ゲーミングおでん
okirakuyaho
ゲーミングおでん
季節外れの大雪が関東を襲った日に、俺は彼と出会った。
その日は大雪のせいで電車が止まり、タクシーの列が駅を覆いつくす光景を見て、俺は家まで歩いて帰ることに決めた。
少しでも寒さを和らげようと、襟をぎゅっと絞る。
今考えると、彼との出会いは何かに導かれていたのかもしれない。突然の大雪も、神様が彼に会わせようとした粋な計らいだったのかもしれない。
「おいおい、何しけた顔してるんだ?」
最初は幻聴かと思った。寒さに耐えきれなくなった俺は、おでん屋に駆け込んでいた。大雪の日に屋台が開いているのは不思議だと思わなかったのは、手足の感覚がなくなっていたせいだと信じている。
声がした方へ振り返ると、彼がいた。彼は1677万色に輝くような存在だった。
「なんだ」と思うよりも、久しぶりに人の声を聞けたことがうれしかった。
「しけた顔にもなるだろう、周りを見てみろ」
雪だぞ、雪。早く帰りたいのに帰れないこの思い。
「たしかに、お前の手、めちゃくちゃ冷たいな」
なんてことない素振りで彼は手を握ってきた。彼の手は暖かく、RGB領域の最高の発色をしているように見えた。
「この手、めちゃくちゃ働き者の手だな」
「どこがだよ、普通の手だろ」
「いやいや、そんなことないって。ほら、ここ、皮膚が薄くなってる。さては、あんた働き者だな」
「食い扶持を稼がなきゃ明日を生きることもできないからな」
彼が笑っているのを見て、なんとなく悪い人じゃないんだなと思った。
「なぁ、これからうちに来ないか?新作のお菓子が家に余ってるんだ」
口説くにしても、もっと言い回しというものがあるだろう。お菓子で誘うなんて今どきの子供でもしないぜ。
「もう一声」
「わがままだな、じゃあ、一緒に大乱闘しようぜ。しかも64だ」
「乗った」
いつの間にかかじかんだ手は暖まり、雪はやんでいた。
手を取り合い勘定を済ませて彼とともに屋台を後にする。
いつものどんよりした帰り道が、1677万色に輝いていた。
ゲーミングおでん okirakuyaho @okirakuyaho
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