第7話 ダンジョン
「ここがダンジョンか……」
『天の試練』ダンジョンは、まるでピサの斜塔のような建物だった。ちなみに塔を登るのではなく、地下に潜るらしい。
ダンジョンに入ると、地下なのに明るい白い部屋があり、部屋の中央には正八角形の飾りが付いた杖が突き刺さっており、その奥にはさらに地下へと潜る階段があった。
ゲームで見たとおりだな。
オレは部屋の中央に突き刺さっている杖に触ると、とくになにも起きなかった。
もしかしたら前世のクリアデータでもセーブされてるんじゃないかと思ったけど、そんな甘いことはなかったみたいだ。
「ちぇっ」
あんなに苦労したクリアデータが無くなっているのは悔しいが、また心機一転がんばろう。
「よし、いくぞ!」
自分にそう言い聞かせて、オレは奥の階段を降りていった。
◇
「ここが第一階層か……」
そこはゲームで見た通り、灰色の石が組まれて造られた幅のある通路だった。地下だというのに、仄かに明るい。少なくとも松明の必要はなさそうだ。
たまに遠くから人の怒号が響いている。その度に体がビクリとしてしまう。
そうだよね。ゲームでは何度もクリアしたダンジョンの第一階層だ。目を瞑っていてもクリアできるだろう。
でも、それはあくまでゲームならの話。生身の自分ではない。
オレにモンスターを倒すことができるだろうか?
「いや、できるかどうかなじゃない。やるんだ!」
脳裏にセリアの淡い笑顔を思い浮かべると、不思議と勇気が湧いてきた。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
オレはダンジョンに奥に向けて足を進めた。
◇
「ん?」
目の前のT字路。その右側からペタペタという軽い足音が聞こえてきた。明らかに靴の足音じゃない。足音の主は人じゃないのか……?
オレは右手で銃の形を作ると、右側の通路に向けて構える。
現れたのは予想よりも小さな人影だった。
人……? じゃない!
おそらく一メールくらいの身長。髪の毛の無い頭には小さなツノが一本生えている。その下にあるのは鼻の大きな醜悪な顔と金の瞳にヤギのような横長の瞳孔。その横には、体の大きさに不相応なほど大きな耳をした緑の肌の小人。
ゴブリンだ!
「GEGYA!?」
棍棒を持ったゴブリンがオレの存在に気が付いた。
「ブレイズショット!」
オレは使えるようになった唯一の攻撃魔法を使用する。
『ブレイズショット』は、拳大の炎を飛ばす魔法だ。その威力はお世辞にも高いとは言えない。ゴブリンを倒すには追撃が必要かもしれないが、オレは『ブレイズショット』の威力のほどを確かめるために敢えて追撃をしない。
オレの放った火の弾は、赤い光跡を残してゴブリンに命中する。
ボウッ!!!
その瞬間、ゴブリンは一気に燃え上がり、灰になった。
「え……?」
灰になり、その灰も白い煙となって消えたゴブリンだったもの。
その様子を実際に見ても、オレは目の前で起こったことが信じられなかった。
『ブレイズショット』ってこんなに強かったっけ?
たしかに、相手はダンジョンの第一階層で登場するザコモンスターだよ?
でも、オレが使ったのは、最初に覚える最弱の魔法だぞ?
「もっと苦戦するかと思ったんだが……」
まぁ、強いに越したことはないか……。
オレはその後も出会うモンスターを『ブレイズショット』によって焼き払って進む。みんな一撃だった。ここまで一方的だと気持ちがいい。怯えていた自分がバカみたいだ。
「この調子なら、第二階層でもいけるんじゃないか?」
第一階層から第二階層へと続く階段を前に呟く。
「ダメなら戻ってくればいいか」
そんな軽い気持ちでオレは第二階層へと続く階段を降りていく。
「あんまり見た目は変わらないな」
そこには第一階層と同じく石の通路が続いていた。仄かに明るいのも同じだ。
「じゃあ、行くか!」
通路を進むと、すぐにモンスターに出くわした。
「GEGYA!」
「GYAGYAGYA!」
二匹のゴブリンだ。初めての一対二の戦闘。だが、オレは恐れを感じなかった。ゆっくりと銃を模した右手をゴブリンに向ける。
「ブレイズショット、ブレイズショット」
ゴブリンたちは断末魔をあげる暇もなく灰になり、その灰も白い煙となって消えていく。もう普通のゴブリン程度じゃ満足できないな。
「それにしても、ちゃんとレベル上がってるのか?」
いくらモンスターを倒しても体になにも変化はない。言うならば、少し腹が減ったくらいだな。
「まぁ、先に進むか」
その後、オレは第三階層まで攻略してしまった。さすがにレベルアップしてもおかしくないほどモンスターを倒したと思うのだが、体にはなんの変化もなかった。
気が付かないだけで、筋力とかステータスが上がっているのだろうか?
それとも、レベルが上がるのは主人公たちだけとか?
…………さすがにそれはないよな……?
不安な気持ちを抱えながらも、オレは屋敷へと帰っていくのだった。
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