第5話:どこに行けばいいの?
エマとライアンが神に愛されているのは間違いなかった。
普通なら神々の試練を達成したら教えてもらえるような特別な知識、悪神ロキの呪いを解くための材料を、試練の内容として教えてもらえたのだから。
とはいえ、集めなければいけない素材がとんでもなく困難なモノだった。
セント・エンシェント・ドラゴンの鱗と血は別格としても、大魔境の奥深くで六十日に一日しか花開かない六十日青草の花弁と、同じく大魔境の奥深くで三十日に一度だけ夜に作られる球根を集めろなんて、無理難題極まりない。
そもそも、村から離れて大魔境で一夜過ごすのは自殺行為なのだ。
大魔境には陽が昇ってから行き、陽が暮れるまでに戻ってくるのが常識だ。
そもそも大魔境の中に村を築いている事が奇跡なのだ。
「無礼を承知でおたずねします。
セント・エンシェント・ドラゴンの居場所、六十日青草と三十日青夜草の生えている場所は、自分で探さなければいけないのですね?」
エマがエイル神にたずねた。
「そうです、それくらいしないと試練にはなりません」
「私たち四人だけで探さなければいけないのでしょうか?
村の人々に手助けしてもらっても良いのでしょうか?
辺境伯領の領都や辺境の村で話を聞いても良いのでしょうか?」
「そうですね、どのようにするのが試練に相応しいでしょうか?」
エイル神はテュール神やウル神の意向を確かめるように言った。
だが、テュール神とウル神は何も言わなかった。
「ではこうしましょう、探しているうちに人から話を聞く事があるでしょう。
それが駄目だと言うのは無理があります。
妻を想う夫や命の恩を返したい者に、何もするなと言うのも非道です。
場所を調べるのは禁じませんが、素材を集めるのは四人に限ります。
これならば試練にもなり、人の情を否定していません」
「猟犬を使うのは良いのですか?」
「獲物やトリフを探すのに猟犬を使っています」
「ふっふっふっふっ、上手い事を考えましたね。
鼻の利く猟犬に手伝わせるのは良い思い付きです。
村の者たちが猟犬を使うのは良いですが、四人は禁じます。
良い猟犬は主人と一緒に戦ってくれますから、禁じた方がいいでしょう」
「ちょっと待て、カインとアベルに限って猟犬を使う事を許す」
これまでエイル神に任せきりだったのに、急にウル神が割り込んできた。
「まあ、ウルがこの子たちの味方をするとは思いませんでした」
「好き好んで人の味方をしている訳ではない。
吾は狩猟の神として公平であらねばならぬ。
猟犬を上手く使いこなす事も狩猟の大切な技である。
単に獲物の場所を調べさせるだけでなく、共に戦ってこその猟犬だ」
「恐れながらお聞きさせていただきます、猟犬は一頭だけでしょうか?」
「父は十頭の猟犬を上手く使いこなしています」
普段は言葉遣いをあまり気にしないカインとアベルだが、今は違った。
さすがに狩猟の神に向かってぞんざいな言葉遣いはできなかった。
だが、質問せずにはいられない、とても大切な事だった。
「好い度胸だ、我に対して質問など不遜極まりないが、それだけは褒めてやる。
確かに多くの猟犬を使いこなすのは大切な技術だが、我が認めるのは自分で育て鍛えた猟犬に限る」
カインとアベルは余計な事を言った事で猟犬を使えなくなってしまった。
黙っていれば、それぞれ一頭ずつの猟犬を使えたのに、多くの猟犬を使いたいと欲をかいた事で、厳しい条件を付けられてしまった。
確かに、個人の試練に家族が育てた猟犬を認めるのはおかしい。
今から猟犬を鍛えようと思っても、子犬時代や若い見習時代を他の人が躾けた犬では、カインとアベルが一から育てた猟犬とは言えない。
「調子に乗り過ぎてしまいました、申し訳ありません」
「他の技で俺たちの力を確かめてください」
調子に乗り過ぎて状況が悪くなったと気がついたカインとアベルは、即座に謝り、これ以上ウル神の機嫌を損ねないようにした。
「これでもう何も聞く事はないですね?
テュールも言う事はないですね?」
エイル神がライアンに加護を与えているテュール神に確認した。
「今回の試練はこれでいい、これ以上の試練を与える気はない」
テュール神の言葉で神々の試練の内容が確定した。
後はこの内容に従って試練を達成するだけだった。
誰も、神々ですら試練が達成された際の褒美を気にしていなかった。
この場にいる人が共通して考えている事は、アイリスを助ける事だったからだ。
神々が共通して考えている事が、ロキに対する懲罰だったからだ。
ロキは身勝手で、神々の中でも特に性格が悪く、多くの神々から嫌われていた。
善良な神からは特に嫌われており、その代表がエイル神とテュール神だった。
ロキの鼻を明かせるのなら、大恥をかかせる事ができるのなら、試練を達成した人間に褒美を大盤振る舞いしても良いと考えていた。
「三柱の神様から尊き試練を頂いた。
しかも私たちが協力しても良い範囲まで示してくださった。
今直ぐ情報を集めてセント・エンシェント・ドラゴンの居場所を探し、六十日青草と三十日青夜草の群生地を見つけるぞ」
「「「「「おう!」」」」」
村長の言葉に、神殿に集まっていた全村民が応えた。
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