サイレントエンジェル 〜役に立たない空間魔法?いえいえ、十分チートですよ〜
@Alphared
第1話 出会いは突然に
えーっと、何がどうなってるわけ?
まずは場所……見知らぬ森の中。
自分の服装……動きやすさを優先した、少し大きめのセーターにジーンズ。
デートならスカートも穿くが、残念なことにコンビニに行くだけのつもりだったので色気も何も無い。
周り……十数頭の大きなワンちゃんに囲まれて………うん、現実を見ようか。信じたくないけど、あれはワンちゃんなんて可愛いものじゃなく、立派な狼だね。しかも獰猛そうで、今も、グルル…と牙をむき出しにして威嚇している。
そして目の前……私を庇うようにして立っている、10歳ぐらいの女の子。
アッシュブロンドのゆるふわなウェーブがかかった髪が、陽の光に透けてとても綺麗。
「#¥@…?!?¥¥##@##¥;……」
その少女が私を振り返って何やら叫んでいる。
危ないっ!
少女が私の方に振り返ったのを隙と見たのか、一頭の狼が飛びかかってきた。
ガシッ!
少女が振り回した棍棒が、大きく開けたオオカミの口にぶつかる。
それ以上突進できなくなった狼だが、同時に少女も身動きが取れなくなる。
それを機とみた狼達が、容赦なく少女へと飛びかかる。
「ダメッ!」
ガブッ!
私は無意識に少女の前へ飛び出す。
同時に無意識に突き出した腕が、狼の顎に捉えられ、二の腕に鋭い痛みが走る。
「¥@#!>^@¥#:%¥!」
少女が手にした棍棒(咥えている狼がついたまま)を振り回し、私に喰らいついている狼を殴り飛ばしてくれる。
助かった、と思う間もなく、次の狼のアギトが迫ってくる。
少女は、さっき私を助けるときの反動で棍棒を失っていて、尚且つ体勢を崩している。
……コレ、アカンやつだ。
逃げることも出来ず、数瞬後にはあの牙でズタズタにされる未来が思い浮かぶ。
(逃げるのよっ!)
どこからかそんな声が聞こえるけど、逃げられるなら逃げてるってばっ!
(あなたには力を与えたでしょ!)
……力って……何言って………あっ!
唐突に脳裏に浮かぶ。
目の前には迫りくる狼、その向こうにはオオカミたちの群れ。さらにその向う側は………。
『転移!』
無意識にそう叫ぶ……私を庇ってくれた少女を抱き抱えたまま……。
気づけば目の前の狼の姿が見えない。
そっと振り返ると、私達が急に消えて驚き戸惑っている狼たちの群れ。
……何がどうなっているか分からないけど……。
取りあえず出来る事をしよう。
と、私は少女を抱っこしたまま、森の中を走り抜けたのだった。
・
・
・
・
・
「はぁはぁはぁ……ここまでくれば……。」
私は少女に抱きかかえられながらそう呟く。
……仕方がないじゃない。
小さいとはいえ、人一人を抱きかかえて走る事なんてできないわよっ。
ぬるま湯の平和の中で生きてきた現代日本人の軟弱さを舐めないでよねっ!
そう、走りだしてすぐに、体力が尽きた私を、この少女が抱き上げてここまで走ってきたのだ。
……って言うか尋常な体力じゃないよね、この子。
この世界って、みんなこの娘みたいなのかな?だとしたら、私無事生きていけるのかしら?
先程はいきなりの事で少しパニックを起こしていたけど、少女に抱きかかえられて移動している間に落ち着くことが出来て、少しだけ思い出すことが出来た。
◇
「はぁ?」
私は思わず声を漏らす。
想定以上に声が低くなってしまったのは、この際仕方がないだろう。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
目の前で、ひたすら謝罪を繰り返す、少女?の姿を見ていると、なぜか自分が虐めている様で、余計に気分が悪くなる。
というか、私は女の子を虐める趣味はない……はず……。
「えっとね、謝罪はもういいから、状況を説明してほしいんだけど?」
「あ、ハイっ、ごめんなさい……。」
再び謝罪を始める少女を止めて、無理やり話を進め、得た情報は以下の通りだった。
まず、目の前の少女は、セレスティーナと言って女神様だそうだ。
セレスと呼んで欲しいといわれたので、以降、そう呼ぶことにする。
セレスの仕事は、地球を含む、この辺り世界で死せる魂を浄化し、しかるべきところへ送り届ける、という、いわゆる「死神」の役割を担っていたという。
死神と言っても、彼女自身が殺して回るのではなく、死んだ魂が迷うことのないように導いてあげるだけの簡単なお仕事……の筈なんだけどね、なぜか死んでもいない、それどころか、稀に見る長寿の運命だった人間の魂を、突発的な自殺者の霊と間違えて導こうとしちゃったらしい。
慌てて戻そうとしたのだけど、本来死ぬはずだった自殺者は、奇跡的に助かり、なんの関係もない他人が、いきなり突然死、と、時空の流れが決まっちゃってどうしようもなくなり、こうして間違えて死なせてしまった魂……つまり私に謝罪しているというわけ。
……ってか、ふざけないでよねっ!
花の16歳、人生これからって時に、間違えて突然死って何っ!まだ恋もしてないんだよっ!
責任者出て来いっ!
そう喚いたら……出てきたんですよ、責任者……つまりセレスの上司にあたる女神様が。
で、結論から言えば、私が日本で生き返るのは無理。代わりに、私が趣味でよく読んでいた物語の世界観によく似た世界で生活させてくれるという。
そんなのが代わりになるかぁっ!と言ってはみたものの、無理なものは無理なので、せめてもの償いとして、私がその世界で暮らすうえで、最低限の不便がないようにサポートをつけてくれる、ということと、お詫びとして特別な力を一つだけ授けてくれる、と言うことを了承させた。
最低限のサポートというのは、言葉や、未知なる細菌などに対しての免疫とかそういうの。
言葉が通じないのは困るし、現地の人には免疫があって無害だとしても、日本にはない菌に対しその免疫がないためにポックリと逝っちゃうなんてバカらしいじゃない。そういうことがないようにしてよ、ってこと。
特別な力ってのは、言うまでもなく、お約束のチート能力デス。
ただ、一つだけっていうのはケチくさいよね。
しかも『好きなスキルを生み出す力』とか『何でもコピーして使える力』とかはダメなんだって。
他にも思いつく限りの、裏技的な能力を言ってみたけど、ことごとく却下されたわ。
何でも、って言ったのに嘘つき!
……そう言おうとしたら、女神様の顔が怖かったので、慌てて口をつぐみました。
ウン、世の中にはね、逆らっちゃダメな相手って言うのが存在するんだよ。
結局、女神様の圧力に屈した私が辛うじて選んだのが空間操作の力。
なんでも、私が送り込まれる世界には魔法が存在していて、その中でも『時空魔法』と呼ばれる、ほとんど使い手がいない、超レアな能力なんだって。
ウン、超レア、いいじゃない?
……決して「超レア」という響きに釣られたわけじゃないよ?
『それでいいですね。ハイ決定。じゃぁ良き人生を!』
女神様が早口にそう言ってタクトを振ると光が溢れる。
「ちょっ、まっ…。まだ…聞きたい…こと………。」
……私が覚えているのはそこまでで、光に飲み込まれた私が再び意識を取り戻したら、狼さんたちに囲まれていた……ってわけ。
『%#¥@;!?#%¥』
私を抱えている女の子が、何か言ってる……けど何言ってるか分からないよ。
……と言うより、眠い……。
そういえば、腕に怪我してたような……。
思考がまとまる間もなく、私の意識は闇へと堕ちていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます