第18話 ブルーゴブリン
「せあ!」
オレの右の短剣の突きがゴブリンの喉に突き刺さる。
ゴブリンはビクンッと体を震わせると、そのままボフンッと白い煙となって消えた。
「セリアは……」
振り返ると、セリアの魔法が命中して、ゴブリンが白い煙となって消えるところだった。どうやら一人でもゴブリンを倒せたみたいだね。
ダンジョンの第二階層からは、たまに二体のモンスターが同時に襲って来る時がある。その場合はオレとセリアで一体ずつ相手にしていた。もちろん、セリアにモンスターが近づかないように配慮しつつだ。
ゲームの時は隊列を設定すれば、自然と前衛が後衛を守ってくれた。
でも、現実ではそうもいかない。
今みたいにオレを無視してセリアに向かうモンスターもいるし、後衛を守ると一口に言っても、実際にやってみるととても難しい。
後衛もヘイト管理とか難しい要素はあると思うけど、前衛もいろいろたいへんだ。
他の冒険者たちはどうやってるんだろう?
今度、ドミニクやオイゲンに訊いてみるか。あの二人は元冒険者と言っていたからな。
「おつかれさま、セリア」
「おつかれさまです、レオン様」
「うん!」
ダンジョンだと二人っきりだからか、セリアがレオン様と呼んでくれる。これも嬉しい点だ。
現状、オレとセリアの仲は良好そのものだ。だが、ゲームでのセリアは主人公くんに心を奪われた。油断はできない。
なんだか学園に行くのが怖くなってきたなぁ……。
「あら?」
セリアが不思議そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「あのゴブリンですけど……。あんな色でしたでしょうか?」
「え?」
それはオレたちから十メートル先のT字路から姿を現した。その背丈は普通のゴブリンを変わらない。だが、その肌の色が微妙に違う。緑ではなく青色なのだ。そして、他のゴブリンとは違って棍棒ではなく、濡れたように輝く片手剣を持っている。
「ブルーゴブリン……!」
「GEGYA?」
オレの呟きと、ブルーゴブリンがオレたちに気が付くのは同時だった。
「GEGYAGYA!」
ブルーゴブリンがオレたち目掛けて駆けてくる。
速い!?
「セリアは魔法を!」
「はい!」
オレはブルーゴブリンを迎え撃つように両手の短剣を構えた。
だが、ブルーゴブリンはオレを避けるように僅かに左へとその進路を変える。
こいつ、セリアを狙うつもりか!?
オレはブルーゴブリンの進路を塞ぐように移動すると、次の瞬間にブルーゴブリンは右へと舵を切った。
フェイント!? モンスターが!?
「せあ!」
このままではブルーゴブリンに抜かれてしまう。オレはブルーゴブリンに飛び付くように右の短剣を振るう。
だが、ブルーゴブリンは再度その進路を変える。剣を持ってオレへ向けて突っ込んできた。
またフェイント!? こいつの狙いはセリアじゃなくて、最初からオレだったのか!?
キンッ!
なんとか左の短剣でブルーゴブリンの剣を弾く。
しかし、ブルーゴブリンには第二の武器があった。その口に生えた牙だ。
ブルーゴブリンの牙がオレの腕に噛み付こうとして――――ッ!
「ブレイズショット!」
「GYA!?」
セリアの『ブレイズショット』に吹き飛ばされるブルーゴブリン。その牙はガキンッと空を抉っていた。
助かった……。
だが、ブルーゴブリンはセリアの『ブレイズショット』を受けても白い煙となって消えることはなかった。
そりゃそうだ。ブルーゴブリンは、この第二階層のレアポップモンスターなのだから。
レアポップモンスターは、その階層で出る他のモンスターよりも一段も二段も強い。さすがに第二階層のモンスターとはいえ、初級魔法一発で倒れるようなことはないようだ。
「レオン様、大丈夫ですか!?」
「助かったよ。次はこうはいかない」
オレは気を取り直すような気分で両手の短剣を構えてブルーゴブリンに対峙した。
ブルーゴブリンはたしかに『ブレイズショット』では倒れなかった。だがその傷は軽くないようで、左腕が消失していた。ブルーゴブリンの肩口からは、血の代わりに白い煙がモクモクとたなびいていた。
だが、そのどこを見ているのかわからない黄金の目は死んでいない。
普通、この状況なら自分の不利を覚って逃走しても不思議じゃない。だが、ブルーゴブリンは逃げなかった。腰だめに剣を構えて、セリアに目掛けて駆けていく。
セリアの魔法を脅威として認めたのだろう。
オレはセリアを守るようにブルーゴブリンの前に立ちはだかる。
その瞬間、ブルーゴブリンはオレを嫌がるようにその進路を僅かに変えた。
「それはさっき見たぞ?」
今度はブルーゴブリンの動きに惑わされず、オレは前に出る。
先ほどは、まさかモンスターがフェイントを使うとは思わず後れを取ったが、使ってくるとわかれば対処はできる。
ブルーゴブリンはオレの態勢を崩そうとフェイント仕掛けるが、オレは乗らない。
「GEGYA!」
「せや!」
そして、ついにブルーゴブリンとオレが交差する。
飛んだのはブルーゴブリンの頭だった。
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