第12話 おかしな魔法
でも、今思えば、おかしいのは指先に火を灯す魔法だけじゃない。オレの『ブレイズショット』だって威力がでたらめだ。
強いに越したことはないし、べつにいいかと思っていたんだけど、さすがにこれ以上目を背けることはできそうもない。
「オレの火の魔法はおかしい」
そのおかしさの原因として考えられるのが、やっぱりイフリートの存在だ。
オレはイフリートの力を継承した。そのせいで扱える属性が五つも減ってしまった。オレは侯爵家の嫡子から外されてしまった大きな理由である。
だが、考えてみてほしい。
オレはイフリートの力を継承したんだ。そんなオレが使う魔法が普通なのか?
物語の最後では、レオンハルトはイフリートの力を開放し、邪神を焼き尽くす。それだけの力があるんだ。
そんな大きな力で魔法を使えば、どうなる?
「もしかしたらオレは……勘違いしていたのか?」
オレは、イフリートの力によってレオンハルトは主人公を超えるすごい魔法を覚えたんだと思っていた。
だが、違ったようだ。
「ファイアランス」
オレは自分の理論を確かめるために魔法を使う。
『ファイアランス』を覚えるのは『ファイアボール』のマスタリーを一定以上溜めないといけない。今のオレではマスタリー的に使えないはずの魔法だ。
轟!
しかし、魔法は発動する。
火の槍はボス部屋の壁にぶつかり、なおも燃え続け、ボス部屋の壁を溶かしていく。
「止め」
オレがそう命じると、『ファイアランス』の業火はまるで嘘のように消えた。
「はは……。これが大精霊の魔法か……!」
あまりのヤバさに言葉を失う。
「ん? 痛い?」
その時、疼くような痛みを感じて左腕を見下ろした。
「うげ……」
左腕はもうめちゃくちゃだった。肉が爆ぜ、白い骨が飛び出ている。
「あーもうめちゃくちゃだよ……」
だが、あまりの怪我に感覚がマヒしてしまったのか、疼くような痛みしか感じなかった。まるで現実感のない光景だしね。
だからだろうか、オレは冷静にリュックの中からポーションを取り出すと、左腕にかけていく。ポーションを一本使うと、左腕はすっかり元通りになった。さすが街で一番高かったポーション。すごい効き目だ。
「治ってよかったー。さーて、クリア報酬はなにかな?」
オレは部屋の中央に置かれた大きな宝箱を開けると、中には魔法の杖が入っていた。白い木の柄の先端は三日月のようになっており、その中央には赤い宝玉が浮いている。
「へー、エンシェントロッドか。当たりだな」
無論、最強の装備というわけでもないけど、序盤で手に入る装備としては優秀な部類だ。
「どうしようかな……。セリアにプレゼントするか」
オレにはもう必要のないものだし、セリアも魔法の勉強頑張ってるしね。
「喜んでくれるといいなぁ」
オレはエンシェントロットをリュックに引っ掛けると、奥の階段へ向かう。
その時。
ぐー!
「あはは……まいったね」
お腹が鳴って空腹を自覚した。自覚したらもうダメだった。オレはボス部屋の床に座ると、リュックから大きな布に包まれたものとボトルを取り出した。
「さてさて、今日はなにかな?」
大きな布を広げると、綺麗なサンドイッチたちが姿を現す。オレは中に入っていたおしぼりで手を拭うとさっそく食べ始めた。
野菜はシャキシャキの新鮮だし、厚切りのハムやベーコン、卵もうまい。
このサンドイッチは、家のシェフが作ってくれたものだ。オレは大食いだからね。たまに小腹が空いて自分で厨房に行くこともある。その時、シェフたちとは顔見知りなったのだ。
今ではこうして頼めばお弁当を作ってくれる間柄である。
「うまいな。やっぱりマヨネーズの作り方を教えて正解だった」
マヨネーズの作り方をシェフたちに教えたら、ソースのバリエーションが一気に増えた。おかげでこうしておいしいものが食べられる。感謝感謝である。
そして、シェフたちはオレの大食いを知っているので、サイドメニューにポテトやウインナーがあるのもポイントが高い。
オレの住んでる国では、ウインナーのことをヴルストと呼んで、たくさんの種類があるのが特徴だ。日本にはなかった味わいも多数あってモリモリ食べられる。マスタードがいい仕事をしているな。このマスタードもヴルストも自家製というのだからシェフたちには本当に頭が下がるよ。
「うまうま」
ボトルのコルク栓を抜いて、中のオレンジジュースを一気に流し込む。
このオレンジジュースだってシェフたちが絞ったものだ。
食事がおいしくて仕方がない。日本にいる時はそんなに食べる方じゃなかったけど、たぶんオレの味を感じるセンサーが弱かったんだな。転生してから食べるご飯がおいしくて仕方がない。もう感動ものだ。
「もうなくなってしまった……」
だが、なんにだって終わりの時は訪れる。気が付けば、オレはお弁当を食べ終わっていた。
「仕方ない、行くか……」
若干の寂しさを感じながら、オレは奥の階段を降りて第六階層へと向かうのだった。
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