異世界子供会：呪われたお母さんを助ける！

第27話：事前準備

　エマと予言精霊ディースが言い争っている間も、他の三人と精霊たちはそれぞれができる事をやっていた。

　今回の襲撃で斃した売り物になる魔獣は、転送精霊セーレが村に送った。

　売り物にならない魔獣は、転送精霊セーレが村のダンジョンに送った。

　同時に、作り置きされてあった料理を引き寄せていた。

　他の精霊たちはそれぞれができる事をしていた。

　敵を見落としていないか周囲を警戒していた。

　それは猟犬見習たちも同じで、鼻を利かし聞き耳を立てていた。

「出たわ、次に襲ってくるのは上級吸血鬼と言われるハイア・ヴァンパイアでも、特級吸血鬼と畏れられるスペシャル・グレイド・ヴァンパイアでもないわ。

　始祖吸血鬼と呼ばれている、普通なら表の世界には出てこないプロウジェニタ・ヴァンパイアが襲ってくるわ」

　余りにも予想外の敵に、エマが言葉を失っていた。

　伝説上の存在でしかないプロウジェニタ・ヴァンパイアが襲ってくるなんて、普通は誰も考えないから当然だった。

　この世界でヴァンパイアといえば、普通はレッサー・ヴァンパイアだ。

　数十年に一度現れて国に災厄をもたらす存在でも、インターミーディア・ヴァンパイアになる。

　数百年に一度、大陸のどこかに現れて国を滅ぼしてしまう存在、それでもハイア・ヴァンパイアまでだ。

　スペシャル・グレイド・ヴァンパイアでさえ伝説上の存在で、冒険者の多くが実在しないと言っているのだ。

　それがプロウジェニタ・ヴァンパイアが襲ってくると言われたのだ。

　予言精霊の言葉を信じたからこそ、固まってしまうのは当然だった。

「それはいい、プロウジェニタ・ヴァンパイアを斃せたらとんでもなく強くなれる。

　手下のスペシャル・グレイド・ヴァンパイアやハイア・ヴァンパイアを複数斃せたら、セント・エンシェント・ドラゴンとも対等に話せるんじゃないか？」

　ライアンが、固まってしまったエマに目的を思い出させるように言った。

　敵が誰であろうと、最後にはセント・エンシェント・ドラゴンから血と鱗を手に入れないといけないのだ。

　話し合いで手に入れられなかったら、セント・エンシェント・ドラゴンを斃してでも血と鱗を手に入れないといけないのだ。

　プロウジェニタ・ヴァンパイアが相手だと聞かされたくらいで、固まっている訳にはいかないのだ。

「そうだったわね、私を正気に戻してくれてありがとう。

　ディース、私たちはプロウジェニタ・ヴァンパイアを斃せるの？

　何か斃す方法はあるの？！」

「今見ているから待って、ロキが邪魔しているのか、なかなか定まらないの。

　幾通りにも可能性があって、どれが一番可能性が高いか分からないの」

「じゃあ見えている可能性を全部言って、私たちは勝てるの？」

「ほぼ無理ね、どんな手段を使っても、皆殺しにされる未来ばかりよ。

　今から逃げたとしても、必ず追いつかれて皆殺しにされるわ。

　待って、僅かだけど全員が助かる方法があるけれど、幾千万に一度だけよ」

「それで充分よ、プロウジェニタ・ヴァンパイアに勝つ方法があるだけで充分よ。

　何をすれば良いの、何をすればプロウジェニタ・ヴァンパイアに勝てるの？！」

「今からレベル上げに励む事と、ヴァンパイアを滅ぼせる武器を手に入れる事。

　ヴァンパイア特化の武器を手に入れて、今よりもレベルが上がったエマが、その武器にホーリー・エムパワーメントを付与するの。

　その剣でプロウジェニタ・ヴァンパイアの心臓を貫いた状態で、エマがホーリー・ピュアリフィケイションを放つしか勝つ方法は無いわ」

「とんでもなく厳しい条件だが、レベル上げは今から大魔境中の魔獣を殺しまくればいいだけだから、可能だな」

　ライアンがいとも簡単な事のように言い切った。

「ヴァンパイア専門の武器というと聖銀の武器だけれど、とても高いよな？」

「明晩までに手に入れるのは、さすがに不可能だろう？」

「本気で勝つ気なら、領都の宝物殿から盗み出す方法もある。

　ヴァンパイア・ハンターが持っていると聞いた事があるから、借りるか？」

「脅迫や力尽くで持って行くのを、借りると言わないぞ」

「脅迫や力尽くは最終手段として考えておくとして、他に方法は無いかな？」

「転送精霊セーレ、領都や王都の宝物殿から聖銀の武器を持ってこられないか？」

「持ってくるのは簡単だが、領都や王都に限るのか？」

「「他にも聖銀武器がある場所を知っているのか？！」」

「知っているぞ、史実に残るような大盗賊が隠した財宝の場所を幾つも知っている。

　そこには聖銀だけでなく聖金の武器もある。

　欲しいのなら幾らでも取り寄せてやるぞ」

「ちょっと待て、聖銀と聖金、どちらの方がヴァンパイアに効果がある。

　どれくらい価値が有ろうと関係ない。

　高く売れる武器が欲しんじゃない、プロウジェニタ・ヴァンパイアを滅ぼせる武器が欲しいんだ。

　それは聖銀と聖金のどちらなんだ？！」

「ヴァンパイアを滅ぼす事だけを考えれば聖銀です」

　ライアンの言葉に聖別精霊ワルキューレが応えた。

「ただ、聖銀と言っても万能ではありません。

　ヴァンパイアを滅ぼせば滅ぼすほど、聖なる力を失います。

　聖銀武器はできるかけ多く手に入れるべきです。

　聖銀を使わなくても滅ぼせるヴァンパイアは、できるだけ普通の武器で斃して、普通の武器では斃せないヴァンパイアは聖金武器か銀系武器で滅ぼすべきです。

　聖銀武器はプロウジェニタ・ヴァンパイアとスペシャル・グレイド・ヴァンパイアだけに使う方が良いでしょう」