第33話:新発見

「飯にするか」


「やったね、腹ペコペコだったんだ」

「とんでもないレベル上げだったね」


 始祖吸血鬼と呼ばれているプロウジェニタ・ヴァンパイアが、配下まで率いて襲って来るとの予言を受けた四人は、必死のレベル上げを行った。


 レベルの急上昇で身体能力も著しく強化された。

 強化された身体能力の中でも、特に嗅覚と聴覚を使って、四人から逃げようとする魔獣探し出して狩りまくった。


 ライアンは単独で斃せば銀級冒険者に認定される、3000㎏級のイノシシ系魔獣フェルスの群れを襲い、六頭仕留めて更にレベルを急上昇させた。


 次いで3000kg級のウシ系魔獣ブーバルスの群れを襲い、五十四頭を仕留めて、五頭連続で狩ってもレベルが上がらなくなったので、エマに止めを刺させてレベル上げを手伝った。


 カインとアベルには止めを刺すだけのレベル上げをさせなかった。

 聖治癒術が主のエマは、個人レベルと技のレベルを上げるだけで実戦闘力が上がるが、カインとアベルは違う。


 レベルの急上昇と共に上がった身体能力を使いこなせなければ、実戦では役に立たない事を、四人は良く知っているつもりだったのだが……


「何を言っているの、身体を使いこなせなくても好いじゃない。

 レベルさえ上げてしまったら、身体を守る魔力が上がるのよ。

 身体能力を使って敵の攻撃を避ける必要がなくなるわ。

 敵の攻撃を受けながら攻撃すればいいじゃない。

 それに今回の敵は眷属に限定されているのでしょう?

 だったら遠距離から治癒術を放てばいいじゃない。

 ライアンくらいのレベルなら、普通の治癒術でもレッサー・ヴァンパイアを灰にできるわよ!」


 魔術精霊アールヴの言葉は全く考えもしていない事だった。

 いや、この世界の誰も知らない事だった。


 普通の治癒術でも、高レベルの者が放てばヴァンパイアを斃せるなんて、これまで誰にも聞かされていなかった、まあ誰も知らなかったのだから当然ではある。


「よし、そうと分かれば俺のレベル上げは中止だ。

 カインとアベルのレベル上げに集中するぞ」


「待って、待って、待って、予言を忘れたの?!

 ライアンがプロウジェニタ・ヴァンパイアの心臓を貫かないと勝てないの。

 エマのホーリー・ピュアリフィケイションが強力にならないと勝てないの。

 カインとアベルのレベル上げはついでに上げられる分で充分よ」


 魔術精霊アールヴがライアンを止める。


「そうだよ、俺たちのレベル上げは他の精霊たちに手伝ってもらうからいい」

「エマとライアンは俺たちの事など考えずにレベル上げをしてくれ」


「カインとアベルの言う通りよ、今は自分の事だけを考えましょう」


 エマがライアンを諫めた。


「そうだな、数万回に一度しかプロウジェニタ・ヴァンパイアに勝てないんだ。

 他の事を考えては絶対に勝てないな。

 すまん、カイン、アベル、レベル上げは全てが終わってからだ」


「分かっているよ」

「強敵は二人に任せるから、ザコ掃除は任せてくれ」


 エマとライアンは自分たちのレベル上げに集中した。

 神々ですら名前を付けていない、人間は存在も知らなかった10トン級のサブ・ドラゴン系魔獣の群れを襲い狩り、自分たちの経験値にした。


 最初に悪神ロキの呪いを解く方法を聞いた時には、セント・エンシェント・ドラゴンと戦うなど想像もできなかったエマとライアンだったが、今では亜竜なら10トン級の大物を狩れるようになっていた。


 今のエマとライアンでは、いくら大魔境とは言え、効率的にレベル上げできるような魔獣がいなくなっていた。


 エマとライアンが死に物狂いでレベルを上げたので、純血種の竜が嫌う亜竜を何頭狩っても、それほどレベルが上がらなくなっていた。


 どうしてもレベルを上げたければ、更に東に進んで純血種の竜を狩るしかないのだが、そうなると、純血種竜の長と言われているセント・エンシェント・ドラゴンを敵に回してしまう。


 どうするべきか、エマとライアンが真剣に悩んでいる時、カインとアベル、猟犬見習たちも必死のレベル上げを行っていた。


 信じられないくらいレベルの上がった猟犬見習たちは、大魔境の木々を利用する事で、自由に空中を駆けられるようになっていた。


 空中殺法とも言える技を身につけていた。

 地球のマンガにある、忍犬のように戦えた。


 徐々に高レベルの魔鳥を狩れるようになり、単独でホブ・オークすら斃せるほどの戦闘力を身につけていた。

 六頭が連携して戦えば、リーダー・オークすら狩れるかもしれない。


 カインとアベルも信じられないくらい個人レベルと魔術レベルが上がっていた。

 誰かが少しケガしただけで治癒魔術を惜しげもなく使い続けたからだ。

 これまで手に入れた極小魔石を全て使いきる勢いで治癒魔術を使い続けた。


 カインとアベルは効率よくレベルを上げようとは考えていなかった。

 どれほど効率が悪くても、狩れる魔獣や魔鳥狩った。

 治癒魔術で使う魔石を補充する為でもあった。


 目に入る魔獣と魔鳥を手当たり次第狩って、全てを滅ぼす勢いで殺した。

 それが結果的に一番早くレベルを上げる方法だった。


 双子の連携力で、攻守の切り替えが絶妙だった。

 完全同調して魔術攻撃すれば、二乗の攻撃力と防御力になるという、ぶっ壊れた実戦能力を手に入れていた。


 タングステン級冒険者になれる、500kg級の魔獣を単独で狩るどころか、1000kg級の魔獣を単独で狩れるようになっていた。


 それだけでも銅級冒険者になれる戦闘力なのだが、夜営地に戻る時間まで必死でレベル上げした事で、銀級冒険者になれる3000kg級魔獣を単独で狩れるようになっていた。


 カインとアベルは知らなかったが、もう二人はこの国で五指に入る実力者で、スペシャル・グレイド・ヴァンパイアを重傷にまで追い込んだ、レディング辺境伯家騎士団副団長に匹敵する実力者になっていた。 

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