第17話:不意討ち

 レッサー・ヴァンパイアが斃されたというのに、ゴブリンたちはしつこく襲い掛かって来るし、ゾンビもスケルトンもあきらめない。


 数が激減したゴブリンたちを守るように、ゾンビが夜営地の外側で盾になり、スケルトンがエマ、カイン、アベルの隙をついて焚火を消そうとする。


「「増援だ!」」


 カインとアベルが一緒に叫んだ。

 信じられない事に、新たなゾンビとスケルトンが襲って来た。

 百体前後二組だと思っていたのに、更に四組が襲って来たのだ。


「ホーリー・ピュアリフィケイション」


 とはいえ、敵が聖浄化できる悪神ロキの眷属なら何問題もない。

 エマはゾンビやスケルトンなら一度に三十体聖浄化できるようになっている。

 焚火に近づく前に次々と灰にしている。


「「「「「ギャ、ギャガ、ギャガギャガガ、ギャギャギャ」」」」」


 ゾンビやスケルトンが相手なら簡単に滅ぼせる。

 そう思っていた時に大魔境の木々の奥からゴブリンの群れが襲って来た。

 四組五百体近くのゴブリンが包囲飽和攻撃をしかけてきた。


 一度の聖浄化術で三十体を斃せるゾンビやスケルトンなら大丈夫だったが、一体ずつ斃さないといけないゴブリンが相手では防ぎきれなかった。


「「目を閉じろ、フラッシュ」」


 ここでカインとアベルがとっておきの魔術を放った。

 普段はダンジョンに住む夜行性のゴブリンは強い光に弱い。


 不意に目を焼くほどの激しい光を浴びせられると、しばらく目が見えなくなるだけでなく、激しい頭痛で身動きできなくなり、時に失明までする。


 ところが、ゴブリンは無力化できたが、予想外の事態が起きた。

 地に倒れてのたうち回るゴブリンが、カマドの焚火を倒してしまった。

 倒すだけでなく、身を焼かれながら火まで消してしまった。


 あたり一面にゴブリンが焼かれる悪臭が広がる。

 ゾンビの腐敗臭で鼻がバカになっていなければ、四人は大声で悪態をついていた。


 カマドの火が消され、ヴァンパイア除けの香が薄くなる中で、四人は敵を全滅させるべく戦い続けていた。


 エマは聖浄化術でゾンビとスケルトンを灰にしていた。

 ライアン、カイン、アベルは地にはうゴブリンを殺し続けていた。

 だが、その状況を大魔境の奥で見続ける目が有った。


 今回の襲撃は、二人のレッサー・ヴァンパイアが共同して行っていた。

 一人が目立った言動で襲撃を行い、エマたちが隙を見せた所を、もう一人が奇襲してエマを殺すはずだった。


 悪神ロキの眷属の中での地位や能力の割に自尊心が高すぎるレッサー・ヴァンパイアは、他のレッサー・ヴァンパイアが斃されたと聞いても、エマたちを舐めていた。

 他のレッサー・ヴァンパイアと力を合わせる気など全く無かった。


 だが、自分たちをヴァンパイア化してくれた、親に当たるインターミーディア・ヴァンパイアに強く言われて、しかたなく一緒に戦う事にした。

 インターミーディア・ヴァンパイアに命じられた作戦通りに襲っていた。


「ホーリー・ピュアリフィケイション」


 インターミーディア・ヴァンパイアの作戦が図に当たり、奇襲が成功してエマが殺されてしまうと思われたが、違った、四人は敵の奇襲を予測していたのだ。


 エマたち四人は、自分たちの事を悪神ロキが見張っていると思っていた。

 レッサー・ヴァンパイアが独りで襲っても勝てないのを知っていると思っていた。

 

 悪神ロキが勝つ気で眷属を送って来るとしたら、二体以上のレッサー・ヴァンパイアに連携させるか、もっと上位の眷属を送って来ると予測していた。


 だから、常にレッサー・ヴァンパイア以上が奇襲をかけて来ることを前提に、余力を残しながら戦っていた。


 その予測通り、敵はなりふり構わずヴァンパイア除けの香を消そうとしていた。

 明らかにレッサー・ヴァンパイア以上が奇襲を仕掛けて来る前兆だった。


 だからこそ、エマは背後から奇襲をしかけられても余裕をもって迎え討てた。

 エマに近づくはるか前に、森を出た所で灰にされてしまった。


「エマ、残った眷属を全部聖浄化してくれ。

 カイン、アベル、早い者勝ちだぞ」


「えええええ、身体強化できるライアンが有利じゃないか!」

「少しは上位個体を回してくれよ」


「全てが終わったらいくらでもレベル上げに付き合ってやる」


 四人は残った敵を皆殺しにした。

 三体目のヴァンパイアが襲ってくる可能性も考えて、周囲を警戒して、インターミーディア・ヴァンパイア以上に奇襲されても迎え討てる余力を残して戦った。


 悪神ロキの眷属である、レッサー・ヴァンパイア、ゾンビ、スケルトンは灰にすることができたが、問題はゴブリンだった。

 五百体以上のゴブリンの死体が、夜営地の周囲に散乱しているのだ。


 さすがにこの状態で、この場で眠れるほど四人は無神経じゃない。

 この状況で眠れるくらい図太かったとしても、死体を狙って魔獣が集まって来るのが明らかだった。


「どうする、今から村まで走って帰るか?

 カインとアベルもレベルが上がっているから、昼までには帰られるだろう?」


「待って、だめよ、この辺りに三十日青夜草が生えていないか確認したいわ」


「そうだね、その為に二日続けて大魔境で夜営したんだ」

「俺もそう思う、夜にしか球根を作らない三十日青夜草を探すべきだ」


「分かった、村までの帰り道で探すのではなく、周囲を探すのでいいな?」


「ええ、それで良いわ、悪いけれど、付き合ってもらうわ」


「俺たちは好きでやっているんだ、気にするなよ」

「そうそう、普通に親父たちを手伝っていたら、こんなにレベルが上がっていない」


「よし、東に向かって歩くぞ」

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