第2話 対話その一 凛音

 「あいつは、やめといた方が、いい」

 凛音との、会話は、いつもそのフレーズから始まる。あいつとは、久留麻先生のことだ。凛音は、どうやら、久留麻先生のことを毛嫌いしているようだ。なぜなんだろう?

 今日は、そのことをはっきりさせておきたかった。

 「どうしてなの、凛音? 久留麻先生は、あんないい人なのに」

 ふん、と凛音は、鼻を鳴らして、馬鹿にしたような顔をしてわたしを、見た。

 「おまえは、人を見る目がないよ。そんなんじゃあ、簡単に、悪人につけこまれちゃうさ。エリエリはね、優しすぎるんだよ。たとえば、心が、綺麗で純粋で、とっても病んでる。そういう奴を、徹底的に痛めつけるのが、好きな人間ってのもいるもんさ」

 凛音は、そう言うと、けらけらと笑った。

 「何を、言っているの、凛音。たしかに、わたしたちは、辛い経験をしてきた。でも、この世界は、悪い人間ばかりじゃないのよ」

 そんな、説教じみたわたしの言葉に、凛音は気分を害したのか、むっつりと黙ってしまった。

 結局、いつもと同じだ。凛音との会話は、いつも噛み合わない。それも、そのはずだ。彼女は、変態嗜好なのだから。

 わたしは、普通でありたかった。ただ、普通の、幸せが欲しいだけなのだ。

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