第14話 白龍使いの騎士の葛藤(ランス視点)

 人の姿をしたミゼルがセシルにキスをしようとしてるのを見た時には心臓が止まるかと思った。確かに、浄化が終わって虹の力を補充した時白龍姿のミゼルにはまだ足りないとせがまれていた。


 だけど、俺はセシルに無理をさせたくない。もっと補充するとなれば抱きしめる以上のことをしなければならない、それはここへやって来たばかりのセシルにはまだ無理だと思ったんだ。


 何より、俺がセシルのことを大事に思っている。聖女としてももちろんそうだけれど、セシルという一人の女性に惹かれてしまっている。契約結婚とはいえ、聖女としてやってきた覚悟や契約すると決めた時の潔さに惚れない奴はいないだろう。見た目だって正直言うとめちゃめちゃタイプだ。


 そんな大事なセシルに、力が必要だからとキスさせてくれなんて……。そう思っていたらこれだ。


 セシルとミゼルのキスは阻止できたけれど、結局セシルとキスしなければいけなくなってしまった。キスがしたくない訳じゃない。大事に思っているからこそ、その行為も双方の合意の上で、気持ちのこもったものじゃないとダメだと思ったんだ。


 でも、セシルは聖女としての覚悟を俺に示してきた。それに俺とキスをするのは嫌じゃないとも言ってくれた。俺がセシルとキスしないならミゼルがすると言って聞かないし、そんなのは嫌だ。だったら俺がするしかないだろう。


 セシルとの初めてのキスは、言葉には言い表せないくらいだった。それに、キスした後のセシルの顔があまりにも可愛すぎてミゼルに見せたくないと思ってしまったんだ。だから思わず抱きしめて隠してしまった。


 ミゼルには独占欲が強いと言われてしまったけれど、仕方ないだろう。こんな気持ちになるのは初めてだし、どうしていいか正直わからないんだから。


 ミゼルは今後、濃厚なキスやそれ以上のことも必要になると言っていた。俺がセシルを大事に思うあまりそれができないのであれば、ミゼルが人の姿でそれを代わりに行うとも言っていた。


 白龍使いの騎士は誰でもなれるわけではない。白龍の力を使う素質があるかないか、白龍との意志の疎通ができるかどうかが大事になる。そしてそれは国内の騎士の中でもほんのひと握りだという。


 俺には白龍使いとしての素質があった。白龍ミゼルに白龍使いの騎士として選ばれ、騎士見習いの時から共に行動をすることでミゼルとの絆も強めてきたと思う。


 一人前の白龍使いの騎士になるために騎士学校時代も白龍と騎士の歴史について学んできたのだから、もちろん白龍にとって虹の力がどれだけ重要かというのはよくわかっている。わかっているつもりだった。


 実際に聖女という一人の人間が目の前にいて、その人から力を分けてもらう行為がどれだけその人や自分に影響を及ぼすかなんて思いもしなかった。


 俺は本当に白龍使いの騎士としてちゃんと学んできたんだろうか。


 キスもそれ以上のことも、セシルとちゃんと心を通わせ思い合った上でしたいと思うだなんて甘い考えなんだろうか。そんな考えで白龍の騎士が務まるんだろうか。


 でも、もしもミゼルとセシルが虹の力のためにそれを行うことになるとしたら想像しただけで吐き気がする。ミゼルのことは信頼しているし白龍として尊敬もしているけれど、それでもセシルには指一本触って欲しくない。


 そんなことを思ってしまう俺は、白龍使いの騎士として失格かもしれない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る