第37話 消滅の鎧
「ブレイズショット」
次々と生徒たちが鎧の破壊を目論見、そして傷一つ付けることなく終わっていく。
セリアもその中の一人だった。
セリアは『ファイアボール』や『ファイアランス』などの中級魔法どころか上級魔法も使えるのに、敢えて初級魔法である『ブレイズショット』を披露した。
たぶん変に目立つのを避けたのだろう。ここには王族もいるしね。万が一にもセリアの正体がバレたらたいへんだ。
『ブレイズショット』を撃ち終えたセリアはこっちに向かって帰ってくる。セリアは本当は七属性使えるが、今は平民のフリをして火属性の一つに留めているのだ。
「次、レオンハルトくん」
「ああ」
先生に呼ばれてオレは鎧の前に立った。オレもがんばって手加減して『ブレイズショット』でお茶を濁そうかな。
「ぷふっ。主従そろって火属性しか使えないのか」
「落ちこぼれにさせる意味があるのか? どうせブレイズショットで終わりだろ」
「時間の無駄無駄」
「にしても、あのセリアって子かわいかったな」
「あれなら俺だって欲しいくらいだ」
「金貨二百枚で決闘できるらしいぜ?」
「高いが、俺も挑戦してみるか」
「早い者勝ちだな」
マズいな。セリアが注目されてる。即ルクレール王国の姫だとバレるようなことはないだろうが、このまま注目され続ければ危険が増すだけだ。
それに、ユリアン以外も決闘に名乗り出たら、収拾がつかなくなる。
ここは一気に話題をかっさらうしかない。
「先生、質問だが、あの鎧を壊してしまってもいいのだろう?」
「ええ、壊せるものなら」
先生はニコニコとしてそう答えた。言質は取ったぞ。
「あいつ、なに言ってるんだ?」
「できるわけがないのに」
「カッコつけたいだけだろ」
好きかって言いやがって。
オレは苛立ちを籠めて右足で地面を蹴る。
轟!!!
その瞬間、アダマンタイトの鎧が紅蓮の炎に包まれ、その姿を消した。一瞬にして蒸発したのだ。
「は……?」
「え……?」
「なに? え?」
「どうなってる!?」
「どんな手品を使ったんだよ……!?」
生徒たちが騒ぎ出すのを尻目に、オレは口をあんぐり開けてアホ面をさらしている先生の方を向いた。
「言質は取ったぞ?」
◇
その後、魔法の授業は中断され、オレたちは教室へと帰ってきた。
「いったいどんな手品を使ったんだ……?」
「糸で吊るして放り投げたとか?」
「アダマンタイトの鎧だぞ? 誰が投げ飛ばせるんだよ?」
「そうか……」
オレの普段の行いのせいなのか、誰もオレが鎧を壊したとは思わなかったみたいだ。むしろどうやって消したのか推理している始末である。
もっとわかりやすく真っ二つとかにすればよかったな。怒りに任せて蒸発させてしまったオレの落ち度だ。
だが、クラスメイトの話題をセリアからオレに替えることには成功した。まぁ、上手くはいかなかったけど、当初の目的はクリアできたしいいだろう。
ちなみに先生は職員室にダッシュしたよ。たぶん今頃怒られてるんじゃないかな。誰も使うことができない鎧だったけど、高価ではあるしね。
◇
「エンゲルブレヒト、ちょっといいか?」
「ユリアン?」
ユリアンに呼ばれて振り返ると、そこには緊張したような顔のユリアンとアンネリーエ殿下がおられた。急いでひざまずこうとすると、アンネリーエ殿下が手でそれを制された。
「部屋を準備しています。まずはそこに行きましょう」
「はっ!」
「おう」
どうしてユリアンがアンネリーエ殿下と一緒にいるんだ?
そんな疑問を飲み込んでアンネリーエ殿下に付き従って個室に入った。
そこには三人の女生徒がおり、お茶などを用意している。おそらく、アンネリーエ殿下のご学友に選ばれた貴族の娘たちだろう。
「どうぞ、お座りになって」
「失礼します」
アンネリーエ殿下の対面のソファーに腰を下ろす。
レオンハルトに燃やされた尻が疼くように痛んだが我慢した。
しかし、アンネリーエ殿下はなんの御用で我々を呼んだのだろう?
その答えはすぐに殿下の口から語られた。
「あなた方はレオンハルトに対してどうおもいますか?」
「レオンハルト……」
殿下はレオンハルトを疎ましく思っていらっしゃるのか?
「セリアちゃんを奴隷にして解放しない悪い奴だ!」
ユリアンが憎々しげに言う。
そんなユリアンにアンネリーエ殿下は頷かれた。
「わたくしもレオンハルトの行いは許せません。一人の女性として、とても不愉快です」
「私たちも同じ思いです」
アンネリーエ殿下の言葉に追従するように女生徒の一人が言った。
「なので、わたくしはあなた方を応援することにしました」
「応援、でございますか? それはありがたい限りですが……」
「なにをしてくれるんだ?」
「こら、ユリアン! 口に気を付けるんだ!」
「へいへい……」
そんな私とユリアンのやり取りが面白かったのか、アンネリーエ殿下は笑みを浮かべていらっしゃった。
「資金に困っているのでしょう? わたくしたちが支援しましょう」
たしかにそれはありがたいが……。
「よろしいのですか? 確実に勝てると決まったわけではありませんが……」
そんな弱気な言葉が漏れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます