第3話 対話その二 木慈

 木慈は、冷静沈着、感情の一切をそぎ落としたような少年で、痛みの果ての果てに生まれてきたような存在だった。

 どんなことをされても、何も感じないのであれば、それは無敵なのだ。わたしにとっては、だから、木慈は癒しを求めに会いにいくような存在だ。

 大丈夫、何も、痛くない、なにも怖くない。

 だいじょうぶだから、

 だいじょうぶ

 その言葉が、聞きたくて、わたしは、いつも木慈と会話する。

 木慈との会話に、それ以外の話題が上ったことは、ない。 

 そんな木慈に、なぜか、わたしは久留麻先生のことを、話していた。

 木慈は、久留麻先生のことを、どう思っているのだろうと、多少なりと、気になったからだ。

 木慈は、しばらく黙っていた。その陶磁のような綺麗な肌には、暴力の影すら見当たらない。神に守られた少年。わたしは、木慈のことを、そんな風に思っていた。

 ・・・・・・いたい

 え?

 目の前から、木慈が、消えていた。

 痛い?

 わたしには、木慈の言った言葉の意味が、分からなかった。

 久留麻先生は、わたしの分裂人格の、何人かと対話している。果たして、木慈と会話しているのかどうか、わたしには分からなかったが、木慈が久留麻先生から、ひどい扱いを受けたなどということがあるだろうか。暴力を振るわれた、だとか。

 いや、そんなこと、ありえない。久留麻先生ほど、暴力に疎遠な人はいないのだから。いつだって、人に親切で、優しい先生なのだ。

 だけど、木慈は、どうやら久留麻先生のことを、あまり好きではないようだった・・・・・・。

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