第4話 バルバリゴ・カイル騎士爵。

 週に3度の揚げ物祭りは、寧ろ侍女達、女性陣に好評だった。


 無理も無い、どちらかと言えば女性は便秘がち。

 しかも髪や肌、それこそ爪を綺麗に保つには、やはり内外からの油の摂取が必須。


 男性陣に合わせ粗食にしていたらしく、もう、兎に角好評だ。


《私達は平気ですが》

『こう男性陣が味わえないのも、少し可哀想ですね』


 母子侍女コンビ。

 週に3回、他の母子侍女コンビも併せて世話をしてくれており、そのどちらもが親切に接してくれているが。


 ただ男性陣に関しては、物凄く口が固い。

 ご本人様からお聞き下さい、としか言わない。


「訓練に支障が出ても困りますし、慣れるにしても、先ずは野菜のオーブン焼きで十分だと思いますよ」


 今までは単なる素焼きだった。

 流石、イギリス相当、と思ったものだ。


 飯がマズいと戦に強いらしいが。

 スペインはどうなる、美味いぞスペイン料理。


『今はアレも美味しくなりましたからねぇ』

《油と一緒に摂る方が、栄養に良いそうですからね》


「ですけど無理に合わせて頂いても不快なだけですし、私も元は料理人でも何でも無いですから、本職の方にお任せするのが1番だと思います」


 そう、問題はどう生きるか。

 とうとう、明日には市井へ行く事になっている。


 異国も異国、異世界の異国だからこそ、覚悟をしているけれども。

 正直、治安次第では、ココで世話になるしか無いと思っている。


 不安だ、不安しか無い。

 最悪の治安なら、媚びを売ってでも城で世話にならなければならない。


 楽しみであり、憂鬱だ。




《どう、でしたか》


 制服の警備隊員とは別に、私服の警備隊員も居たらしい。

 確かに窃盗だとかの犯罪を目にする事は無かったけれど、それもこれも、城からの警備も付いてるからこそではと疑ってしまう。


 裏側や問題が見たかったのに、何も無かった。


「治安は、良さそうに見えましたね」


 表は。


 結局は裏側だ。

 裏も表も、どうして保護するのか、その理由の両面を語って貰わなければ信じるなど不可能だろう。


 ましてや、信用度度返しで色恋沙汰なんて以ての外。


 なのに、もしかして。


 あぁ、やはり舐められているんだろうか。

 高貴な者の遊び、だったのかも知れない。


《ご不満そうですが》

「そうですね、色々と、ですね」


 ココには魔法が有るにも関わらず、一切、それに対してはお互いに触れて来なかった。

 けれど、そろそろ踏み込むべきだろう。


《何が、ご不満なのでしょうか》


「魔法、魔道具、嘘を見抜ける魔道具を私に貸して下さい」


 魔法が使える、使えないの前に、それらを先ずは要求するしか無い。

 魔法が使えないから、と放り出されては困るのだから。


《畏まりました》


 有るんかい、そんなモノが。




『いつか、こんな日が来ると思っていたよ』


 思ってたトーンと違う。

 暗い、と言うか何でレオンハルト氏は諦めを漂わせているんだろうか。


 何だ、何のゲームにコチラが勝利したんだ。


「先ずはコレの説明を」

『あぁ、身に付けるだけで、使えば分かる筈だ』


 スターサファイアの様な石がはめ込まれた、指輪。

 呪いの防具か何かなら、即死かアンデッド化しそうだけれど。


「それが本当かどうか、ですよね」


『すまなかった、君に色仕掛などと低能な事をしてしまった事については、コチラも非常に反省している。けれども、コレは本物だ、試しに俺が着けてみよう』

「それすら偽装なら、どう復讐すれば良いんでしょうね」


 全く笑えないが、それこそココの男に惚れてしまう様な魔法でも掛けれていたなら、本気で殺す算段をしなくてはならなくなる。


『盟約魔法なるモノが有る。嘘を言えば、先ずは小指から捥げ、赦しを得られなければ死ぬ』

「何でそれを早く、信用出来ませんでしたか」


『すまない』


 確かに信用度は0どころか、マイナスだ。

 何処の誰とも分からないのだし、人となりなど更に分からない。


 コレはお互い様だ。


「いえ」


『誰に掛ける』

「カイル様で、色々と聞き出せる事も有りますから」

《どうぞ、信用を得られるのでしたら、是非》


 乗り気だ。

 やっぱり愚直系は分かり易くて助かる。


『では、始める』


 そして久し振りに、魔法らしい魔法を見る事ととなった。


 呪文と言うべきか詠唱と言うべきなのか。

 何を言っているのか全く分からない文言が唱えられ初め、直ぐにカイル氏の手の甲に赤黒い紋様が現れ、明滅しながら広がり。


 遂に全身に広がったかと思うと、紋様は消え。


《掛かりました、どうぞ》

「ラインハルト様も出て下さい」


『分かった』


 そうして人払いをし、質問する事に。




「ちょっ、誰か治療をお願いします」


 俺達が部屋を出て直ぐに、カイルに嘘を言わせたらしく。

 ネネが慌てて部屋を飛び出して来たが。


《来訪者様をお止めしたんですが》

「痛いでしょうに、それに剣を握るには小指は重要な筈です」

『切断し焼失しない限りは治せる、このまま尋問を続けてくれて構わない、だろうカイル』


《はい》


「本当に、仕事に不都合が出ないんですね」

《はい》


「分かりました、お騒がせしました、終わりましたらお呼びします」

『あぁ、分かった』


 あんな程度の傷で本当に慌てていたなら、彼女は善人寄りなのだろう。

 けれども、今の態度さえ計算だったなら。


 もしそうなら、俺達は、ネネを殺処分をしなければならない。


「終わりました」

『あぁ、もう良いのか』


「いえ、次はアナタです」


『なら、条件が有る、君にも掛けられて欲しい』


 お互いに善き者かどうかを見定めるなら、コレしか無い。

 だが暴かれたく無い者としては、受け入れないだろう。


「分かりました」


 あぁ、彼女はずっと正直だった。

 最初から、こうすべきだったのかも知れない。




『君はココの誰かに惚れたか』


 痛みが有ると知りながらも嘘を言う。

 それだけでも度胸が要る事だし、実際、少しビビっている。


「はい」

『赦す』


 ほんの一瞬、小指の根本が赤く光ると同時に、チリッとした痛みが走ったが。

 今は何とも、ピンキーリングの様に薄く細い赤い線が小指に入っただけ。


 ラインハルト氏は経験した事が有るのだろう、間髪入れずに赦すと言ってくれたお陰だ。

 でも、手加減は出来無い。


「私を魅力的だと思った事は無いですね」


『無い』

「えっ、赦す」


 いや、お互いに警戒してたのは間違い無いワケで。

 それこそ最初は愛想笑い合戦をしていた筈で。


 えっ、何で赤くなってるの。

 立ち会い人のカイル氏よ、これは一体。


《ネネ様、判定は無意識も汲み取る場合が有るそうで》

『君が尊ぶべき相手だったなら、今の所は悪い部分が無い、それだけだ』

「あぁ、成程、そう内面は見せていませんしね」


『あぁ、続けて良いだろうか』

「あ、はい」


『俺達を、愚かだと思っているだろう』


「半々の場合は、どう、すれば」

《そうお答え頂いて大丈夫です》


「半ば愚かだなと思っています」

『色仕掛の事だな』


「はい」


『はぁ』

「事情は全て話せますか」


『追々だな』

「どんな条件を満たせば聞けますか」


『君が悪しき者でないと分かれば、だ』

「では、悪しき者、とは。愚か者も含みますか」


『あぁ』


「私は愚かでしょうか」

『いや』


「抱けますか」


『なっ』

「回答拒否は其々3回にしましょう、良いですね」


『回答を、拒否する』

「では抱けませんか」


『それは』

「似た事も除外に含みたいならどうぞ、コチラもそうさせて頂きますから」


『似た内容は却下だ』

「分かりました、ではソチラがゴネたので私の我儘も1つ通して貰います」


『モノによる』

「男も女も宛てがおうとなさらないで下さい」


『分かった』

「私は異性愛者です」


『俺もだ』

「もし私が無能なら、放逐ですか」


『いや』


「殺処分ですか」

『いや、飼い殺しにするだけだ』


「国としても本当に余力が有るんですね」

『あぁ、近隣諸国との摩擦も特に無い』


「アナタが知らないだけでは」


『我が国の最高位の息子として知る限りは、無い』

「はぁ、名前で察してましたが、何をしてらっしゃいますか。王太子が色仕掛で病気持ちかも知れない女を落とそうとするとか、このままだと、この国滅びますよ」


『あぁ、俺もそう思う』


「ご苦労様です」

『いや、君にも苦労を掛けた』


「いえ、すみません、疑い深いものでして」

『構わない、寧ろそうで有ってくれと願っていたんだ』


「どうして、その様な愚策を」

『古くからの言い伝えや、決まり事のせいだ』


「絶句」

『反対したんだが、俺に婚約者が居ないのを良い事に、元老院がこのままでと押し切ったんだ』


「あぁ、では現時点から法改正させましょう、でなければ今から滅ぼしますよ」


『法改正となると、君に幾ばくか表に』

「えっ、それは嫌です、面倒が有るなら勝手に滅びれ」


『協力は、無理か』


「元来、何を来訪者に望んでいるのですか」

『それは多岐に渡る、新たな魔法や魔道具、知恵や技術は芸術の点でも望まれている』


「では無知無能なら飼い殺し、悪しき者となれば、殺処分ですか」


『あぁ』

「では悪しき者とは何ですか」


『私利私欲から他者を害する者、君はそうか』

「いいえ」


 少し心配になってしまったけれど、魔法は反応しなかった。

 けれど、全く自覚が無い場合は、どうなるんだろうか。


『自覚が無い場合、反応はしない』

「やはり、万能では無いからこそ、コレは最終手段なんですね」


『あぁ』


「アナタは、来訪者が必要だと思いますか」


『場合によるが、負担とならないなら、悪しき者でなければ歓迎したいと思ってはいる』

「帰還は可能ですか」


『俺は知らされていない』

「権限が無いからですか」


『あぁ』

「成程」


 確かに、好き勝手やられて逃げられたら困るものな。

 いや、でも。


『帰せるなら、殺処分にする必要は無いと思うかも知れないが、これも古い掟の1つなんだ』


「あぁ、来訪者が決めたんでしょうね」

『そうした説も有ると聞いている』


 来訪者の恩恵を受けている分、悪しき者が来たなら殺せ。

 コレは互いに得だものな、信頼を示す為にも、抑止力にもなるのだし。


 となると。

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