第8話 誕生祭

「あ、兄上……!?」

「ん?」


 屋敷に戻ると、エドガーに出会った。エドガーは一つ下の弟だ。ぽっちゃりでいつも困った顔をしている男の子である。


「あ、兄上、今日も素敵なお召し物ですね」

「そうか? ありがとう」

「兄上は顔がいいのでなにを着ても似合いますね。羨ましいです」

「お、おう……」


 なぜかわからないが、エドガーは過剰にオレを持ち上げてくれるんだよなぁ。本人には決して言わないが、気持ち悪いくらいのゴマすりだ。


「兄上はこれからどちらへ?」

「ああ、これからセリアと一緒にお茶でも飲もうかと思ってな」

「セリアというと、兄上のお気に入りの奴隷ですね? いいですね。私もあんな綺麗な奴隷が欲しいですよ」


 その後、少しだけ世間話をして、エドガーとは別れた。


 エドガーはいつも揉み手で会話してくるし、卑屈な態度だよなぁ。同じ侯爵家の人間なのに、なんでこんなに違うんだろう?


「まぁ、いいか」


 オレはエドガーへの興味を失くして、自室へと急いだ。



 ◇



「レオンハルト様、本日はどこにお出かけしていたのですか? 先生が頭を抱えていらっしゃいましたよ」

「ちょっと野暮用があってねー。これおいしいね」


 今日のお茶菓子は、甘酸っぱいベリーを使ったタルトだった。いくらでもたべられそうなほどおいしい。ついつい二つ目に手が伸びる。


 今日はダンジョンに行ったからか、とても腹が減っているのだ。歩いたからね。


 そんな感じでダンジョンに行ったり、セリアとお茶をしたり、魔法の練習をしたりしながら日々を過ごし、ついに運命の日がやってきた。オレの十歳を祝う生誕祭だ。


 その日は朝から忙しかった。何度も予行演習を済ませ、オレも正装に着替えて控室で待機だ。



「レオンハルト様、準備が整いました」

「ありがとう、セリア」


 オレはセリアに呼ばれて控室を出る。


 そして、屋敷で一番大きいホールの前へとやってきた。


 来客も大勢いるようで、がやがやという話し声がドアを通して聞こえてくる。


 みんなオレを祝いに来てるんだよなぁ……。これからみんなをがっかりさせるのかと思うと、さすがにちょっと憂鬱だ。


「レオンハルト様の入場です!」


 目の前のドアが開かれると、レッドカーペットが真ん中に敷かれ、その左右にはたくさんの着飾った人々の姿が見えた。


 オレは溜息を押し殺して、レッドカーペットの上を歩いていく。ホールの奥には祭壇が立てられ、その前に先端が八角形になっている杖を持ったおじいちゃん神官の姿があった。


「この素晴らしい日、レオンハルト様は十歳の誕生日をお迎えになられました。すべては精霊様のお導きによるもの。今日を盛大に祝いましょう」


 おじいちゃん神官が朗々とした声でオレの誕生日を祝い、精霊への感謝を語る。


「杖のここを持ってください」


 そして、おじいちゃん神官がオレに小声でどうすればいいのか教えてくれる。


 オレが持つのは、先端に正八角形の飾りが付いた杖だ。八角形の頂点には、それぞれの属性を現した宝珠が填められている。この宝珠をいくつ光らせられるかでその者の持つ属性がわかるのだ。


 以前のオレならば六つ輝かすことができただろうが、イフリートの力を継承したオレには火属性のしかない。


 そして、一つしか属性がないと判明したオレはみんなに蔑まれるんだ……。


「緊張しなくてもいいですよ?」


 おじいちゃん神官が優しく声をかけてくれる。


 オレは溜息を嚙み殺して杖を手に取った。


 その瞬間――――。


 オレはものすごく腹が減った。


 そして――――ッ!


 轟!


 暴力的な轟音が響き渡り、瞬間、世界が赤に染まる。


 オレの持った杖。その先端に着けられた宝珠の一つがまるで太陽のように赤い光を放っていたのだ。


「こ、これは――――ッ!?」


 さすがのおじいちゃん神官にも予想外のことだったのか、恐れおののくように一歩二歩と後退った。


「どうなってるんだ!?」

「何事!?」

「何が起きているの!?」


 来場したお客さんたちもパニック寸前だ。


 ここまできて、オレはなにかやらかしてしまったらしいことに気が付いた。


「あー……。どうしよう?」

「はっ!」


 なにかに気付いたような様子のおじいちゃん神官が、オレから杖をひったくるように奪った。


 すると、何事もなかったかのように染め上げていた赤い光が消えた。


 そして、おじいちゃん神官が杖を握ると、まるで豆電球でも光っているかのような弱い光で四つの宝珠が光っていた。


「杖の異常ではない……。では、あれはいったい……?」


 おじいちゃん神官の呟きがシンと静まり返った会場内に響いた。


 その後、式典はすぐに終了した。予定されたダンスなども無しだ。


 おじいちゃん神官の話では、オレの扱える属性は火の一つだけだが、尋常ではない才能を秘めているという話で落ち着いた。


 来場者たちはざわめいていたが、各々帰っていった。


 そして残されたのが、おじいちゃん神官とクラルヴァイン侯爵家の面々だ。


 さて、オレはどうなるんだ?

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