男と女の切り抜き

ネプ ヒステリカ

男と女の切り抜き

 やわらかな乳房に唇をはわせた。

 紫に近いピンクの円の中心、突起を口にふくんだ。

 少し硬くなった。

 それを舌先で弄んだ。

 もう一方は、指先でつまんだ。

 こっちは、すでに硬くなっていた。

「はあ。アア……」

 女が溜息のような吐息と、あえぎ声を漏らした。

 唇を離し、見上げたオレを見て、満面のやさしさで彼女は、微笑んだ。

 しかし、オレは知っている。

 それは嘘の笑みだ。

 嘘のやさしさと、嘘の恋情でオレたちは繋がっている。

 肉の温かさも、求める気持ちも嘘だ。

 オレは、ストーリーを組み立て、決まり切った言葉と行動で、いつわりの恋人を演じている。

 オレは、彼女の本当を知らない。

 どこに住んでいるのかも聞かない。名前は本当なのか、結婚しているのか知らない。

 彼女も、オレを信じていない。

 オレの言葉に、誠意がないことを知っているからだ。

 オレの腕に抱かれながら、

「わたしのこと、好き」

 と、聞いてきたので、

「好きだよ」

 と、オレは、応えた。

「うそ」

 そういって、彼女が微笑んだ。

「そう、嘘だ」

 腰を突き上げ、オレはいった。

「ウッ。良かったわ」

 と、荒い息をして彼女が応えた。

 やわらかい身体を腕に抱き、あえぎ声を聞きながら、オレは、

「好きだといったのが嘘だ」

「良・い・の」

 彼女は、声にならない吐息のようにいった。

「わたしも、あなたを軽蔑しているもの。アア……」

 そういって彼女は、身体をよじった。

「だから良いのよ」

 言葉が終わらないうちに、激しくキスを求めてきた。

「わたしは、あなたが嫌い」

「オレも、君が嫌いだ」

 オレは、動きを早めた。

 ほぼ同時に彼女が、身体を震わせた。

 そして、溜息を漏らした。

 余韻を味わい、感情が満ちたところで、オレたちは、ゆっくりと身体を離した。

 見ると、窓の外は薄暗かったが、まだ夜ではなかった。

 服を着ながら彼女がいった。

「わたしのこと、好きでないなら、また逢ってくれる」

 そういって、いたずらっぽい眼でオレを見た。

「君が、オレを愛していないなら」

 オレがいうと、すかさず、

「わたしは、あなたをこれっぽっちも愛していないわ」

 車に乗り込み、彼女を駅まで送っていった。

「じゃあ、またね」

 彼女がいった。

「次も、君がオレを愛してないなら」

 オレはいった。

「意地悪ね」

 彼女がいった。

 そして、

「あなたの、そういうところ、好きだわ」

 と、いった。

 そして、きびすを返し、真顔になった彼女が、駅前の雑踏の中に消えていった。

 車を出し、オレはかすかに残っている、彼女の匂い感じた。

 オレは微笑んだ。

 明日終わっても良い恋なのだ。

 雑踏でふれあう人と同じだ、後悔はない。

 オレたちに愛や、恋情はない。

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