婚活オークションのタイムアップ

ちびまるフォイ

理想の男性像

「えっと……会場ここで合ってる……?」


何度地図を見直してもそこは「新作AIオークション」とある。

目指している婚活オークション会場ではない。


「あ! いた! 〇〇子~~! こっちこっち!」


すると会場の中から誘ってくれた友達が手をふっている。


「ちょっと大丈夫? 本当にこの会場であってるの?」


「あってるよ。同じ会場で別のオークションやってるだけ」


「そういうものなの?」


「時間帯で分けてるのよ。

 それにデカデカと"婚活オークションこちら"ってあったら

 それこそ中に入りづらくない?」


「それはたしかに」


「あ、はじまるみたい」


ライブが始まるような緊張感。


ステージには司会が婚活オークションの説明をし、

参加者にはそれぞれ札が手渡される。


「それでは婚活オークションをはじめます!!」


最初の男性がステージへ上がってきた。


「この男性は家事も積極的にやってくれます!

 さらに優しい男性です! 落札した人は結婚できます!

 

 まずは10万円から!!」


婚活オークションが始まる。

男性と結婚したい人が落札額を決めていく。


横目で友達を見る。

お互いに札を上げていない。


「落札しないの?」


「家事と優しさは基本装備でしょ。

 それプラス何ができるかで結婚すべき相手か決めないと」


「ガチだ……!」


「結婚なんてのは愛だの恋だの

 そんな浮かれた感情で判断するものじゃない。

 

 自分の未来を決める重大な契約よ。

 家を買うよりもちゃんと見極めなくちゃ」


「それでどんな男性なら落札するのよ?」


そう聞いたが友達の答えを聞く前に、最初のオークションの声で遮られる。


「100万円! 100万円で落札です!

 ご成婚おめでとうございます!!」


落札者のもとに男性が送られ、ふたりはめでたくゴールイン。

その場でブーケトスをして去っていった。


「では次の男性です!!」


ステージに次の男性が呼ばれる。

さっきとは明らかに身だしなみにかける金額がちがうのがわかる。


「次の男性は大手△△グループの御曹司!

 最低落札額は100万から! どうぞ!!」


オークションが始まるや友達が爆速で札をあげた。


「1000万!!!」


「ええええ!? ちょっと大丈夫!?」


「結婚さえできればどうともでもなる!!

 こんないい案件を逃す手はないわ!!」


「でも性格とか、見た目はあんまりだけどそれでもいいの?」


「そんなの金の前には小さなことよ! 2000万!!!」


明らかに狩りをする者の目でガンガン落札額を釣り上げていく。


絶対にアレと結婚する。

その強い意志が他の参加者をしりぞけた。


「いませんね!? いませんね!

 はい! では36番さん落札です!!

 ご成婚おめでとうございますーー!!」


友達は晴れて御曹司と結婚することができた。


「悪いわね、〇〇子。おさきに失礼するわ」


「外で僕のプライベートジェットを待たせてある。

 このまま月の裏側にハネムーンと行こうか」


「まあステキ。全人類が空を見上げて私達の結婚をお祝いしてくれるのね」


友達が会場をあとにし、自分だけオークション会場に残される。

結婚相手を決めかねているうちにもオークションは進んでいく。



「次の人は、雑誌メンズの表紙も飾ったイケメンです!!」



私は入札しなかった。

イケメンでも性格が問題あるかもしれない。



「次は、コミュニケーション能力が高い男性です!」



これもスルー。

コミュニケーション能力が高いと嘘をつきそう。



その後もさまざまな男性がかわるがわる出てきた。

私は結局判断できかねて落札できなかった。


だってこれから人生の大半を歩んでいくパートナー。


なにかひとつでも欠点があったら、

そのひとつが大きな歪みとなって破綻してしまうかもしれない。


まして虎の子の自分の財産を使って競り落とすのだから、

変に妥協して「この結婚失敗だったね」になったら笑えない。



もうどれだけ時間がたったか。


いつのまにか司会の人も変わっている。



「では紹介します!


 コミュニケーション能力が高く話を聞いてくれ、

 相手の感情にも配慮できます!

 

 さらに株取引も上手で非常に多くのお金を稼ぎました!!」



ステージにいるのはどう見てもイケメン。

待ちに待った完全無欠の男性像だった。


「こ、こんな男性がいるなんて……!」


オークションが始まる。


「最低落札額は1000万から!」


ついに私は札をあげた。


「1億!!!」


私の入札で他の参加者は腰を抜かした。


「いませんか!? 他の方いませんか!?」


もう誰も挑戦する気がないのだろう。

会場の空気でわかった。


「おめでとうございます! 35番さん落札です!」


「やったーー! これで完璧な人生を歩める!!」


ステージから商品が降ろされて、私のほうへと歩み寄る。

司会者は満足そうに紹介した。




「おめでとうございます。

 人工知能つき高性能アンドロイド・山田くん。

 

 ぜひその性能を体感してくださいね!」



私の手を握ったソレ手は、ひんやりと気持ちよかった。

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