conspiracy intrigue plot 〜こんすぺらしーんとりっくぱぁー、って何ですか?〜
中谷 獏天
第1話 来訪者、音一 音々。
『僕はジュブワ・レオンハルト、先ずは君の名を良いだろうか』
真冬のある日。
豪奢な城の一角、応接室の暖炉の前に、絨毯の上で毛布に包まり紅茶を飲み終えた女性が1人。
その対面には、テーブル越しに男性が1人、長椅子に座り。
もう1人はドアを背に、女性を心配そうに見守ってらっしゃいますが。
女性は困惑の表情を浮かべたまま固まった後、不安げに声を発しました。
「オトイチです、オトイチ ネネ」
『オーツー、イート?
「えっ?」
『すまない、もう少しゆっくりでお願い出来るだろうか』
「オ・ト・イ・チ ネ・ネ」
『家名が先、だろうか』
「あ、はい、家名がオトイチです」
『ネネ』
「はい」
『ネネと呼んでも良いだろうか』
「あー」
困惑の声を上げる仕草は、万国共通。
困らせたくない彼らは、更に言葉を発します。
『
その言葉を聞いて更に困っていらっしゃる女性は、音一 音々。
結婚し苗字が変わるだろうからと、音一の苗字に音々と名付けられました。
そして正面にいらっしゃる精悍な男性は、ジュブワ・レオンハルト勲功爵。
後方で静観していらっしゃる美麗な男性共に、音々とは容姿も服装も、そして言語も違います。
そうです、ココは多次元的世界線の1つ、彼女にとっては所謂異世界で御座います。
そして彼女はコチラの世界線で言いますと、来訪者、で御座います。
この物語は、フィクションでしょうか、ノンフィクションでしょうか。
第1話 来訪者。
《お食事は如何でしたか、来訪者様》
食堂にて食後直ぐに話し掛けてきたこの男は、カサノヴァ・ルーイと名乗った子爵家の当主、らしい。
若い。
この年で当主とは、一体何が有ったのか。
そこを探りたいけれども、今はそれどころでは無い。
ココはどうやらガチの中世、しかも魔法が有る世界。
一瞬、時間を遡ったのかと思ったけれど、魔法が使われた段階で異世界転移なのだと悟った。
と言うか、悟らされた。
真冬の平野に半袖短パンの非常にラフな格好で意識を取り戻した時、死を覚悟した、そして同時に見た事も無い獣に襲われかけ辞世の句すら浮かばなかった。
けれども生きている、それはこの目の前の優男ルーイ子爵と、男臭いイケメンのジュブワ・レオンハルト勲功爵のお陰。
元居た世界とは少し違う爵位制度らしく、勲功爵は騎士と同等、子爵よりは上の存在。
らしい。
ただ一般人は爵位とか階級とか分かりませんので、違うかどうかすら分からない。
そして、この美麗な男達が集まるこの城の外側には、何故か閂が掛けられている。
勿論、内側にも閂は有るのだけれど、内側にも外側にも閂が有り守衛が居る。
何故なのか。
本来であれば閂は内側のみの筈。
確かに、通用門的な場所は開いたままだし、新手の防御方法なのかも知れないけれども。
おかしい、不自然だと思ってしまう。
そしておかしい所は他にも有る。
簡易ではあるがブラジャーが存在しながらも、服は中世式。
謎の布を何枚も重ね着しつつも、何故かボタンは有る。
そう、ボタンの一般普及は近世だ。
服飾に関わる家族が真剣に言っていたから間違い無い筈。
一般人の服装の用意をお願いしてコレ、高級品扱いならココは中世で確定だと言えたかも知れないが。
ココには魔法が有る。
魔法が有るからこそ、コレがココでの中世なのかも知れない。
けれども、おかしい事は他にもまだ有る。
西洋人しか居ない地で、東洋人を見て可愛い、などとは。
もしかして、相当に美醜の感覚が。
『ネネ、大丈夫か』
レオンハルト勲功爵も、それこそルーイ子爵も優し過ぎる。
自分達が下の名前で呼ぶからと、自分達の事も下の名前で呼んでくれ、だなんて。
会社は勿論、学校でさえ非常に躊躇う申し出なのに、ココはしきたりもマナーも何もかもが違う筈の中世。
だが、遠慮するな、と。
優し過ぎるにしても程が有る。
ハッキリ言えば近い、馴れ馴れしい。
コチラが美麗なら、似た外見ならまだ少し分からなくもないが。
能力も人格も未知数な異国人、いや異世界人に対して、親愛以上の対応をする
いや、思い当たる事は幾つか有るが。
まぁ、要するに、あまりにも不自然なのだ。
「暫く1人にさせて下さい」
『あぁ、分かった、行こう』
《またね、ネネ》
出会い頭に驚かれた事は納得が出来る、東洋人で見知らぬ衣類を身に着けていたし、しかも季節外れにも程が有るだろう軽装オブ軽装。
半袖短パン等、寧ろ下着姿扱いされても仕方が無い。
そして、若い女性と認識されて然るべき外見は確かにしている。
けれど、だからと言って親しげに接して来るのはおかしい。
幼児は必ず見慣れぬ容姿に反応する、コレは本能だ。
ましてや善人か悪人かも分からない、それこそ疫病を持っているかも知れない生き物。
先ずは来訪者が初めてなら、疫病対策をしろ、と。
感染症に罹っている節は無いにしてもだ、無症状でも罹患していないとは限らないのだし、そもそも。
まさか、魔法か、魔法で何とかなるから無防備なのか。
そうか、便利だな魔法。
残念ながら感染症に魔法は効かず。
この後、城内にて感染症は広まってしまいました。
『すまない、ネネ』
「いえ、コレばかりは完全にコチラの有責です、どうか心置きなく看病されて下さい」
ネネが来て暫くの後、発熱、関節痛に頭痛を訴える者が出始め。
3日後には城内の全員が感染し、業務も何もかもが滞り、感染拡大がネネの知る所になってしまった。
コレは、本来なら完全にコチラのミスだと言うのに、ネネは。
『本当に、すまない』
「いえ本当に大丈夫ですので、休んで下さい、お願いします」
予め来訪者用にと設けられていた部屋には、調理可能な場所も洗濯場も有る。
そして体調不良者が出た時点で、最悪の想定をし、念の為にと食糧等の備蓄を追加で置かせていた。
小麦に大麦は、製粉された物から押し麦、乾麵。
トマト等の瓶詰めも置かせたが、簡易に食べられる保存食や加工品は、最低限しか置いていなかった。
けれども、彼女から不満は出る事も無く。
要望も無く。
今は嫌な顔一つせず、何の要求も無いまま、看病の為にと忙しく動き回り続けてくれている。
『助かる、終わったら休んでくれ』
「はい」
水分が摂れているか、汗をかき寒がってはいないか、そう見回りながら空気の入れ替えをし。
嫌な顔をせず、慣れた手付きで看病をしてくれている。
そうした報告が各所から来ている。
少なくとも、衛生観念は有り優しさも有る。
俺達は、もしかすれば。
あぁ、また熱が上がってきたらしい、どうにも考えが纏まらない。
窓から入る冷たい風が心地良い。
『ありがとう、ネネ』
「いえ当然の事ですから、ゆっくり休んで下さい」
本当に感謝している事を理解して欲しい。
そしてどうか、俺達を許して欲しい。
《ネネのお陰で助かったね》
『ネネ』
「大変、申し訳御座いませんでした」
レオンハルトが止める間も無く、ネネはソファーに上がり、頭を下げた。
『頭を上げてくれないだろうか』
「魔法が有るから、などと安易な考えをし、コチラから忠告もせず大事に至り。大変、申し訳御座いませんでした」
《死者も出ていないし、大丈夫だよネネ》
先達の助言を軽視した結果、僕らは苦しむ事になってしまった。
けれど、本当に死人は出ていないのだし、コレはどうしようも無かった事。
『ネネ、頼む』
「では質問させて頂いても宜しいでしょうか」
顔は上げてくれたけれど、意を決した様な表情。
『それは構わない、だからネネ』
「ありがとうございます、ではご無理の無い範囲内でお付き合い頂けますでしょうか、病み上がりなのですから」
お世話はしてくれても、心を開いてはくれて無かったらしい。
『ぁあ、分かった』
「先ず、魔獣、魔族、亜人に獣人。それらについて解説願えますでしょうか」
そう、彼女は字が読めない。
正確に言うと字は読めるけれど、単語や意味が分からないモノが殆どらしい。
けれど、それも仕方が無い、見るからに彼女は周辺の文化圏の者では無い。
それでも、読める者は読めるらしいけれど、それは本当に個体差だそうで。
『先ず、亜人に関してだが』
《
唖然としてる。
やっぱり、本当に来訪者様なのだろう。
「混血はどうなるんでしょうか」
《そこは容姿で分類される、人同士の婚姻でも、子が先祖返りを起こす可能性が有るからね。大きな戸籍上の括りでしか無いよ》
「では魔族、とは」
『闇の眷属だとされる大きな分類だ』
《影とか闇に属する者、コレは見た目の分類って言うより属性だね、吸血鬼とか夢魔とかそう言う者を指す事が多いね》
「夢魔」
《夢魔は》
「あ、今は大まかな概要だけで良いです、詳しくは改めて質問させて頂きますので。では魔獣ですが、聖獣も存在していると言う事で宜しいでしょうか」
『あ、ぁあ』
「成程」
彼女は真面目にメモを取って、今でも熱心に書き込んでいる。
少なくとも愚かではなさそうだし、料理も洗濯も出来る。
彼女は、庶民なんだろうか、それとも貴族相当の位なのか。
貴族ならどの程度なのか、庶民だとしても、どの程度の。
うん、もう少し情報が必要だよね。
彼女自身、又はその周りについても。
《もし良ければ》
「今日はこの程度で、以降はコチラで調べさせて頂きますので、どうか専属の侍女を付けて下さい」
彼女専用の侍女は確かに居なかった。
何人かは彼女の為にココへ呼び寄せてはいたのだけれど、要望が有るまで、と。
けれど結局は、病でそれどころでは無かったんだよね。
《ごめんね気が付かなくて、誰が良いとか有るかな?》
「はい、世間を良く知ってらっしゃる方々をお願いします、何分世間知らずですから」
『すまなかった、急いで用意させる』
「いえ、病の事が有りましたので、勉強を手伝って頂ければ十分ですから」
『分かった』
コレで少しは付け入る隙が出来るかも知れない、そう思っていたんだけれど。
《どうしたのレオンハルト、そんな、頭を抱えて》
『舌打ちを、された』
《えっ》
確かに、焦りからも近付き過ぎていた事は認める。
専属の侍女に敢えて仕事を追加し、
書庫に響いた鋭い舌打ちに、思わず固まってしまった。
素早く距離を置かれ、頼むから仕事に戻ってくれないか、と強い語気で牽制されてしまった。
分かっていた。
良識ある女性なら、男が近付く事を警戒する筈だ、と。
だが。
『だからこそ、俺は嫌だったんだ』
《仕方無いよ、暫くは僕が関わるから、ね?》
あの優しく愛想が良かったのは、あくまでも病人用だったのだと、思い知らされた。
悪感情が有ったにしても、看病の間は抑えてくれていた。
けれど、それだけだ。
女性全てに好かれるとは思ってもいない、それこそ今は婚約者も居ない。
当然、何かしら不満を抱かせる事になるかも知れない、そう理解していた。
だからこそ、慎重になるべきだと。
分かっていたが、邪険にされる事がココまで心に来るとは。
それは、あの優しく看病してくれていた
『俺達は、完全に失敗してしまったのかも知れない』
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