第5章 きららかで些細な日常の事件
由加の目覚め!!
ジョイが撃たれてから数日が経ちました。
たぶんそれで私は、自分が探偵さんに銃で撃ち殺されてしまうような、そんなクリスマスの朝に見るには縁起が悪すぎる、なんかドスの利いた夢を見たのだという気がします。
目を擦りながら寝室を出て、階段を降りて、探偵さんにおはようを言います。
「おはよう。なんか、元気なさそうだね。」
「はい、なんだか頭が重いです・・・。」
「そりゃあそうだろうね。顔でも洗っておいで。」
「・・・?」
私は藤井由加。どこにでもいる普通の17歳です。
色々とありまして、今は高校には行かず、探偵さんの助手として働いています。あと、3人の子どもたちのお母さんとして、カフェの経営を手伝っています。
寝巻き姿でフラフラと洗面所へと向かい、鏡に写った私の頭には、右と左に1つずつ、ごりっぱな羊のツノのようなものがくっついていました。
「・・・なんぞこれ?」
まだ意識が十分に起きていない私は、寝ている間に頭にゴミでも付いちゃったのかなあと、そのツノを取り外そうとしましたが駄目でした。
そうです。私の頭には、普通の女子には普通生えないかんじのものが生えました。
ドタバタ!ドタバタター!ってかんじで私は探偵さんが座っている事務机をバンッと叩き、いつぞやのプリン事件の時のような慌てようで、口から飛び出すままに任せて言葉を飛び出させました。
「たっ、たんてーさん!!」
「騒々しいね。どうしたの。」
「なんかツノ生えた!!羊さんみたいな!!2本も!!生えてる!!はえそろってるー!!」
「落ち着きなさい。」
「はう!!」
探偵さんは私が騒ぎ立てている間にボスチェアから腰を上げて、私の隣に歩いて来ていて、私の両ツノをハンドルのようにして反時計回りに90度ほど回転させられて、視点力点作用点的に脳みそが揺れました!つまり頭蓋骨から生えてる。
「ついにこの日が来てしまったか。」
「もー朝から何なのです・・・?」
「実は君はもう普通の人間ではない。」
「そうなんだ。」
本当に本当に頭が回っていません。
「・・・・・・って、えええ!?」
「そりゃあそうだろう。川で溺れて1週間経ってから元気に戻って来れる人間がいる訳ない。いわゆる妖怪や魔族の類だよ。そして僕自身や花奈もそうだけど、君のような存在を僕らは鬼と呼んでいるんだ。」
「・・・・・・へぇ。」
おに・・・。
「このシュールさ、夢ですね。二度寝しt「現実を見つめなさい。」
「つのハンドルやめて!!脳が揺れる!!」
さておき、モーニング用のフレンチトーストの準備をするですよ。頭がシェイクされていて思考が上手くまとまりません。オマー、じゅなくて、その話はおしまいで、私は冷蔵庫からバターを、バターですよ、オマーじゃありません、バターを取り出して、牛乳、そして、あ、卵を買い忘れてるですよ。
「どうしよう探偵さん!卵がありません!」
「おや、それじゃあフレンチトーストは作れない。今の時間、スーパーはまだ開いてないし、コンビニに行くしかないね。」
「じゃあ、探偵さん、おつかいに行って来てください。」
「・・・なんで?」
「もう探偵さんは外に出られるんですから。それに私はツノが生えちゃってますし。」
「別にツノくらい隠せばいいでしょ。あ、でも帽子じゃ隠れないか。」
私の琥珀色のツノは両耳の上、握り拳ひとつ分の大きさで、かなりの存在感を放っています。
「というかさっき、探偵さんも鬼なんだって言ってましたよね。」
「そうだね。」
「なんで角が生えてないんですか?」
「生えてるよ。この天然パーマの中に。」
「え、触ってもいいですか。」
「いいよ。」
安楽椅子に静かに座した探偵さんの、ふわふわとした髪の毛の中に、おろし金のちいさな突起のようなツノが2本、私の指に刺さりました。
「痛っ!」
「ごめん。僕にもツノ、あったでしょ。」
「すっごい小さいですけどね。ずるいです。」
「大きなアフロのウィッグを被れば、その君のツノも隠れると思うよ。」
「それは嫌です。」
「わがままだね。」
「わがままなのはどっちですか。早く卵を買いに行ってください。」
「困ったな。」
探偵さんは軽く笑って、私を言い負かす方法を考えるために深く息を吸いました。
「花奈にもツノは生えていない。そして別にウィッグや帽子を被っていない。」
「そういえば、確かにそうですね。」
「しかしながら彼女も鬼だ。どうしてツノが生えていないのか。」
「・・・もしかして、折り取っちゃったとかですか!?」
「そんなことをしたら激痛で死にかねないね。」
「鬼も死んじゃうんですか。」
「比喩だよ。」
「そうですか。」
「花奈は自分のツノを消しているんだ。」
私は事務机の隣のシュレッダーを見ました。
「それって、めちゃくちゃ痛いってことですか。」
「恐らく君の想像は全く違う。居場所を奪うってことだよ。」
「居場所を奪うって、どうすればいいんですか。」
「そのごりっぱ様に頼んでみればいいんじゃないかな。」
「・・・頼んだら消えちゃうんですか。」
「やってみればいい。You can fly の心意気でね。」
「わ、分かりました。」
私はゆっくりとスロウに息を吸って、それから祝詞のイメージで詠唱をスタートしました。
「私のツノよ、かしこみかしこみお頼み申す!私のお耳からはなれたまえーっ!」
すると、なんということでしょう。私の頭の両端に生えていたクロワッサンはスウッと消えて、首にかかる重力もふわっと軽くなりました。
「はい。事件解決。」
「すごい!!頭がすっごく軽いです!!探偵さん!!ありがとうございます!!」
「どういたしまして。お代は要らないよ、その代わり、」
ぴょんこぴょんこと飛び跳ねてしまいそうなくらいだった私のテンションは、次に来るであろう探偵さんの言葉を想像したせいで一気に転落して、今では血の気が引いて、-459度まで体温が下がってしまった気分になりました。
「卵を買いに行ってもらえると嬉しいかな。」
「ぐ、ぐぐぐぐっ・・・!!」
着替えて、マイバックを持って、お財布も持って、上着も羽織って、事務所のドアを開けて背中に寒い風を受けながら、捨て台詞を吐いて強く扉を閉めました。
「これで勝ったと思うなよー!!でも助けてくれてありがとうございまーす!!」
頑張れ由加!!これをバネにして大きな探偵になるんだ!!
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