポンと肩を叩いてヒスイが建物に向かう集団の一番前についた。
ソラは戸惑いながら集団の後方に紛れ、建物を目指す。
「なんだお前らは!」
「何しに来た!」
建物に突入すると、ミリッサの説明通り屈強な男達が何人もいて襲いかかってきた。わかりやすく怒声をあげて向かってくる男達に、まともな戦闘経験のないソラは体がこわばる。
でもルリのためだと必死に自分を奮い立たせ、他の人達が男達の相手をしてくれてる間をぬって奥の部屋を目指す。
『あそこだ!あそこにルリ様が!』
辿り着いた扉を開ける。中央で会ったままの姿が部屋の中にあった。ソラは部屋に転がり込んだ勢いのままルリに手を伸ばす。
「ルリさ………」
「こんの馬鹿!馬鹿ソラ!」
突然飛び出した怒声にソラはかたまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます