第12話 多田くんは魔法少女に助けられる
課外授業から数日が経った。オヒトリサマーがキャンプ場を襲撃したが、普中高校の生徒たちには誰一人被害がでていないはずだった。
はずだったというのは、翌日多田くんが登校すると水連寺が休みで炎魔が顔に傷を負っていた。そもそも課外授業での戦闘終了後、一人でバスに戻ると四条先生にこっぴどく叱られた。炎魔と水連寺は保護者がきて別ルートで帰ったし、黒川と桜井に関してはすでにバスの中にいた。本当に一人取り残されてみんな逃げていただけだった。
「今思い出しても凹む・・・・・・」
いまもなあの日を思い出すと悲しくなる。だんだんと目線が地面に向いていき、前傾姿勢になっていってる。自身の正義感のために現場に向かったのに結局は戦いに巻き込まれただけ。コスモレンジャーに助けられ、ただのやられ役の集まりかと思っていたタヌキ団の実力を見せられ、戻ったら怒られ散々だ。ちょっとかっこいいところ見せようかと頑張ったのに赤っ恥を掻いただけだった。最近は登校中に毎日課外授業での出来事を思い出す。一人で歩いているからか、思考してしまうかのような表情である。
「前は話せていたんだけど、全然出てこなくなったからな」
もうすぐ高校につきそうである。学校に近づいてくると、生徒たちもちらほら見える。時折走っている生徒すらいる。多田くんは普通の生徒だが、登校時間はぎりぎりだった。
「きゃあああぁ!」
あと坂を二つこえるとみえてくる。ここが最後の難関だ。一つ坂を超えると同時に聞こえてきた。
見えてきたのは体が宙に浮いている顔が真っ赤の人間、いや人間なのか? 上下に牙のような歯が二本ずつ生えているし手足の爪は長いし、上半身裸だし、変態に遭遇したから女生徒は叫んだのか?
爪の伸びた手を女生徒に向け、その女生徒は徐々に体から力が抜けていくかのように脱力しつつある。
「きゃあああ・・・・・・あぁ」
宙に浮く謎の人間は次々に登校途中の生徒たちに手を向ける。逃げればいいのにと思うがあの人物の周りにいる生徒たちは見るからに力が入っていない。
複数人の生徒が次々に倒れていく、その奥にも倒れている生徒が何人かいるようだ。
ウィ──ウィ──
「これは・・・・・・やばいな。たしかこの音は・・・・・・」
多田くんは自然科学部部長の志村と話した内容を思い出していた。逃げなければという危機感と殺されるかもしれないという恐怖よりも先にあれは何者なのかと考えていた。考えれば考えるほど眉間にしわが寄っていたが
「魔人だ」
今まで怪人としか遭遇していなかったので初めて遭遇する魔人。思っていたよりも人間に近い風貌である。ニュースに流れてくるのは怪人や変異超人ばかり、魔人のニュースは文章だけで、魔人と戦っている魔法少女がいるということくらいだ。写真付きなのは前者ばかりで魔法少女や魔人の写真はみたことがなかった。あったとしてもピントがぼけているものばかりだ。
関係のないことを色々と考えている多田くん。いや恐怖で足を動かすことが出来ないのか。
「もうなんでこんなに・・・・・・」
引き返そうと思ったそのとき魔人と目があった。
「あぁもうなんでこんなことに」
そう言ってきた道を全力で引き返す多田くん。異常警報が鳴ったおかげで市民は避難していて人の気配がまるでない。警報音がなった時点で逃げればよかったと多田くんは毎度のことながら思う。ただ足が動かないのだ。いや動かせないのかもしれない。
「あぁ・・・・・・なんか力が抜けていく・・・・・・」
急に体に力が入らなくなり、よろける多田くんはそのまま倒れこむ。そして目の前には一瞬で距離を詰めてきた魔人が何かを吸い取るような恰好で多田くんに手を向けていた。
(これは本当に死ぬかもしれない)
どんどん生気が抜かれていくような。意識が遠のきそうになる。
(帰りたかった・・・・・・)
「光の矢・ルミナス・アーク」
魔人に向かって光る雨が降り注いだ。魔人はその雨を避けるように後ずさる。多田くんは間一髪意識を失わずに我を取り戻す。まだぼやける視界だったが、徐々にはっきりと見えてきた。最初は人間が二人自分の前に立っていることしか認識できなかったが、だんだんと見えてくる。フリフリした短いスカートで、長いスラっとした足をして、見た目に似つかないファンシーな棒を持った女性二人組が目の前に立っていた。
燃えるような赤い髪を長くたなびかせた美しい女性が明るく澄んだ声をだす。
「魔法少女、アマルティア!」
「魔法少女、ヒマリア!」
もう一人は闇夜を思わせる漆黒の色合いで、腰まで真っ直ぐ艶やかな黒髪で光を受けると深い輝きを放っている。彼女も淀みのない声だがどこか優しく語り帰るような声だ。
「「魔法戦士、ういんくすたーず!」」
「魔法少女・・・・・・、思ってたよりも・・・・・・大人」
「げ、この人、意識失ってないんだけど」
「ライフスパークが強いんだね。見た目じゃわからないものね」
二人は多田くんのほうを振り返った。アマルティアと名乗る女性は真っ赤な瞳で、ヒマリアは青く、深い碧い瞳をしている。
「あのあなたたちは・・・・・・どういう・・・・・・」
「先ほど名乗ったからもう言わないわ!」
「アマルティア、そんなつんけんしなくても」
「だって魔人倒したあとに記憶消すとかどうとか考えなきゃいけないじゃない。記憶消す魔法苦手なのよ。余計な記憶まで消しちゃうことあるし」
ものすごく怖いことを言っている。そういえば魔人に遭遇した人のニュースで数年分の記憶を失った人の記事があった気がする。魔人には気を付けましょうってことだったけれど、原因はこの人なんじゃ・・・・・・。
「アマルティア苦手だものね。まあそこは私がやるわ」
魔人の戦いのあと多田くんの記憶が消されることが決定した。
ヴオアアァァ!
距離をとっていた魔人が叫んだ。人の見た目をしているが言葉は話せないようだ。
「忘れてた、さっきの魔法当たってなかったんだった」
「アマルティア次は一緒にいくよ!」
二人はファンシーな棒を交差させ空に掲げた。
「「ルミナス・ブレイズ」」
一本の光、いや光の剣のようなものが魔人に向かって振り下ろされる。逃げる間もなく、魔人はその光を見つめながらなにかを叫びながら一身にあびる。光は離散し、多田くんも一瞬目がくらむ。その光は多田くんの中にも入ってくるかのように目がくらんだ中でほっとしたような気持になっていく。助かったと確信したからだろうか。魔人への恐怖などなくなっていた。
目を開けたときにはあとかたもなく、魔人の姿は消え去っていた。
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