第24話 第六階層
ダンジョン第六階層。ここからはモンスター戦にも注意が必要になってくる。
弓を使うゴブリンアーチャーや、天井に張り付いていきなり降りかかってくるスライムなどが登場するのだ。
特にゴブリンアーチャーの存在は注意だな。初めての遠距離攻撃能力をもつモンスターの登場だ。
オレ一人なら避けたりすればいいんだが、今回はセリアもいる。セリアにゴブリンアーチャーの矢を避けるのは難しい。
「セリア、まずは二人でゴブリンアーチャーを狙おう。こいつは真っ先に狙う必要がある」
棍棒で殴られるのと、弓矢ではダメージ全然違う。そういう意味でもゴブリンアーチャーの存在は看過できない。
「わかりました。他に注意点はありますか?」
真剣な顔で頷くセリア。まだ浅い階層だけど、命がかかってるからね。セリアも真剣だ。
「たまにスライムが天井にくっ付いていることがある。そして、下を通りがかると降ってくるんだ。これも見つけたら真っ先に倒そう」
「はい」
注意点を確認すると、オレとセリアは注意しながら第六階層を進んでいく。
途中、二回天井に張り付いたスライムをセリアの魔法で倒し、さあ次に進もうといった時だった。T字路の右からペタペタという素足で駆ける音が複数聞こえてきた。
おそらくゴブリンだ。セリアの魔法の爆発音を聞いてやってきたのか?
「セリア、ゴブリンだ! ゴブリンアーチャーを狙って!」
「はい!」
「GYAGYA!」
「GEGYA!」
オレがセリアに注意を飛ばすと同時にゴブリンが姿を現した。棍棒を持ったゴブリンが二体。弓を持ったゴブリンが一体!
「ファイアボール!」
ゴブリンアーチャーが姿を現した瞬間、セリアの魔法が発動する。魔法は無事にゴブリンアーチャーを消し飛ばした。
「流れ双爪!」
残った二体のゴブリンもスキルを使って倒し、戦闘は終了した。あとに残ったのは、ゴブリンのドロップ品である棍棒が一本だけだ。
「いいね、セリア! ナイスファイアボール!」
「ありがとうございます」
セリアがおどけたように外套を摘まんでカーテシーを披露する。ここ最近セリアが見せてくれるようになった一面だ。ますます惚れちゃうよ。セリアとオレの関係は良好だね。
「しかし、また棍棒か……」
ゴブリンのドロップアイテムは渋いなぁ。これじゃあお金にならないし、かさばるし、置いて行くしかない。ちょっともったいないね。
「ファイアボール!」
その時、セリアがいきなり魔法を発動した。モンスターが接近していたのかと思って双剣に手を伸ばすと、なにかが天井から落ちてきた。透明な瓶に入った薄い青色の液体。スライム溶液だ。
「スライムが来ていました。気付けて良かったです」
「ありがとう、セリア。おかげで助かったよ」
スライム溶液は高値で売れるから嬉しいな。中のスライム溶液はもちろん、瓶も高価なのだ。
「じゃあ、慎重に進もうか」
「はい」
オレはスライム溶液を拾ってセリアに背中のリュックに入れてもらうと、第六階層を進むのだった。
それから何度か戦闘を続けながら第六階層を探索した。第七階層への階段を見つけたのは、それから三十分ほど後のことだった。
途中、宝箱を一つ見つけて、シャボンを手に入れた。これも売却してしまおう。
「おつかれさま、セリア。これで第六階層クリアだ」
「はい。おつかれさまです、レオン様」
オレたちは例の杖のモニュメントがある部屋にいた。ここはモンスターが来ない安全エリアなのだ。
「さて、第七階層に行こうか」
「はい!」
この調子でどんどんダンジョンを攻略していこう。
「あの、レオン様?」
「なにかな、セリア?」
第七階層へと続く階段を下りている時、セリアに話しかけられた。
「レオン様の魔法はなんだか特別のような気がします。威力もでたらめに高いですし、私の使う火の魔法ともどこか根本的に違うような――――」
セリアの前で魔法を使ったのは数回だけだったんだけど、セリアは疑問に思ったらしい。
さて、なんて答えよう?
オレの魔法が特殊なのは、もちろんイフリートの力を継承したからだ。
だけど、もしセリアがイフリートが自分を救ってくれると信じていたら?
自分を救ってくれるはずのイフリートがもういないと知ったら、セリアはどうなってしまうのだろう?
深く絶望してしまうのではないだろうか?
オレにはセリアの希望を潰すことはできない。たとえそれが嘘を吐くことだとしても。今はその時じゃない。もっとオレとセリアとの信頼関係が増したら、話す時がくるかもしれない。
「もしかして、レオン様が火属性以外の属性を失ったことに関係があるのではないでしょうか? もしかしたら、レオン様は――――」
「セリア、悪いけど今はまだ秘密だ」
セリアが一瞬だけ傷付いたような表情をみせた。
「……秘密、ですか?」
「ああ、もしかしたらセリアに話す時がくるかもしれない。でも、今はまだ秘密だ」
「そう、ですか……」
俯いてしまったセリアに、オレはなんと言葉をかければいいのかわからなくなってしまった。
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