第4話:神々の試練
「神を欺こうとは、小賢しい事だ」
カインとアベルの頭の中に激痛を伴う神言が響き渡った。
「本来なら命を奪っていた所だ」
ライアンの頭にも同じ言葉が響くが、痛みよりもあきれた感じが伝わる。
「神の中には、人が苦しむ姿を見て楽しんでいるモノもいます。
卑小な人がそのような神を恐れるのはしかたがない事です。
私が加護を与えたアイリスも、ロキに呪われてしまいました。
この事に関しては、少々腹立たしく思っていました。
何か仕返しをしてやりたいと思っていたので、丁度良い機会です。
私がアイリスと同じように加護を与えた、エマの母親を想う心は本物です。
他の子供たちの友を想う心も本物です。
大いなる力を持つ神として、少々の無礼は笑って許してあげます」
エマの頭にも最初から神々の言葉が届いていた。
だが、カインとアベルとは違い、激痛などは伴わなかった。
それどころか、エマの苦しみと哀しみを労わる気持ちが伝わっていた。
「私たちのような卑小な人間の想いなどすべてお見通しでしょうが、言葉にしてお願いさせていただきます。
試練の褒美は、ロキの呪いに侵された母上様の解呪でお願いいたします」
エマは心からの願いを口にした。
「可哀想だけれど、神々の定めで他の神の邪魔はできないの。
私とは考えが違うけれど、ロキも神には違いないから、邪魔はできないの。
だから、試練の褒美にお母さんの呪いを解いてあげる事はできないの」
「では、母上様を助ける方法は無いのですか?!」
「あるわよ、エマがレベルを上げてロキの呪いを解呪できるようになればいいの。
他の方法は、ロキの呪いを解けるくらい強力な薬を作ってお母さんに飲ます事よ」
「ですがエイル神様、母上様の呪いはロキ神とリッチの二重の呪いです。
ロキ神の呪いを解くだけでは助からないのではありませんか?」
「そのようは心配は不要ですよ。
リッチごときに呪いなど、ロキの呪いを解く力があれば、一緒に解けます。
リッチの事など考えずに、ロキの呪いを解く事だけを考えなさい」
「ありがとうございます、少し安心できました」
「では貴方たちに同じ試練を与えますが、本当に良いのですか?
独りではなく四人共同の試練だから、通常の試練よりも困難ですよ。
更にロキ呪いを解く方法ですから、達成不可能に近い試練ですよ。
やめるなら今ですよ、本当に挑戦するのですね?」
「挑戦します、母上様を助けられるのなら、どのような困難も厭いません!」
エマの不退転の決意がその場にいる者全員に伝わった。
母親を想う心が伝わり、同席していた村民全員が協力しようと思った。
「男に二言はありません、達成不可能な困難でも逃げません。
父さんたちが助けられた命の恩は、俺が返します」
ライアンの言葉は、命の恩は命で返す、誇り高い大魔境の民の心に響いた。
同席していた村民全員が、改めて協力しようと思った。
「どれほど難しくても独りで挑戦するよりも簡単だと思います」
「聖治癒術のエマと剣使のライアンと協力できる方が、独りよりも簡単です」
カインとアベルの言葉に、悲壮な決意をしていた村民たちの心が軽くなった。
冷静に観察した的確で賢い判断に、神々の試練を達成できるような気がした。
「四人の決意が揺るぎないのは分かりました。
いいでしょう、貴方たちの覚悟を認めて試練を与えてあげます。
母と友を想う気持ちに免じて、困難ですが実利の有る試練にしてあげます。
試練はロキの呪いを解く素材を集める事です。
まずは六十日青草の花弁と三十日青夜草の球根を1kgずつ集めなさい。
それと、セント・エンシェント・ドラゴンの鱗と血を集めなさい。
鱗と血は100gで十分です」
エイル神の試練を聞いて、集まっていた者たちは言葉を無くすほど驚いていた。
神々の試練の困難さは、昔話でたくさん聞いていた。
それでも、相手がエンシェント・ドラゴンと言う話は聞いた事がなかった。
一般的に聞く実現不可能な試練は、ドラゴンを退治しろと言う話だ。
普通の人間がドラゴンと言われて思いつくのは亜竜、サブ・ドラゴンでしかない。
ブレスを吐けないサブ・ドラゴンを思い浮かべるのが普通なのだ。
確かに物語や演劇などに出てくるドラゴンはブレスを吐く。
だが、最上級の騎士や冒険者でも、狩る事ができるのはサブ・ドラゴンだ。
特級の回復薬や解呪役の原料もサブ・ドラゴンで、現実に思い浮かべる素材はサブ・ドラゴンでしかないのだ。
そんなサブ・ドラゴンを、12歳の子供に独りで斃せと言うのだから、一万人に一人しか試練を達成できないのも当然だった。
それなのに、いくら四人で挑めるからと言って、亜竜種ではなく純血種を斃せと言うのだから、無理難題にも程がある。
純血種の竜の中でもベビー・ドラゴン、リトル・ドラゴン、ヤング・ドラゴン、アダルト・ドラゴン、エルダー・ドラゴンを飛ばして最も強力なエンシェント・ドラゴンだと言うのだから、もうこれは死ねと言っているも同然だった。
「ラッキー、殺さなくても良いんだ!」
「話し合って鱗と血をもらっても良いんですよね?」
カインとアベルがとんでもないことを言った。
その言葉を聞いた大人たちは目から鱗が落ちる想いだった。
神々の試練だから、エンシェント・ドラゴンを斃さないといけないと思い込んだ。
だが、エイル神はひと言も斃せと言っていなかった。
「ふっふっふっふっ、頭の良い子は好きですよ。
ですが、貴方たちにセント・エンシェント・ドラゴンが鱗と血を渡しても良いと思える代価を用意できるのですか?」
「世界中を探してでもセント・エンシェント・ドラゴンが望む物を見つけます」
エマが力強く答えた。
「調べて分からなくても、セント・エンシェント・ドラゴンに直接聞けばいい」
ライアンが実直過ぎる事を言う。
「決まったね」
「楽しみだね」
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