第14話 多田くんは注目されるのが苦手
多田くんは普通の高校生
普通の高校生のはずだが、最近よくヒーローたちの戦いに巻き込まれる。それもただ遠目に見ているというわけじゃなく、現場に居合わせて戦いを間近でみる。ついさっきも魔法少女(見た目は大人だったが少女と名乗っていたので魔法少女と呼んでいる)と魔人の戦いを死の淵をさまよいながらみるはめになった。
そして最後に記憶を消されるはずだった。
多田くんは必死に走る。予鈴がなっていたのであと残り5分くらいしか余裕がないはずだ右に左によろけながら、メガネがずれてきたが、2年生は4階に教室があるので足を止めることはできなかった。
ガラガラガラ・・・・・・!
教室のドアがゆっくりと音を立てて開いた。息を切らしながら多田くんは駆け込んだ。乱れた髪を手で押さえつつ、めがねをずり上げる。薄く赤らんだ頬がその全力疾走を物語っている。
メガネの奥に覗く瞳はやや落ち着きを取り戻したものの、まだ緊張感が残っている。制服のシャツは少し乱れて、袖口からは慌てて教室に駆け込んできた動きが感じ取れる。肩で息をしながら、ふらふらと自席に向かう。
キーンコーンカーンコーン
「間に合った・・・・・・」
「多田が遅刻ギリギリなんて珍しいな」
後ろの炎魔正義はすでに着席して頬をついていた。熱血の見た目通り学校生活は規則正しく時間厳守で生活している。課外授業から一週間以上経過し、最初こそなぜか落ち込んだ様子だったが今は元気になっている。
「はぁ、はぁ・・・・・・ちょっとね。そこで魔人に襲われて」
「まじかよ! さっきの異常警報のやつか! ホントに多田は巻き込まれやすいな」
「本当に迷惑だよ。僕はなにもできないのにただ襲われるだけだよ」
「魔法少女見れた? あいつら中々、姿を捉えられないじゃん。助けられた人たちもだいたい記憶がないっていうし、見てみたいよなぁ」
「いやあの人たち少女っていうよりも、大人だったから魔法少女というか魔法戦士だよ」
「多田、魔法少女に助けられた上に、覚えてるのか?! ってことは魔人も見たのか? どんな見た目だった? どれくらい強かった?」
「僕は意識失いかけてたから・・・・・・」
ガラガラ
「おはよー。ホームルーム始めるぞぉ」
プリントをたんまり抱えた四条先生が入ってくると炎魔はすぐ様姿勢をただしたようで、話は中断された。そして多田くんは魔法少女の話をしたときにどこからか視線を感じたような気がしたのだった。
「ってことで、さきほどうちの生徒が魔人との戦いに巻き込まれて何人か病院に運ばれた。そこらへんの保護者の対応とかあるので午前は自習です。あと学校にきていないやつはとりあえず休みってことでいいから。体調悪い奴がいたら帰ってもいい。状況が状況だからな」
教室がどっと歓喜にわく。これはもう帰るしかない雰囲気だ。
「ただし、今日一日分の課題は渡すからなぁ。自分の家でできるってんならまぁいい。先生は学校で自習していくのオススメしていくぞ。では自習開始」
四条先生が一緒に持ってきたプリントの束は自習課題だったのだ。プリントが配られるとみんな散り散りになっていく。教室で勉強する生徒もいれば、先生が忠告したにもかかわらず帰宅する生徒もいるようだ。さっきまで話していた炎魔は水連寺をつれて早々に教室からでていってしまった。
(だいぶ話の途中だったけど、まぁいいか僕のことなんか興味ないよね)
気持ちを新たに教室で自習するために筆記用具をカバンからだし準備する。教室で自習する生徒たちは仲良しグループで固まることが多い。幸い、多田くんの周りはいなくなったので「机貸して」という自分の座る場所を見失ってしまう苦痛イベントも起こることがない。加えて、炎魔たちはいなくなったので注目されるメンツもいない。いたって平和だと思っていた。自習課題に集中し始めようとする頃、多田くんの目の前に生徒が立った。ゆっくり顔を上げる。
「え、な、・・・・・・なにか用かな。黒川さんに桜井さん」
そこには先日の課外授業で同じグループだった2人が立っていた。同じグループであったが、話したことなんてまるでなかったし、課外授業を経てからもなにか接点が発生したわけではなかった。むしろ、多田くんを置いて一目散に逃げ、多田くんが怒られる原因の一端となった二人に若干嫌な感情すらあった。
「多田、一緒に勉強しない?」
教室に残っている生徒たちの視線が一気に集まるのがわかる。「え、なんであの二人が多田と一緒に勉強するの」とか「水連寺さんだけじゃなくてまさか黒川さんと桜井さんまで・・・・・・」、「時代はモブキャラみたいな奴なのか」とか聞こえてくる。
多田くんは突然の出来事に緊張と周りからの視線で汗が噴き出す。注目されるという行為が苦手ですといわんばかりに汗がでている。
男子の誰しも、いやジェンダーレスな時代なので男子とくくるのはいささかよろしくないかもしれないが、うん高校生男子は女の子が気になるお年頃だ。
多田くんのクラスには美人だったり可愛い女の子が多い。女の子が気になる男子たちが目移りしてしまうほど、客観的にみたとしてバラエティーに富んでいて可愛い綺麗な子が多い。高校生といえばヒエラルキーが存在しているが4組に関してはそれぞれのグループに輝く人材がいて独立している。
どこのグループの地位が高い低いはぱっと見わからない。多田くんに関して言えばそもそもヒエラルキー構造について理解していない。周りが自分よりも高く見えるからだ。
そのクラスの中でも桜井みうと黒川ひなた。この二人は特に可愛いと言われている。雰囲気が違うが二人はいつも仲良く一緒にいる。
男勝りだが美人の桜井、メガネをかけた可愛い優しい黒川。相反する二人が一緒にいることも人気の一つらしい。だからこそ多田くんはいっしょにいたくなかった。今の状況のように注目されるからだ。
口をパクパクしながら、あわあわする多田くん。
見かねた黒川が話し出す。
「えっとね。別に変な意味はないんだよ。この前課外授業でグループ一緒だったしせっかくだからどうかなと思って。炎魔くんたちはすぐにいなくなっちゃたし。それにしても多田くん体は大丈夫なの?」
優しく微笑みながら話しかける黒川。優しく包み込むように言葉を紡がれ、少しほっとしたような表情を多田くんはみせる。
「あっそうなんですね・・・・・・体調は大丈夫だし・・・・・・」
「ウチのお誘い無視しないでくれる!?」
「い、いや別に無視したわけじゃ・・・・・・。どうすればいいのかと思って」
「どうすればって、はいかいいえで答えればよくない?」
「みう! なんでそんなに好戦的なのよ。多田くん怖ってるじゃない」
「だってもじもじしてるから・・・・・・」
「ちょっとみうは黙ってて。それで多田くん体調は大丈夫なんだ。魔人に襲われたって聞いたけど」
「うん体調は大丈夫。魔法少女が助けてくれたから」
そう言うと二人は驚いた顔で一瞬固まる。なにか変なことでも言ったのかと多田くんはさらに目線が泳ぐ。
「さっきね炎魔くんとの話がちらっと聞こえたんだけど、魔法少女のこと覚えているの?」
「うん。アマルティアとヒマリアって名乗ってた。見た目は全然少女じゃなかったよ」
「いやだから少女だって!」
桜井さんが間髪入れずにつっこんでくる。
「多田くん、一緒に勉強しましょ♪」
黒川さんの目は笑っているようで笑っていなかった。多田くんは注目されつつ、二人に連れられて教室を出ていった。
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