占奈さんの占いが当たりすぎている!

ゆきのあめ

中学生 1学期編

1話:占奈さんの占い結果【カラス】

 僕の隣の席の占奈うらなさんは、教室に水晶玉を持ってくるちょっと変わった子だ。


 初めのうちはその珍しさでみんなの人気者だったけど、占奈うらなさんの占いがあまりに独特で、次第にみんなの興味は薄れていった。


 でも、僕だけは知っている。占奈うらなさんの占いは当たりすぎていることに!


 毎朝、占奈うらなさんは僕のことを占ってくれる。占奈うらなさんの占いは、水晶玉に手をかざして動かすやり方だ。そうすると、イメージがぼんやり浮かんでくるらしい。


「見えてきたよー」


 占奈うらなさんが一生懸命手を動かしながら水晶玉を見つめている。その瞳には、いつも何か特別な輝きが宿っている。窓から差し込む朝の光が、水晶玉に反射して教室全体を淡い虹色に染めていた。


「占いの結果はー、カラス!いいことあるよ〜」


 笑顔で自信満々に答える占奈うらなさん。僕はいつも、その自信に少しだけ圧倒される。占奈うらなさんの占いは毎回こんな感じだ。占い結果は「カラス」だけで、カラスが何なのか、何が起きるのかは教えてくれない。


「今日もありがとう占奈うらなさん」


 お礼を言って、授業の準備を始めた。占奈うらなさんはご機嫌に水晶玉を磨いている。教室の窓から見える青空には、夏の雲がゆっくりと流れていた。


 先生が授業を進める中、僕の目は自然と占奈うらなさんに向かってしまう。彼女は窓の外を見つめている。その姿は、どこか遠くを見ているようで、夢見がちな表情だ。どうして彼女はあんなに占いにこだわるのだろう。


 占奈うらなさんが水晶玉を使うたびに、彼女の瞳に一瞬だけ浮かぶ真剣な表情が、僕にはとても神秘的に見える。ミステリアスな雰囲気だけど、話すと能天気で不思議。そんな占奈うらなさんが少し気になっていた。


 でも今日は、「カラス」と言われたせいで、カラスのことが頭から離れなかった。カラスってなんだ。カラスに襲われるとか、何かを持って行かれるとか。でも、「いいことあるよ」って言ってたな。


 授業には大して集中できないまま、あっという間に学校は終わってしまった。


 放課後、教室から出るとき、占奈うらなさんに「カラスって何だったの?」と聞いてみた。


「うーんとね、ふふっ、お楽しみ」


 教えてくれなかった。占奈うらなさんの笑顔は、何かを隠しているような感じがして、それがまた気になる。


 家に帰るまでもカラスが襲ってこないか見渡していたが、結局何事もなく着いてしまった。家の前の小さな庭には、夏の花が咲き誇り、風に揺れている。


「所詮は占いだ。外れることもある。」


 そう思いながら、玄関の扉の鍵を開ける。その時、庭の方からペットの犬が突然吠え始めた。様子を見にいくと、カラスと犬が喧嘩をしていた。犬の毛が逆立ち、カラスは不敵な目を光らせていた。


 まさかここに来てカラスと遭遇するとは!


 犬の吠えがうるさいので、カラスを追い払おうと近づいた瞬間、手に持っていた鍵をカラスに奪われて飛んでいってしまった。


「え!?うそだろ!?」


 慌てて追いかける。これのどこが「いいこと」なんだ!?カラスは意外と速く、僕は近道を試みた。住宅街の狭い路地を全力で駆け抜ける。曲がり角を曲がった瞬間、誰かにぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい!」


 すぐに立ち上がって全力で謝った。相手はゆっくり立ち上がって「大丈夫ですよー」と言い、スカートの汚れをはたいていた。僕の心臓はドキドキしていた。ぶつかった相手が誰なのか確認するのが少し怖かった。


「あの、怪我とかないですか?」


 と聞くと、女の人は顔を上げながら、


「ちょっとよろけちゃっただけなんでー、あれ?天夜あまよくん?」


 突然名前を呼ばれ、少し冷静になる。恐る恐る女の人の顔をよく見てみると、占奈うらなさんだった。彼女の顔には、驚きと好奇心が混ざり合っていた。


「う、占奈うらなさん?なんでこんなところに…いや、怪我大丈夫?」


「ふふ、大丈夫だよ!」


 元気に答える占奈うらなさん。彼女の笑顔を見ると、少しほっとした。


天夜あまよくんはどうしてここに?」


「カラスに鍵を奪われて追いかけてたんだけど、逃げられちゃった。」


 占奈うらなさんは少し考えるように顔をしかめた。


「あれ、いいこと起きるはずなのに……」


 その言葉に一瞬だけ真剣な表情が見えた。


「ごめんね、私にぶつかったせいで、いいことじゃなかったね。占い外れちゃった……」


 占奈うらなさんは調子悪いのかな呟きながらカバンのチャックを開けて水晶玉を取り出した。すると、占奈うらなさんが大きな声をあげた。


「あぁ!水晶玉割れちゃった!」


 いつもはゆっくり脳天気な占奈うらなさんがとてもショックを受けているようだった。水晶玉の破片がキラキラと輝き、彼女の手の中で崩れていた。


「ごめん僕の不注意で。僕が新しいの買うよ」


 焦って周りを見ないでぶつかってしまったのは自分で、流石に申し訳なく弁償を申し出た。


「いや、いいよ」


 占奈うらなさんは、いつもの元気はなく、静かに答えた。


「でも悪いの僕だし」


 占奈うらなさんは少し考える素振りをした。すると、何かを思いついたように目が輝き、みるみるといつもの占奈うらなさんに戻っていった。


「あ、じゃあ次の休みの日って空いてる?一緒に買いに行かない?」


「い、いいんですか。」


 僕は思わず敬語になってしまった。心臓がドキドキして、顔が熱くなるのを感じた。


「だれかと一緒に水晶玉見に行くのが夢だったの!」


 占奈うらなさんは楽しそうに手を叩きながら、喜ぶ。その姿を見て、僕の胸にも温かい気持ちが広がった。


 その言葉に、僕はなんだか少しドキドキした。占奈うらなさんの喜ぶ顔が、僕の心をくすぐる。


「じゃあまた明日学校でね!占い外しちゃってごめんねー!」


 占奈うらなさんと別れて、僕は彼女が帰っていくのを見送った。割れた水晶玉を鞄にしまい、占奈うらなさんは僕の家とは真逆の方向に帰っていった。


 鍵は取られてしまったけど、占奈うらなさんと放課後に出会えたのも嬉しいし、休日に一緒におでかけ。水晶玉デートができるなんて!


 占い当たってるよ!占奈うらなさん!

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