第48話 VSヴァッサー
グラウンドにぐったりと横たわる赤い竜グレンプニール。必死に立ち上がろうとしているが、その動きはひどく緩慢だ。そんなグレンプニールにライトブルーの竜ヴァッサーが近づいていく。
ヴァッサーが止めを刺そうと右腕を振り上げた瞬間、グラウンドに轟と炎が走った。ヴァッサーが後ろに飛び退くようにグレンプニールから距離を取るとこちらを向く。オレにドラゴンの表情は読めないが、その顔には驚愕が浮かんでいるような気がした。
「チッ」
外したか。
オレは舌打ちと共に『フィジカルブースト』で自身の身体能力を強化し、ヴァッサーに突撃する。その際に、グレンプニールに『復活の炎』をかけるのもの忘れない。時間はかかるが、グレンプニールを治癒してくれるはずだ。
オレは臆病だからね。ドラゴン相手に独りだけで戦おうとは思わない。グレンプニールが戦線復帰してくれれば、二対一になる。オレはそれまで適当にヴァッサーの相手をすればいいのだが……。せっかくだ。ドラゴン相手に自分の力を試してみよう。
右手のポイズンソード、左手のブレイズソードを握りしめて、オレはヴァッサーへと疾走する。近くで見るヴァッサーは見上げるほど大きい。まるで山でも見上げているような気分だ。その尻尾まで含めたら、全長二十メートル以上はあるだろう。
そんな巨大生物に挑む。しかも属性不利だ。だが――――。
「格の違いというものを教えてやる!」
なぜか負ける気がまったくしなかった。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
ヴァッサーがこちらに威嚇するように吠え、大きく口を開けるのが見えた。何度も見たドラゴンブレスの予備動作だ。ヴァッサーはオレを脅威として認めたらしい。
そして、まるで濁流のようなドラゴンブレスがオレを襲う。
「はああああああああああああああ!」
オレはドラゴンブレスを全力の炎で迎え撃つ。お腹が激しく減るが、今はかまっていられない。
火炎と水の濁流が激しくぶつかり合い、その余波で校舎の窓ガラスが割れていく。
力と力のぶつかり合いを制しつつあるのは、オレだった。火炎がゆっくりと、しかし着実に濁流を飲み込み、ヴァッサーへと迫っていく。ヴァッサーの驚愕が伝わってくるようだ。
そうだね。普通、火属性は水属性には勝てない。属性の相克関係とは、正しいのだ。
現に、人々は操れる属性の多い人を重用するし、グレンプニールやヴァッサーのような強力なドラゴンですら属性の相克関係から逃れられない。グレンプニールがヴァッサーに敗れたのも属性の相克関係がすべてだ。
しかし、それは力が拮抗していればの話。人間とドラゴンでは力の総量がまず違う。人間ではドラゴンに勝てない。同じように、ドラゴンではイフリートの力を継承したオレに勝てないのが道理だ。
ヴァッサーはドラゴンブレスによる力押しを諦めて、余裕を持って火炎を回避する。戦い慣れているな。さすが設定では千歳を超えるドラゴンだ。
単純な力では勝っているが、勝負はそれだけで決まるものではない。油断はできないな。
「エンチャント!」
オレは両の剣に炎を纏わせ、攻撃力を上げる。ここからが勝負だ。
ヴァッサーがオレの方を向いて立ち上がり、構えを取った。まるで格闘術の構えのようだ。ヴァッサーも本気だな。
ヴァッサーの体が一瞬土煙で霞んで見えた次の瞬間、ヴァッサーが動いた。
オレに向かって右の腕を振り下ろすヴァッサー。その指先には大きく鋭い爪が五本もあり、当たれば大怪我では済まないことが明確にわかった。
オレは右にステップを踏んで、進行方向を右に急速に変える。ヴァッサーの手は大きい。回避するにはステップだけでは足りず、走って距離を稼がなくてはいけない。
ヴァッサーは体が大きい分、リーチが長いから先手を取れるし、その攻撃を回避するのは一苦労だ。体が大きいというのは、それだけで有利に戦いを運ぶことができる。厄介だね。
ドゴォオオオンッ!!!
周囲に大音量が響き渡り、オレはヴァッサーの右腕の振り下ろしをなんとか避ける。そのまま両手の剣で反撃しようとするが、軽く地面が揺れて狙いが逸れてしまった。
「くっ!?」
回避までは想定内だったが、地面が揺れることまでは想定外だった。オレの想像力が乏しかった。揺れさえ覚悟していれば、もう少しいい斬撃が放てたのに。
しかし、オレの両の剣先はヴァッサーの右腕をなんとか捕らえ、その身を浅く斬り付けた。
まるで豆腐でも切るようにスッと入っていく剣筋。そして、両手に持つそれぞれの剣の追加効果が発動する。
すなわち、ポイズンソードによる毒とブレイズソードによる火属性追加ダメージだ。
ヴァッサーは毒に侵され、火属性の追加ダメージを受ける。
討伐するのに時間がかかるだろう相手に毒を付与できるのはありがたい。
そして、今回の目玉はブレイズソードによる火属性の追加ダメージだ。本当は極小のダメージしか与えられないものだが、火を司るオレが使えば、極大の追加ダメージへと早変わりだ。
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