強すぎるという理由で幼馴染パーティを追放された【鎧術師】だけど、戻ってきてくれって言われたら帰ってくるつもり

さくらます

第1話

「アル、あなたをパーティから追放します」


「え、ああ、うん」



 宿泊先の宿にてボクはそう宣言された。


 ひとまずボクらのことについて語ろう。


 ボクらのパーティ――“咲き誇る晶花”は【聖女】リリィをリーダーに置いた幼馴染で組んでいる。



「あなた……そんな反応でいいの?」



 リーダーの【聖女】は聖属性の力で攻守回復完璧な能力を発揮している。ストレートロングの黒髪とツリ目の黒目の美人さんで、性格はきついかもだけどボクの初恋の人でもある。



「あっはは! 流石アル、反応薄すぎっ!」



 【狂戦士】のダルクはパーティの切り込み隊長で、ビキニアーマーなのは鋼鉄なんかよりも自分の方が固いという自信の表れか、それとも身体を見せたい自己顕示欲の表れなのか。



「アル、うちが言うのもなんだけどこれは怒ったり反抗したりしていいとこだよ」



 【魔導師】のシエットはパーティを様々な属性の魔法を操って戦闘の指揮を執っている。人に興味が無いのかこんな時でも読書をしているけど話はちゃんと聞いてくれているんだ。



「んー……じゃあ、一体どうして?」



 そしてそんな3人を裏からサポートしているのが【鎧術師】のボクことアルマコードだ。長いからみんなからはアルって呼ばれている。


 【鎧術師】はそもそもが特異的な【職業】で、言うなれば付与魔法を得意とする盾役だ。敵の攻撃を一身に受けて相手にはデバフを、味方にはバフを振りまいて戦闘を有利に運ばせる……というものだ。


 教会でその【職業】が判明した時はみんなに変な目で見られたけど、そのうちこの力の強さに分かってきてみんなボクを褒めてくるようになった。


 そのままリリィを含めて冒険者になりたがった村の子でパーティを組んでAランクになるまで頑張ってきたけど……ああ、そっか。


 きっとボクよりもパーティに合う人が仲間になるんだろうな。パーティは4人がセオリーだし、役割が被ってたら外すのがいいに決まって――



「それは、あなたが強すぎるからよ」


「…………え?」



 予想外の答えにボクは思わず首を傾げてしまった。



「アルの付与魔法は既に一流……それでなくても攻撃を一手に担いながらサポートなんてそこらの冒険者にできる所業ではありません」


「でも、それがボクの役目だし」


「それが出来んのがすげーってことっしょー? アルってあーしたちよりもマジ強いんだし」


「攻撃力、耐久力、素早さだけじゃなくて魔法力や精神力の強化ができる付与魔法使いなんてギルドにもう1人いるかいないかってレベルだし」



 確かにボクは1番先頭に立ちながらも付与魔法を扱うために全体を常に見ることを心がけている。そうでなければ盾役なんてこなせない。


 付与魔法は他の魔法使いと違って個人に与えるように改造したから味方にデバフを、敵にバフを与えることなんてない。


 そうだ、ボクは強い。それは分かっている。なんせAランク冒険者なんだから。だけど強いだけだ。強いだけの人なんてどこにだっている。



「それにアル、自分から裏方としての役割を言い出すよね。消耗品の確認に補充、マッピングに……もうたくさん」


「そう! 私たちが言うよりも先に言って、やり始めるより先に終わっちゃってこっちは大助かりなんだから!」


「え、えっと……どういたしまして……?」



 リリィが詰めてきたのでボクは思わず適当な返事をしてしまう。


 それはみんながパーティの顔として取材やらを報告やらで話をしてくれているからせめてものお返しにしていることだ。ボクは話すのが上手くないからボクとしてはそっちの方が助かっている。



「ええ! 大いに自信を持つべきよ! ……不甲斐ないのは私たちよ」



 リリィが自虐的に言い放つと、ダルクとシエットもまた彼女に呼応するように顔を暗く伏せていく……『そんなことない』なんて言える場面ではないだろう。



「だからアル、あなたを追放して私たちだけで強くなります!」


「それ、ボクが休暇もらえばいいだけじゃ?」


「それはダメよ。期限があったら私たちがサボるかもだし、無期限だったらアルの腕が鈍っちゃうもの。アルにはアルのペースで冒険者を、私たちは私たちのペースで冒険者を続ける……これが私たちの総意よ」



 ふと周囲を見てみれば、ダルクもシエットも笑顔で頷いていた……肯定として受け取っていいのだろう。


 ……なら、彼女たちの想いを無駄にするわけにはいかない。



「わかった。みんなが戻ってこいって言うまでボクは戻らない」


「そうしてくれると助かるわ。じゃ、この脱退届にサインしてね」



 そうしてリリィは既に他のメンバーのサインが書かれた届出を僕に渡してきたので、手早くサインすると早速窓口に駆けようとして……ボクが呼び止めた。



「な、なによアル。リーダーなんだから私が出すのは決まってるでしょ?」


「それはそうなんだけど……ボクが出してくるよ。みんなはこれからボクが抜けたことで生まれる穴を埋めるために会議とかするでしょ? ならそれを優先した方がいいよ」


「アル……ま、まあ……それはそうだけど……」



 困惑した様子のリリィが周囲に目を配ると、ダルクは『いーんじゃね?』といつもの軽い調子で呟いて、シエットは本を畳みながら呆れた調子でため息をついた。



「……そうね。アルがそこまで言うならちゃんと出しなさいよ。出さずにいるなんて私が許さない。出したって報告もすること! そういう紙ももらってきなさい!」


「うん。そうしたら荷物は……どうする?」


「持っていっていいに決まってるじゃないの。お金は個人のはそっち持ちで、パーティの費用の4分の1をもう下ろしてあるわよ」


「そっか。じゃあ行ってくるよ」



 脱退届を手に持って、ボクは一度彼女らと別れる。


 窓口の受付嬢さんには驚かれたけど無事パーティから抜けることはできて、報告もちゃんとした。


 荷物をバッグに詰めて、改めて彼女らに別れを告げる。



「みんな、またね」


「ええ、また会いましょう」「またねー」「それじゃ、また」



 こうしてボクは結成から3年所属した幼馴染パーティから追放されることとなった。


 ちなみに新米から3年でAランク到達はかなり異例のことらしい。

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