SNOW × FAMILY EP2 雪まつり大作戦

平中なごん

Ⅰ 雪ん子のわがまま

 家族……それは個人が複数集まり、互いに協力しながら生きてゆくための社会における最小単位。


 一言で〝家族〟といっても、それは血の繋がりに依拠するものであったり、血の繋がりはなくとも、相互の認識によるものや法制度によるもの、世間的通念に照らし合わせてのものなどなど…その性格や種類はまさに様々だ……。


 ここに、血縁も一般常識も軽々と飛び超え、お互いの利益追求のために打算で家族となった三人の者達がいる……。


 父──雪男(イエティ)。


 ヒマラヤやウラルの雪山に棲息する、全身毛に覆われた類人猿型UMA(未確認生物)。北アメリカ大陸のサスカッチ、ビッグフットとも同種する説も存在。


 絶滅危惧種であり、種の保存のために妻と子を得ようとする(※妻とは種が違うため、実子は諦める)。


 母──雪女。


 新潟の雪山に棲む、日本を代表する妖怪。


 冷気を吹きかけてすべてを凍らせる能力を持つが、過去の経験から軟弱で平気で嘘を吐く人間の男に愛想をつかせ、もっと屈強な夫を求める。


 子──雪ん子。


 東北の山村に伝わる子供の姿をした雪の妖怪、あるいは妖精。

 だが、雪女のように知名度は高くなく、人の認識にその具現化を依存するものとして、知名度を上げるべくビックネームとのバーター関係確立を模索。雪男、雪女の養子となる。


 そんな打算で家族となった父と母と子の三人……人は彼らのことを〝SNOW FANILY〟と呼ぶ──。



 ここは日本海側のとある豪雪地帯・山間部に建てられた三人の新居のログハウス……。


「──父、母……雪ん子、家族の思い出作りがしたい」


 冬のある日、リビングのテーブルで冷製寄せ鍋を囲んでいた時のこと。突然、そんなことを雪ん子が言い出した。


「家族の思い出作り?」


「うん。雪ん子、前に友達の座敷童子から聞いたことある。人間の家族は旅行とかお祭りとか行って思い出作りするんだって」


 小首を傾げて尋ねる雪女に、雪ん子は頷くとそう説明をする。


「こうしてみんなで冷たい・・・お鍋を食べたり、麓の街へ買い出しに行ったりするのではいけないんですか?」


「お鍋も美味しいし、みんなでお買い物もいいけど、雪ん子、もっといつもと違うことがしたい! 旅行とか、やっぱり旅行とか!」


 重ねて問い質す雪女に、雪ん子はさらに駄々を捏ねる。つまりは家族三人で旅行がしたいらしい。


「うーむ……そういわれてみれば、そうした家族らしいレジャーはまだしたことがなかったな。確かにそれもいいかもしれない」


 二人の会話に、雪男は箸を置くと太い腕で腕組みをして考え込む。


「旅行ですか……でも、わたし達の場合、どこへ行けばいいのでしょう? 温泉は入ると冷水になってしまいますし、海水浴も流氷で海が閉ざされしまい、他の人達にご迷惑がかかってしまいます」


 一方、雪女の方は、蒼白い顎に手を当てると、娘の願いをかなえるための具体的方法について模索する。


「逆にハワイやグアムのような暑い場所はわたし達の方がまいってしまいまいますし、困りましたねえ……雪ん子さん、近くの雪原でピクニックというのはどうでしょう?」 


「ええ〜…雪ん子、もっと遠くへ旅行に行きたい〜!」


 そして、考え出した代替案に娘が眉根を「へ」の字にして文句をつけたその時。


「いや、それならちょうどいいイベントを今やってるみたいだぞ?」 


 いつの間にやらスマホを弄っていた雪男が、そう言ってその画面を二人の方へ見せてきた。


「雪まつり?」


 そこには、精巧に作り込まれた雪像を背景にして、そんな文字が踊っていた──。

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