双子幼馴染に「どっちの方が好き?」と攻略されそうになっている話

笹塔五郎

第1話

 カチャリ――少女、アルノ・セルバースの両手を拘束する手錠の音が鳴った。

 ベッドの上部にある柵の部分に鎖となっている部分が通され、身動きができない。

 意外と、本当に動けないものなんだ――なんて、冷静なことを考えている場合じゃないのかもしれない。

 そんなアルノを見下ろすように座っているのは、二人の美少女だ。

 ――瓜二つ、といってもいいくらいに二人はよく似ている。

 ネイエル・アルバントと、セシア・アルバント――幼馴染で、共に冒険者ギルド『獣魔』を結成した仲間だ。

 このギルドの名前の由来は――アルノが獣人であり、ネイエルとセシアが双子の淫魔であることから由来している。

 同じ孤児院で育った仲であり、二人を冒険者の道へと誘ったのはアルノだ。

 ネイエルは肩にかかるくらいの黒髪で、セシアは長髪を後ろで結んでいる。

 顔は似ているけれど、性格も随分と違う――姉のネイエルは冷静で話し方も敬語で話すタイプ、セシアは陽気でフレンドリー、と言ったところか。


「ようやく目、覚めた?」


 セシアが問いかけてきた。

 確か――今日はアルノの昇格祝いを冒険者協会に隣接してある酒場でしていた。

 お酒が得意ではないアルノも、今日くらいは少しくらい――と口に運んだが、いつの間にか意識を失ってしまったのか。

 けれど、それほど酔っていたという記憶はないが、どんどん眠くなっていたような感じだ。


「ええっと、この状況は……?」


 アルノは二人に向かって尋ねた。

 ただ、困惑しかない――目を覚ましたら、ベッドの上で拘束されているのだから。

 どうやら、ここは宿の一室のようで、眠ったアルノを二人が運んでくれたようだ。

 それは感謝すべきなのかもしれないが――問題は、動きを制限する手錠だ。


「酒場で眠ってしまったアルノさんを、私とセシアで運んだんです」

「そうそう。アルノもこれで『Sランク』の冒険者――最強の一角だもんね」


 そうだ――今日のお祝いは、ついにアルノが冒険者としての頂点となったこと。

 元々、身体能力の高い獣人であるアルノだが――それ以上に、彼女には剣術の才能があったことも大きいだろう。

 正直、冒険者をやるなら目指していた場所ではある。

 だから、今日くらいは羽目を外してもいいか、とは思っていた。


「運んでくれたことは、その、ありがとう。でも、この手錠は……?」


 本題――カチャカチャと、動かすたびに音が鳴る。

 なかなか頑丈なもので、力を入れたくらいでは壊れそうにはなかった。

 獣人の中には力に特化した身体能力を持つ者もいるが、アルノはどちらかと言えば素早い動きの方に特化している。

 故に、戦うための剣術がある――だから、動きを封じられると、抵抗はできない。


「あたし達、アルノに聞きたいことがあって」

「……聞きたいこと? え、それなら別に拘束する必要なんて――」

「大丈夫です。お答え次第では、すぐに解放しますから」


 二人は笑顔だが――何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか、と少し不安になる。

 ――とはいえ、このようなことをされたことは今までになかった。

 そんなアルノの不安をよそに、セシアが切り出す。


「アルノってさ……あたしとお姉ちゃん、どっちが好き?」

「……へ?」


 ――それは、全く想像していなかった問いかけだった。


「え、えっと、その、好きっていうのは、友達として……?」

「いいえ、恋人にしてもいいかどうか、の問いです」


 至って冷静に、ネイエルが答えた。

 恋人にしてもいいか――つまり、ネイエルとセシアの、どっちを恋人にしたいか、という問いかけなのだ。


「いや、そもそもわたし達は女同士だけど……!?」

「あー、そこから? じゃあ、アルノはあたしとお姉ちゃん、どっちかと付き合うのも無理って感じ?」

「無理かどうかって聞かれたら――」


 恋人――考えたこともなかったことだ。

 二人は幼馴染で、共に冒険をする仲間。

 あるいは、アルノがあまりにそういったことに鈍感すぎた、とでも言うべきなのだろうか。

 思えば、獣人特有とされる発情期もまだきていない――気付けば二人の表情は真剣で、アルノの答えを待っているようだった。

 

「……無理、じゃないというか、その、恋人とかは分からないけど、二人がわたしを好きでいてくれるのは、嬉しい、と思う」

「! じゃあ、脈ありってことね! よし、話を進めると――」

「ちょ、ちょっと待って! この話と、手錠で拘束するのにどういう繋がるがあるの!?」

「ですから、私達のどちらが好きか――その答え次第で、アルノさんは解放されるんです」


 ――意味が分からない。

 どうやら、二人はアルノに恋心を持っている、ということは理解できる。

 それと、アルノの動きを封じる理由が繋がらない。


「どっちが好きか答えてくれたらいいだけだから! あたしとお姉ちゃん、どっちが好き?」

「どっちって……そんなこといきなり聞かれても……」

「決められませんか?」

「……」


 アルノは頷くしかなかった。

 二人のどちらか――と言われても、アルノにとっては二人とも大事な仲間だ。

 幼馴染でずっと一緒にいたからこそ、どちらかを選べと言われても難しい。


「そうなると、拘束した意味が出てくるってわけ」

「……? どういうこと?」

「あたし達って淫魔でしょ? 淫魔ってさ、ある程度の年齢になると……魔力を供給してもらう必要があるんだよね」


 ――聞いたことがある。

 淫魔は成長すると、他人からの魔力を得なければ、体調に影響を及ぼしてしまうのだと。

 死ぬことはないと聞くが、二人にもそういう時期が迫っている、ということだ。


「それで、私達二人で話し合ったんです。アルノさん――あなたが私とセシア、どちらを選んでくれるか聞いてみよう、と」

「たぶんアルノは選べないっていうから、じゃあ淫魔らしく、先にアルノを堕とした方が勝ちにしようってことにしたの!」

「どういうこと!?」


 説明されても意味が分からなかった――ただ、言葉通りに受け取るのなら、ネイエルとセシアの二人、どちらかを選べないだろうと予想されていたセシアを、淫魔らしい方法で選ばせる、ということのようだ。

 ――途端に、拘束の意味が分かってしまう。

 慌てて外そうとするが、やはり手錠が思った以上に頑丈で壊せそうになかった。


「ま、待って! いきなりそんなこと言われても――ひゃんっ!?」


 何とか二人を止めようとするが、優しい手つきで――二人はそれぞれアルノの身体に触れ始める。

 ――淫魔の双子幼馴染による、アルノの攻略が始まってしまった。

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