消滅戦争Ⅱ

@haitani_hibiki15

第0章

黒い雨を浴びながら二機の人型兵器は対峙していた。安穏は操縦席の青い球に手を置き、人型兵器δ(デルタ)を銃撃するイメージを浮かべた。それに呼応して、人型兵器α(アルファ)の右腕の銃口が火を噴いた。δは体を少し傾けて光速の銃弾を避けた。

「志久安穏、邪魔をするな。」と安穏の脳内に甲高い声が流れた。

「2X、もうこんなことは止めて。」そう言って、安穏は目から溢れる涙を拭った。

「復讐を止められるわけがないだろ。」2Xの声は激高のあまり裏返った。

安穏はδの姿が目の前から消えたのと同時に反射的に左腕に意識を込めた。そして、δの位置情報が脳内に流れてくると後ろ右斜め上空に視線を送った。すると真っ赤な光が差し込んできた。咄嗟に安穏が盾を思い浮かべると一瞬で黒い粒子が集まり、盾を形成してαの身を光線から守った。安穏は光線によって飛散していく盾が修復するイメージを持ち続けながら、光線の勢いがほんの少し弱まった隙をついて、δを銃撃した。δは距離を保ち、両腕をαに向けた。それに応じて、αも左腕をδに向けた。

安穏は地球上の大気を漂う黒い粒子がαの元に集結するよう願った。どこからか轟音が聞こえた。その音は近づいているようだった。安穏は津波を想起し、δへと襲わせた。

「わぁあ。」

光線で消滅させても黒粒子はきりがなく、δは飲みこまれていった。安穏は黒粒子を鎖に変化させてδの四肢に巻き付けさせた。そして、右腕の銃口をδの額に押し付けた。鎖を引きちぎろうとしていたδが動きを止め、ゆっくりと腕を下ろすのを見ると安穏は一息をついた。そして、焦土と化した大陸と真っ黒に汚れた海を眺めた。安穏は引き金に手をかけた。この数秒が数千年の歴史の総括のように感じ、安穏は表情を失った。安穏はδを見つめ、その中の操縦席に座っているであろう2Xを心の中で透視した。見えた2Xの姿は冷酷な独裁者の姿ではなく、ニュースで初めて見た、泣きじゃくっている子供の2Xだった。安穏の指は震えていた。焦って何度も指を動かしたが引き金を引けなかった。

「同情しているのか!」2xの酷く震わせた声が響いた。安穏は硬直した。δは緩んだ鎖を光線で消滅させ、急上昇した。

「しまっ。」

安穏は咄嗟に標準を定め直そうとしたが、すでに上空からδの両腕の銃口がαを捉えていた。安穏は断腸の思いで地上へと向かう光線を回避した。その瞬間、両者のメインパネルには光線の到着地点が表示された。安穏は偶発した事態を理解すると地上へとすぐさま降り立ち、αの左手を連鎖する核爆発へと向けた。安穏は歯を食いしばってイメージを浮かべ続けた。既に消耗したαの磁力では黒粒子を操ることは満足にゆかず、その結果、地表の物質はほぼ消え去り、αの背後の小さな土地を身を挺して守るのが精一杯だった。

αの身体は崩壊していった。最後を悟った安穏は上空で見下ろしているδの足元に残っている黒粒子を集め、鎖を巻き付けた。そして、左手を強く握りしめ、引っ張った。δは地獄と化した地上へと引きずり降ろされた。

 「やられた。」2xの滑稽な声が聞こえた。

そして、世界はほぼ消滅した。

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