第17話 セリアとダンジョン

「セリア、デートに行こう!」


 双剣がある程度ものになってきたある日、オレはセリアをダンジョンに誘うことにした。


「……はい?」


 セリアは少し顔を赤くして、首をコテンとかしげていた。そんなセリアもかわいらしい。スクショしたい。


「まずはこれを着るんだ」

「これは……、外套ですか?」

「あまりかわいいデザインじゃないのは許してくれると助かる。あまり目立ちたくないからね。お忍びってやつさ。それから、この間の杖も忘れないで。今日は杖の感覚を確かめてみよう」

「頂いた杖が必要なのですか? 持ってきます」


 黒色の外套を着て、エンシェントロットを持ったセリアは、見た目だけなら老練な魔法使いのように見えた。


 オレもセリアとお揃いの黒色の外套を着て、腰の左右に剣を装備する。


 あとはいろいろ入ったリュックを背負って、出発準備完了だ。


「じゃあセリア、行こうか」

「はい」


 セリアはまだ子どもだし、オレ付きのメイドなので屋敷での仕事は少ない。セリアにとって一番の仕事はオレのお世話だ。連れ出しても迷惑をかけることもないだろう。


 オレたちはそのまま屋敷の外に出て、街の中を歩いていく。


 セリアは街の様子を物珍しそうにキョロキョロと見ていた。


「活気がありますね」

「この街にはダンジョンがあるからね。冒険者も多いし、冒険者相手に商売する商人も多いんだ。人が集まりやすいんだね」

「そうなんですね」


 隣を歩くセリアの手を握りたいけど、ちょっと勇気がなくて握れない。


 そんな甘酸っぱい葛藤を抱きながら、オレたちはダンジョンにやってきた。


「これが、ダンジョンですか……」


 セリアはピサの斜塔のようなダンジョンを見上げている。


「そう。ここが『天の試練』ダンジョンだよ。まぁ、塔を登るんじゃなくて、地下に潜っていくんだけどね」

「そうなのですか? てっきり登るのかと思いました……」


 セリアが少し恥ずかしそうにして口を開く。


「それで、今日はどちらに向かうのですか?」

「ダンジョンだよ?」

「……え?」


 外套のフードの下で、セリアが目をぱちくりさせていた。かわいい! ムービー取りたい!


「だ、だだだ、ダンジョンですか!?」

「うん。ダンジョンなら魔法使っても迷惑にならないし、的もあるしね」

「的……。で、でも、危険ではないですか?」

「浅い階層だから危険は少ないよ。それに、セリアのことはオレがしっかり守るから」

「ッ!?」


 オレは勇気を振り絞ってセリアの手を取った。


「行こう、セリア」

「は、はい……」


 セリアは俯くように頷くの確認すると、オレはセリアの手を引いてダンジョンへと向かうのだった。



 ◇



「ここがダンジョンですか……」


 灰色の石造りの幅広な通路。そこにセリアの呟きが響く。


 セリアはエンシェントロッドをキュッと両手で握って警戒心MAXといった感じだった。


「セリア、そんなに緊張しないで。第一階層のモンスターなら、たぶんセリアの魔法一発で倒せるよ。弱いモンスターしか出ないんだ」


 まぁ、レアポップモンスターっていう例外はあるけど、たぶん出会わないだろう。レアポップだし。


「そうなんですね」


 セリアが少しだけ安心したように体の力を抜いた。


「前衛はオレがするよ。セリアは後ろから魔法でモンスターを狙ってくれ」

「その、よろしいのですか? 普通、逆では?」

「双剣の練習もしたいからこれでいいの。じゃあ、行こうか」

「はい……」


 そのままダンジョンを進んでいくと、すぐにモンスターに出くわした。


 額から一本のツノが生えたウサギ。ホーンラビットだ。


 ホーンラビットもこちらに気が付いたのか、突っ込んでくる。その狙いは前を歩いていたオレだ。


「セリア、魔法だ!」

「はい! ブレイズショット!」


 赤い光跡を残して飛んでいく『ブレイズショット』は、見事ホーンラビットに命中した。ホーンラビットは弾かれたように後ろに吹き飛ぶと、そのまま白い煙となって消える。討伐成功だ。


「セリア、よくやった! いい腕だね」

「ありがとうございます!」

「ドロップアイテムは無いようだね。次に行こうか」

「ドロップアイテム、ですか?」

「うん。モンスターを倒すと、たまにアイテムをドロップするんだ。ホーンラビットの場合、ツノや毛皮だね」

「なるほど……」

「そういったドロップアイテムや、あとはダンジョンにランダムで現れる宝箱の中のお宝が冒険者たちの主な収入源かな」


 その後もオレたちはダンジョンを進み、ホーンラビットやスライム、ゴブリンなんかを倒しながら、第一階層をクリアした。


「おつかれさま、セリア。この杖に触ってみて」


 オレの指差した先には、灰色の石でできた杖のモニュメントがある。


「これはダンジョンの入り口にもありましたね。なんなのでしょう?」

「オレにも原理はわからないけど、これに触ると第一階層をクリアした証になるんだ。ここからダンジョンの入り口にワープして戻ることもできるし、ダンジョンの入り口からワープしてここまで来ることもできる」

「それは……。原理が解明できたら国が発展しそうですね……」

「そうだねー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る