第15話 多田くんは音楽室の肖像画になる
多田くんは黒川と桜井に挟まれて音楽室まできた。中には音楽室といえばこれという大きなピアノがあり、教室の上部には歴代の音楽家の肖像画が一周するように飾られている。
そして、なぜか五線譜が書かれた黒板の前には机が二つ並んでいた。
「みゆ、多田くんの机もだしてきて」
コクッと頷くと奥の部屋から木の机とガタガタしそうな椅子を桜井は持ってきた。
「ちょっと椅子不安定だけど、いいよね。程よく揺られてたほうが集中できるっていうし」
「あっはい。それで大丈夫です……」
用意された机に座り、課題を取り出す多田くん。筆記用具をだし、リュックは不安定な椅子にかける。後ろ体重にしてしまうと椅子ごとひっくり返りそうだから気をつけないとと言わんばかり座る位置を探っている。
バンっ!!!
多田くんはポジショニングも決まり、シャープペンシルを持ったところで取り組もうとした課題のプリントの上から桜井の手が邪魔をした。そのままの勢いで後ろに倒れる多田くん。
「なにホントに課題やろうとしてるのよ! まず最初は、なんで僕のこと呼び出したの? とかじゃないの?!」
「さすがに私もびっくりだよ……」
黒川は桜井の後ろでおでこに手を当てている。多田くんはただただ驚き、ずれたメガネを直しながら再び座りなおす。
「だって勉強するためにここに来たんじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょ! 聞きたいことがあるからに決まっているじゃない。全くもお・・・・・・こっちにはしかつも・・・・・・」
「みゆ! 余計な事話さないで!」
黒川がすかさず突っ込んでいる。多田くんはなにに突っ込んでいるか理解できなかったが、黒川ひなたがツッコミキャラであることを知った。
「あのね多田くん。もちろん課題をやるために誘ったんだよ? でもただ勉強するだけじゃなくてちょっとお話どうかなとも思って」
「まっまぁ僕は全然かまわないんですが、それでなにを話すんですか?」
桜井が話そうとする前に黒川が口を塞いで暴れる桜井を制している。
「えっと、さっきの話の続きで、多田くん魔人に襲われたんでしょ? みんなたいがい記憶がなくなっているのに覚えてるって言ってから気になって」
「・・・・・・。そ、そうですね。魔人に襲われた記憶ははっきり覚えてます」
「魔法少女のこともばっちり覚えているの? そのさっき言ってた名前以外にも見た目とか、なにを言われたとか魔人の姿とか」
いつの間にか黒川の拘束を解かれていた桜井も会話に参加してくる。なぜこんなにも襲われたときのことが気になるのだろうか、炎魔もそうだったがみんな襲われた多田くんの心配というより魔人や怪人の情報を知りたがっているみたいで変だなと思う多田くんであった。
「・・・・・・そうですねぇ。見た目は意識失いかけていたんで、曖昧なことも多いかもしれないですが、なぜか魔法少女の赤い髪の、そのアマルティアって言ったかな。そっちの方は僕の名前知ってました」
キッ! っと音が聞こえてくるんじゃないかという勢いで黒川は桜井をにらみ、睨まれた桜井は肩をすくめる。
「それじゃ、どんな会話したとかもある程度覚えているんだ」
「うん。記憶消されそうになって大変でした。まぁ話し合いの結果、やっぱり魔法で記憶を消すってことになったんですが、なぜか消えなかったんですよ」
ガラガラガラ
会話の途中で音楽室の教室が開く、そこには音楽教師の音市美鈴先生が立っていた。
「あら二人ともまた音楽室で勉強しているの? あまり授業ないからいいんですけどね。ちょっとこのカセットだけ置いていってもいいかしら」
「カセット?」
意気消沈していた桜井が音市先生の元に駆け寄り、カセットなるものに興味を示す。
「やだ、もうカセットって通用しないのね。時代を感じるわぁ。カセットテープに音が録音されていてそれを再生するものよ。ものによってはラジオを聞けたりもするの」
「ラジオって、タイムフリーで聞けるんですか?」
「あぁ・・・・・・タイムフリーでは聞けないわね。って多田くんもいたのね」
最初からいた上に、黒川と桜井の目の前に座っているので視界には入ってたはずだが、会話の途中で多田くんは先生から見つけられた。存在感が薄いような扱いは慣れっこのようで多田くんは意に介していない。
「これからまだ運ぶものもあるから多田くんにお手伝いしてもらおうかしら、一緒にきてくれる?」
「あっ! みうが、桜井さんが手伝いたいと言っています!」
「え、そんなこといって・・・・・・」
「みう音市先生のこと憧れてるとか言ってたもんね! ちょっと話せるしよかったじゃない!」
「いやそんなこと言って・・・・・・」
「えぇそうなの桜井さん? なんだかちょっと嬉しいわ。それじゃお願いしようかな。重いものを運ぶわけじゃなかったし、じゃあ桜井さんのこと借りるわね」
そうして音市先生は桜井の手を引き、教室をでていった。
「ふぅーこれで心配事が一つなくなった」
よくわからず女生徒と二人きりになってしまった多田くんは緊張してきたのか姿勢が正されている。黒川は再び体を向き直した。
「改めて聞くんだけど、全部覚えているんだね」
「そうだね」
「なにか気になることなかった? うーんとなんていえばいいかな・・・・・・」
突然
「タッ、タッ、タッ」静かに始まる軽やかな一拍。
「トン、トン、トン」規則的に繰り返される鼓動が広がる。
「タタ、タタ」遠くから徐々に寄り添うように音が重なり、
「シュルル、シュルル」旋律が静かに流れ始める。
「タッ、タッ、トン」絶え間なく続くリズムが聞こえてくる。
「えっとどこから聞こえてるんだろ?」
多田くんは黒川に質問を投げかけたつもりだったが返事はもらえなかった。なぜなら黒川は音市先生がもってきたカセットを見つめて警戒を強めるかのように後ずさるしぐさを見せていた。
「カセットから音が・・・・・・?」
一瞬、ほんの一瞬。瞬きをした直後、多田くんの視界が一気に開けた。音楽室を上から見えているような感覚に襲われた。
(なんか音楽室を上から見てる?・・・・・・というか声が出せない?)
視界には黒川がいたがもう一人いた。いや人と言っていいのかわからない。黒い長いローブのようなものを羽織り、指揮棒を持ち、数センチ地面から浮いている。歯は今朝あった魔人のように牙がでている。
(というか魔人か?!)
多田くんはまったく状況がつかめずにいる。
「校内に魔人が現れるなんて・・・・・・。そのカセットの中に封印されていたってこと?」
魔人は答えない。ただ不気味に宙に浮き、動かない。
「多田くんをどこにやったの・・・・・・いやだいたい察しはついているんだけど」
(なんか会話聞こえているけど、僕はここだよ! 上を見てくれ! どうなっているんだ)
黒川が多田くんの意識がある方向に顔を向けた。
同時に多田くんの目の前が真っ黒になった
声だけが聞こえる。だが、だんだんと意識が失われていくような感覚に襲われる。
(またかよ。一日に2回も意識失いそうになるなんて・・・・・・早くだれか、黒川さんが危ない・・・・・・)
「魔法少女、ヒマリア」
黒川よりも大人びた声でそう聞こえた。
(助けにきてくれるのすげー早いな魔法少女)
多田くんは意識を保てなくなった。
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