第5話 盟約魔法。

「では時に、国の邪魔者に世話を」

『いや、寧ろ保護すべき対象だとは認識されている、だからこその少数精鋭、ココで保護しているんだ』


「でも無能だと抱いて飼い殺し」


『あぁ、すまなかった』

「品定め次第で、扱いが変わりますか」


『それと中身次第だ、関わらせる数をコチラで調整する事になる』

「無能は肉奴隷ですか」


『にっ、いや、不満が出ない程度の扱いとなる』


「前回はいつですか」


『凡そ180年前を最後に、我が国には現れていない』

「と言う事は他国には現れている」


『そして1つの王朝が滅んだ』


「あぁ、悪しき淫売ですか」

『あぁ』


「適当に言った事が当たると、ちょっと、この世界の愚かさを感じざるを得ませんね」

『少し離れた南西の国が、ウチの属国化で何とか立て直している最中だ』


「地図、もっとハッキリしたのが有りますね」

『あぁ、有る』


「この国の規模は如何程ですか」


『最大統治をし、帝国と呼ばれている』


「まさかアナタ、殿下とかの立場だったりはしませんよね」


『いや、そうだ』

「心中お察し申し上げられませんが、大変そうですね、こんな女を攻略せねばならなかったんですから」


《彼には兄弟も姉妹も居ますので》

「それは、腹違いとかでは無く」

『あぁ』


「何故、婚約者が居ないんですか、男色家ですか」

『いや、居た』


「亡くなられましたか」


『浮気だ、向こうの』


「殿下、舐められ過ぎでは」

『いや、敢えて、ルーイに落とさせたら、落ちてしまったんだ』


「可哀想な事を」

『あぁ、本当にすまない事をした』


「そのお嬢様は」

『国外追放だ』


「追放される国が迷惑かと」

『問題無い、そうした者を好む者の手に渡っただけだ』


「敗因は」


『手を、出さなさ過ぎたのが、ダメだったらしい』

「いや大物の婚約者だからこそ清く有るべきでしょうよ」


『だとしても、口付けも、しなかったんだ』

「いや病気って口付けでも移りますし、殿下は間違ってませんよ」


『けれど、同年代には、潔癖過ぎると』

「腐り落ちて初めて後悔する様な馬鹿の言う事はほっときましょう、取り敢えずはルーイ様やカイル様に私を任せ、婚約者探しをして下さい」


『もし、君が良いと言ったなら』

「あ、非処女なので避けるべきかと、相応しく無いでしょうから」


 それは、そうした想定は十分にしていた筈が。


『そう、なのか』

「比べられたりしたくないでしょうし、もしかしたら病気持ちかも知れません、是非身綺麗な方をお選び下さい」


『あぁ、考えておく』

「では、今日の所はココまでで、以降は協力するつもりは有るので情報開示をお願い致します」


『分かった、相談させて貰う』

「では解いて貰いましょうか」

《俺はこのままでも構いませんが》


「いえ、不意に出血されても困るので、またお願いします」

《分かりました》


 確かに俺は、ネネを悪くはないかも知れないとは思っていたが、気が有ったワケでは無い。

 それこそ、今さっき気付かされた事で、それも相まって動揺しているだけだ。


 彼女は既に成人済み、それこそ。


『すまない、君の婚姻歴を聞きそびれていたんだが』

「残念ながら無いですが、もう解いてしまったので、また後日で。では」


『あぁ』


 貴族は兎も角、庶民には処女かどうかを気にしない者も居る。

 要は病気さえ無ければ構わない、貞操観念さえしっかりしていれば。


《お疲れ様、殿下》


『あぁ』


 部屋の中の事をルーイに聞かれていた事すら、俺は忘れてしまっていた。

 こう酷く動揺しているのは、あくまでも自覚の無い好意に気付かされただけであり。


《ねぇ、敢えて考えていなさそうだから忠言させて貰うけど。もしかして、強引にされての事、かも知れないよね》


『あぁ、確かにそうだな』


 何かしらの事件に巻き込まれたか、騙されたか。

 しかも彼女なら、どうだったにせよ、今は何も言わないだろう。


《次は僕が聞くよ》


『だが』

《どうせ嫌われてるんだし、嫌われても問題無いんだし、逆に切っ掛け次第では相談したいかも知れないしね》


『あぁ、すまない』

《ううん、気にしないで、殿下》




 そして翌日、今度は僕とネネで盟約魔法を行う事になったんだけど。

 付き添いにレオンハルトをって、レオンハルトには少し気を許してるらしいけど、気が有るワケでは無さそう。


「はい、では先にどうぞ」


《何で非処女なの?》


「結婚するだろう恋人が相手でしたが、浮気され、問い詰めたらフラれました。ヤらせないと真面目に付き合って貰えなかったんです、向こうは避妊方法も治療法も発達してますから、基本的には好きならヤらせろの世界なんです」


《そっか、ごめんね》

「いえ、念の為に期間を空けて病気の検査をしましたが、陰性でしたのでご心配無く」


《そう、何も無くて良かったね》


「その元恋人が有能だった場合、ココでは重用されてしまうんですよね」

《そこは、ごめん、僕には基準は知らされていないんだ》


 本当にただ見極めろ、だけ。


「成程、基準を知るにはアナタ達を知るしか無い」

《あぁ、確かにそうだね》


「どうぞ」


《レオンハルトが気になってるらしい》

「同情するなら誠意をお願いします」


 取り付く島もない。


『あぁ』


 彼が自覚する以上にネネを気に入っているらしい。

 彼女の強い語気に、反省した相槌。


「来訪者への扱い、及び見極めに関する事に協力したいと思っていますが、どの程度の扱いになるでしょうか」

《それなんだけれど、僕らの庇護下に入ろうとは思わない?》


「コチラとしては見知らぬ赤の他人です、盤石な基盤かどうか見極めてから答えを出すべきかと」

《男に裏切られたから信用ならない?》


「それも、ですね」


 ごめんね。

 突っ込む役目だから。


『すまない』

「いえ、愚かだったと自分でも思っていますし、勿体無かったなと思っていますから」

《ごめんね》


「いえ、童貞ですか?」


《いや》

「婚約者は」


《居ない》

「何故」


《まだ18だし》

「は、未成年淫行の概念は無いんですか」


《有るけど、16からなら》

「それで出来ちゃったら結婚するんですか?」


《まぁ、うん》

「貞操観念」

『いや、コレでもしっかりしている方なんだ』


「家の方針、ですか」


《もう少し、後で答えたいな》

「はぁ、私が言えた義理では無いですが、もう少しご自分を大切にして下さい」


《けれど必要な時は有るし、女の子の相手は苦じゃないし》


 理由を後で教えて、分かってはくれても、呆れるよね。

 要は体を使っての情報収集を、今まさに国が許しているワケだし。


「じゃあ、アナタの庇護下に入ります、そしてついでに体を使わないで情報収集が出来る様に訓練します」


《へっ?僕?》

「各国に来訪者が来る時点で必要悪ですし、なら被害者は。あの、男の場合は女性が担当するんでしょうか」


《あ、うん、異性愛者ならね》

「はぁ、ココは一夫一妻制ですか」


《一応は》

「妾が非公式で存在しますか」


《ココでは認められてはいないけれど、使用人の名目で囲っている者も居る》


「他国にハーレムは存在していますか」


《らしい》

『あぁ』


「はぁ」


 ココまで呆れられてるとなると、もしかしたら本当に国を滅ぼされちゃうかも。


『すまない』

「いえ、事情によってはハーレムも必要悪なのでしょう」


『あぁ』


「そうなると、やはり独り身は危険ですよね。このままでは、単なる資源の取り合いでしか無い、所有者が明確な方が」

《それこそラインハルトなら》


「間違っても皇太子妃とか死ぬ程面倒そうなので絶対に嫌ですが、そんなに楽ですか、皇太子妃って」


《いや、けどレオンハルトは》

「暫くの間です、アナタもアナタで報われるべきなんですから、そうした相手が見付かったなら婚約破棄なり離縁すれば。離縁は不可能なんですか?」

『いや』


《うん、離縁も婚約破棄も出来るけど》

「じゃあアナタで」


《いやでも》

「嫌ですか、なら妥当な」


《嫌では無いけれど、ラインハルトなら童貞だし》

「殿下にも選ぶ権利位は有るべきでしょうが、それに万が一にも醜聞になっては困ります、家臣なら我慢しなさい」


 凄い。

 明らかにラインハルトが動揺してるのに、無視し続けてる。


『頼んだ、ルーイ』

「妥当な相手が見付かり次第離縁又は婚約破棄、そうした正式な書類の発行をお願いします」


『分かった』

「では次に……」


 それからも落胆するラインハルトを無視して、婚約や結婚についての事を聞かれ。

 解散する事に。


《ねぇ、ラインハルトが皇太子じゃなければ》

「限られた選択肢しか無いなら選ぶかも知れませんが、そもそも中身を知りませんので」


《あぁ、そうだよね》

「では、可及的速やかに書類の準備をお願い致します」




 殿下の様子を無視していた事を、書類を持って来たルーイ氏に咎められる事に。


《何で?彼は優しいし》

「では君は愛する人を面倒に巻き込みたい質なんですね」


《いや、違うけれど》

「私としては、好きな相手には穏やかに平穏に幸せに暮らして欲しいと思いますが、君は違うんですか」


《その為の補佐が》

「また来訪者が来たら、次こそはもしかすれば抱くかも知れない、そんな相手を君は全力で愛せるんですね凄い」


 あぁ、弟は居なかったけど、こんな感じなんだろうか。

 可哀想だと思う反面、ちょっとムカついてしまう。


《でも、だからこそ初めては》

「幸福を知らなければ不幸は知り得ません、知らなくて良い事も有ると思いますよ」


 と言うか最初から年下だと知っていたら、こうしてもう少し、年齢マウントで排除出来たと言うのに。

 だから年を言わないし、聞かなかったのか、天才か。


《それこそ僕が代わりに》

「あぁ、家臣なんですし好きにすれば良いんじゃないですか、そう言い訳しつつ先代達は美味しい思いをしていたのかも知れないですしね」


 あ、適当に言った事だけど、可能性としては有るのかも。

 となると、この国、嫌いかも。


 本格的に他国の事を学んで、脱出する手段や自由を得る手段を模索しないと。

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