第7話:初大魔境

 エマとライアン、カインとアベルは夜明けとともに村を出た。

 六十日青草と三十日青夜草を探す大人たちと一緒に村を出た。

 

 ただ、日暮れまでに村に戻る大人たちは急いで広がって行ったが、夜営をする四人は無駄に体力を使わない早さで進む予定だった。


「エマ、どの方向に行くの?」

「方角にあてはあるの?」


 カインとアベルは探す方角をエマに任せる気だった。

 ライアンも方角にこだわりがなかったので、黙ってエマの顔を見た。


「母上様がリッチを斃された方に向かいます。

 とても珍しい薬草なので、大魔境の奥に向かうべきです」


 エマの言う通りだと三人も思ったので、黙って東に向かった。

 魔獣には強大なモノも多いので、彼らが木々にぶつからずに通れるように、生き残った木々の間隔は地球の森よりも広い。


 魔境の奥に進むほど強大な魔獣が住んでいるので、木々の間隔も広くなる。

 村のある場所は魔境外から半日の場所にあるので、地球の自然林の倍くらいの間隔で木々が生えている。


 村の周囲百メートルは、木々が伐採され野草や藪も刈られている。

 魔獣やロキの眷属に襲われた時に見晴らしが良いように手入れされている。

 森の部分も村の近くは薬草が集められ野草は家畜の餌になっている。


 大魔境の本当に脅威は、村から三百メートル入った場所からだ。

 村の周囲三百メートル、たったそれだけの広さしか最低限の安全がない。

 その三百メートルも、時に強大な魔獣が入って来る事がある。


 カインとアベルがダンジョンの中で訓練していた猟犬見習たちが、先を行く。

 四人の周囲を守るように広く散開して、二歳三頭当歳三頭の猟犬見習が行く。

 半円形に散開する猟犬見習たちの中央を、カインとアベルが左右に分かれて進む。


 カインとアベルから少し遅れた中央にエマがいる。

 最後尾には後方からの奇襲に備えたライアンがいる。

 猟犬、カインとアベル、ライアンの誰かを斃さないとエマには迫れない。


 四人と猟犬見習たちは堅実に周囲を警戒しながら東に進む。

 朝から二時間かけて東に歩いた頃。


「「「「「ウォン!」」」」」


 六頭の猟犬見習が一斉に吠える。

 敵が風下から近寄ってきたの、足音に気がついてから吠えた。

 四人は直ぐに戦えるように身構えた。


「うぉ~ん!」


 敵のリーダーが雄叫びをあげたので、四人も正体を知った。

 現物に会うのは初めてだが、子供会で学んだフォレスト・ウルフの雄叫びだった。


「「「「「ウォン!」」」」」


 猟犬見習たちが勢いをつけるためにフォレスト・ウルフに向かって駆ける。

 猟犬見習たちよりもフォレスト・ウルフの方が遥かに大きい。

 そのまま迎え討ったら体当たりされただけで負けてしまう。


 それでも、ダンジョンでの訓練で、モンスターが現れたら向かっていくように教えられているので、迷うことなくフォレスト・ウルフの首に喰らいつこうと駆ける。


 猟犬見習たち続いてライアンが駆ける。

 最初の一歩は猟犬見習たちに遅れたが、身体強化されたライアンの脚力は凄まじく、一気に抜かしてフォレスト・ウルフの首を次々と刎ねた。


 あっという間に首を刎ね飛ばされた九頭のフォレスト・ウルフが地にはった。

 フォレスト・ウルフの毛皮は、特に頭もついた一枚物の毛皮は、ダンジョンでドロップされる毛皮片よりもお金になる。


 肉も独特の香りを好む人がいるし、身体を温めるとも言われているので、ダンジョン浅層でドロップする蛇肉、蛙肉、兎肉、鳥肉よりも高く買ってもらえる。


 時間に余裕があるのなら毛皮を剥いで解体するのだが、今回は解呪薬の素材を探すのが最優先なので、腹を裂いて心臓近くの魔石と肝臓だけを取り出した。


 魔石はあらゆる魔道具に使う、日本で言う電池のような物で、この世界のどこに行っても買い取ってもらえる。


 ただし、再使用ができないので、常に新しい魔石が必要になる。

 問題は、ダンジョンでドロップされる魔石は大きさも含有されている魔力量も一定なのだが、野生の魔獣から取った魔石は大きさも魔力含有量もまちまちなのだ。


 その為、店によっては買取を拒否されるのだが、手に入れた人が魔術に使うのなら、大きさや魔力量がそろっていなくても何の問題もない。


 四人も大魔境で初めて夜営するので、ダンジョンで手に入れた魔石以外の魔力源を確保しておきたくて、時間を使ってでも取り出したのだ。


 肝臓は、働いてくれた猟犬見習たちへの褒美だった。

 よく働いてくれた猟犬見習たちには、その場で褒美を与えた方が良い。

 血の滴る新鮮な肝臓は、猟犬見習たちへの最高の褒美だった。


 四人は斃したフォレスト・ウルフを残して東に進んだ。

 あまり多くの死体を残すと疫病の原因になるが、九頭くらいのフォレスト・ウルフなら、大魔境の魔獣が直ぐに食べ尽くしてくれる。


 四人は歩きながらスライム水袋で水分を補給し、昼食も半干肉ですませた。

 水袋はダンジョンのスライムを二百体斃すと一つくらいドロップするのだが、薄くて丈夫な膜につつまれた二百ミリリットルくらいの大きさだ。


 固形食料は半干した蛇肉をそのまま食べた。

 今日の昼に食べると分なので、保存用の塩を薄くして少し干しただけだ。

 長期保存用の硬くて塩辛い干肉と違って結構美味しく食べられた。


 昼を少し過ぎても休まずに東に進んだ。

 運が悪いと村に帰る大人たちを行き会い、面倒な事になると心配していた四人だが、運が良いのか悪いのか、誰とも行き会う事なく東に進めた。


 初めて大魔境で夜営する四人は、早めに場所を決めて準備する心算だった。

 魔獣だけなら少々の敵が相手でも勝てると確信していたが、悪神ロキの眷属だけは心配だったので、十分な時間を使ってできるだけの準備をしたかったのだ。


「この辺が良いんじゃないかな?」

「ここの水は飲めると思うよ」

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