第6話 心理劇
結局、明音を除いては、みんな久留麻先生のことを嫌っている節があった。
どうしてだろう。久留麻先生は、あんなにいい先生なのに。木慈も隆太も、どうして、あれほど、先生のことを警戒しているのだろう。凛音にいたっては、あからさまに毛嫌いしている風だ。
予定は、もう、あと一週間後だったが、ここにきて、わたしは迷っていた。
「今度、君も、サイコドラマの演者になってみては、どうだろう?」
久留麻先生に、そう打診されたのが一週間前。
「新しい冒険も、必要だよ。抑圧の解放。カタルシス。サイコドラマは、そんな心理的効果も、あるんだ。内側から解放されれば、君は、もっと統一感を得られるかもしれない」
わたしは、久留麻先生の、サイコドラマの効用、それがどういったものかといった説明を思い出しながら、ぼんやりと、木慈と隆太のことを考えていた。
抑圧人格。
抑圧から解放されたら、彼らもいなくなってしまうのだろうか。
もしかして。
だから?
木慈と、隆太は、自分という存在が、カタルシスによって消滅してしまうことを怖れているのではないだろうか。凛音だって、そうだ。もし、わたしの人格が統一されてしまえば、凛音という存在も、消えていなくなってしまうのではないか。
だからこそ、彼らは、久留麻先生を敵対視している。自分たちを、この世から抹殺せんとする存在として。
能天気な明音は、そんなことには思いも及ばないのだろう。
でも、久留麻先生は、言った。
このまま君の人格の分裂が加速してしまえば、君という存在自体が消滅してしまう。
だから。
――君は、自分の心を取り戻す権利がある。
わたしは、久留麻先生の、その言葉を、信じたかった。久留麻先生は、心から、わたしのことを心配してくれているのだ。
行ってみようと、思った。
たとえ、それで、どのような結果が生じようとも、わたしには、選択する権利が、ある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます