~命の幻(ゆめ)~(『夢時代』より)

天川裕司

~命の幻(ゆめ)~(『夢時代』より)

~命の幻(ゆめ)~

 幻想(ゆめ)の幼力(ちから)を借りながらにして俺の心身(からだ)は常識(かたち)を嫌って言葉を失い、遠く離れる空気(もぬけ)の海馬(うみ)へとひらひら零れて成長していた。当ての無いまま自身に彩(と)られる幾多の哀れを感じていながら、催促出来ない煩悩(なやみ)の水面(みなも)に吸い寄せられつつ景色を見定め、後戻りの無い、拙い感覚(いしき)に幻(ゆめ)を観ながら傾くのである。何気に捜せぬ気力の翳りを、日頃に唱えた独言(ことば)を平手に掲げ、幻(ゆめ)の平(たい)らを独創(こごと)に観るうち成長するのを布団の柔らに空転(ころ)がる頃にて表情(かお)を紅(あか)らめ、「明日(あす)」へ呼び込む無垢の共鳴(さけび)は俺の背後へ拙く還る。拙く還った怒涛の感覚(いしき)は丸々これまで培う脚(あし)の痛みを加減へ報せて抱擁している。後ろめたさに髪を引かれて鬢(びん)の辺りが陽(よう)に照る頃、俺に歯向かう現世(うつしょ)の生き血は他人(ひと)へ紛れて生気を改めて、走り書きする俺の手元は胸中(むね)の水面(みなも)を新しくした。

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『眠る前、二三日前から右の歯茎(奥歯)が痛く晴れ上がり、喉も痛くなって、それが左の方にも伝染したらしく、今度は左の喉の辺りから奥歯に掛けて、頬辺りから喉奥が痛くなった。そのお陰でか、昨日、久し振りに外へ出て、(母さんの誕生日プレゼントにと服、スカーフ等を求めて春山はるやまに行き、又、母に言われた水性ペンを買いにとセブンイレブンへ行くが、結局二つとも無かった。世間に求めても無駄なものが多く、何時いつもの事だ、なんて思いつつ、自分の用事、新潮社への夢日記・覚醒日記の郵便配送、京田辺の同志社図書館へ借りていたダンテの『神曲』を丁度一ヶ月オーバーした九月六日に返しに行く、という思いは果たせ、相応に揚々、悠々と、帰って来た)、その為にか帰って来て又最近のお決まりの『大草原の小さな家』を延々観た後(あと)(ぎりぎり手前で切った心算である)シャワーを浴び、飯を食う頃から又ずっと以前、働いて居る頃に感じていた頭の鈍い痛さのようなものを感じ、歯茎の痛み(左右だが、特に左から喉)をずっと維持しているのを感じながら、テレビで『浅見光彦~』を観ている母親と話も碌(ろく)に出来ぬ程衰弱していたようで、飯も上手く喉を通らぬ程に苦しい思いをしながら、食った後(あと)、早々に自室へ引き上げ、さっと自分のベッドへ入り込み、直ぐに横になった。しかし中々苦しさで寝付けず、『うーん、うーん』と唸ってばかり居た。その内、眠りに就いた。』

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 鼓膜を劈く暗(やみ)に遣られた俺の様子は幻(ゆめ)の許容(うち)にて自力を射止め、求める当てには果ての見得ない血色(ちいろ)の両眼(まなこ)に揺ら揺ら咲いた。幻(ゆめ)の宙(そら)では常識(かたち)を留(とど)めぬ不思議の常識(かたち)が耄碌し始め、陽(よう)と陰(いん)とを可笑しな言動(うごき)にその実(み)を気負わせ、弄(あそ)びも割けない気弱の流行(ながれ)に自ら入れる浅い企画を用意して居た。他(ひと)との景色が一向咲かない脆(よわ)い周辺(あたり)の俺の生気は、如何(どう)にも酔えない未熟の礫が宙(そら)へ目掛けて大手にを振り抜き、揚々焦って活歩(かつほ)して行く気忙(きぜわ)の進路を象り出した。清閑(しずか)な許容(うち)にて、そうしてそろそろ進歩して行く真逆の迷路へ落ちた俺には、他(ひと)の声など聞える間も無く、「明日」と昨夜(ゆうべ)の境界から咲く脆(よわ)い感無(オルガ)を突き止め始め、白亜の気色に人間(ひと)の保(も)ち得る脆(よわ)さを認め、一時(いっとき)から成る純心(こころ)の住処を自信に認め、喧喧囂囂、矢庭に突き出す夜半(よわ)の寝床へ赴き始める固い主観(あるじ)が現れてもいる。寝言を絶やさぬ脆(よわ)い脚力(ちから)の俺の主観(あるじ)は、古来(むかし)に辿れる〝哀れな懺悔〟を真向きに捉え、堂々巡りの旅路(たびじ)へ突き出す汗を掻かない孤独の焔(ほむら)を、気丈に従え横手に携え、「明日(あす)」の住所を俺へ報せぬ無言の優美(ゆうび)に傾いてもある。幻(ゆめ)の共鳴(さけび)が俗世(このよ)の幾何から脱走して活き、黄泉へと下れる白い衣(ころも)に変身した後〝ちー、ちー、〟鳴いて、俺の脳裏と背後に重なる幾何の幾多を現庸(げんよう)していた。現(うつつ)に割かれた〝凡庸(ふつう)の景色〟は自己(おのれ)を絶やせぬ安い気配にその実(み)を敷かせ、孤踏(ことう)から成る不思議の束には現行(いま)を洩らせぬ黄色い木の実がその実(み)を撓(しな)らせ俺まで辿り、昨日に尽した安い小躍(おどり)は頭から観て失(き)え去り出した。白蛇(へび)の尻尾がこの地に涌き出て人へ失(き)える頃、宙(そら)の内(なか)には孤独に呼ばれた空(から)の砦がぽんと浮き立ち、俺の頭上に転々(ころころ)空転(ころ)がる弱味を見せて、明日(あす)の延命(いのち)を今日へ繋げる不思議な小躍(おどり)に夢中であった。清閑(しずか)な個室(へや)には俗世(このよ)に群れ生く人の灯(あか)りが一向差せずに、選り取り見取りの小さな息吹が幻(ゆめ)に紛れて三角頭を上げた。俺の寝床は人工照(あかり)の漏れ出る奇麗な飾りに彩られる儘、人間(ひと)の囃しは自踏(じとう)に敗れて白夜の暗(やみ)へと空転(ころ)がり出した。俺の身辺(あたり)は利損に生き得る脆(よわ)い貴族が戯れ過ぎて、誰一人として留(とど)まる者無く、用事が無いのに俺から失(き)え去る未熟の木霊を結晶化した。孤独の礫を何時(いつ)も投げ遣る悪魔の手先の周囲(まわり)の者等(ものら)は、俺の元へと瞬時に来てのち声を上げるが、その内安(やす)まり、自ら要した自粛を経ると、瞬く間にしてさっと飛び退(の)き、用を足すのに遠回りをする牙など見せ付け知らん顔して、自分勝手に気の好い様子に、騒げる土地へと羽ばたいて行く。

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「そのまま行って、還らなけりゃいいのに」

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 俺の心中(こころ)は旋風へと往く仇の思惑(こころ)を見送りながらに見限りながら、小さな爪痕(あと)さえそのまま残らぬ未熟の想いをつとつと吠え立て、陽(よう)の落ちない彼等(かれら)の土地へと嫉妬を掲げて充分怒る。怒(いか)った所で目が肥え、肢体(からだ)が肥えて、奇妙に生育(そだ)てた自尊(プライド)だけ保(も)つ、孤独を怖がる猪突の体(てい)した現代人には、明かりを灯(とも)さぬ独語(ことば)の限りで放(はな)った文句(ことば)は全て逸れ活き俺へと還り、男女(かれら)の酒宴(うたげ)と俺の夜宴(うたげ)は自活を灯して夫々気取れず、互いに疾走(はし)れる岐路に飛び込み二度と見(まみ)えず、「明日(あす)」を嫌える僅かな温(ぬく)みに活き得る夜宴(うたげ)は、白亜と相(あい)せる淋しい帰途へとその実(み)を棄(な)げた。苦労性から痴呆症へと段々化(か)われる身陰(みかげ)の辺りは、女性(おんな)を灯せぬ脆(よわ)い気色に占領され活き、蹉跌を挫ける淡い空気(くうき)に翻弄されて、夜半(よわ)を束ねた人間(ひと)の意識に途方の無いほど蹂躙され行き、「昨日」の朝へとふっと還れぬ、可笑しな独気(オーラ)を掲げ続ける未開の帰途など見詰めてあった。誰も解らぬ記号の体(てい)した俺の文句は初夏(なつ)の景色が衰え始める儚い流行(ながれ)にその身を任され、他(ひと)の気色をそっと離れて自棄に保(たも)てる患いなんかと相(あい)してあった。定めの初めに俺へ付された主観(あるじ)の糧には、「自命(じめい)」と称する頭痛の類(たぐい)がきちんと発され蟠りを観て、人に生れた苦痛の程度を絶命させ得ぬ弱った活路を俺は見出し、朝から夕なに自嘲を擡げる苦しみから見て、自己(おのれ)に彩(と)られた火照りの様子が前後を違(たが)え、自衰(じすい)して行く儚い気色を母の前方(まえ)にて暴いてあった。俺の心身(からだ)は幻(ゆめ)に埋れて見る見る羽ばたき、他(ひと)の合図を口笛から聴く妙な音頭を取らされた儘で、自己(おのれ)の棄(す)て得た残骸(むくろ)の形状(かたち)は、見る見る化(か)われる〝変わり身〟へと利(い)き、蓑に隠した脆(よわ)い感覚(いしき)の歯痛の程度は、暗(やみ)に伏される個人(ひと)の渋味へ還って行った。所々に〝記憶〟が頬張る〝哀れ〟を着飾る無重が落ち着き、相手を成さない幻(ゆめ)の空気(もぬけ)は肩車をして俺へと直り、何の景色も確(かく)して保(たも)てぬ恥を失(け)し生く経過(とおり)の晴嵐(あらし)は、首を擡げぬ〝気性〟を晒せる大蛇と同じに清閑(しずか)に在って、果てを気取らぬ他(ひと)の迷路へ都度都度落ち込む人間(ひと)の〝生き血〟を葬り続けた。淡い記憶が無益に示され、都度都度重なる感覚描写(かんかくびょうしゃ)の儚さだけ見て、言動(うごき)の取れない脆(よわ)い茂みに自投(じとう)して行く身の上描写は、樞(ひみつ)に群がる幻(ゆめ)の行方が吐息に掠れて揺ら揺ら蠢く、人の労力(ちから)を金振(かなふ)り捨てた。脆(よわ)い記憶が幻(ゆめ)の内からきらりと煌(かがや)く無欲の静味(しずみ)に、再び咲き得る俺の感覚(いしき)は独創(こごと)を迷わす気労(きろう)にしょぼくれ、俗世(このよ)の生気に呑んだ暮れに成る個欲(こよく)の懺悔は儚いながらに、「明日(あす)」の欲芽(よくめ)を傍観し得ない夢遊の主観(あるじ)を寝床に呼び込む夢想の記録へ気化して往(い)った。拙く這入れぬ誠を貫く幻(ゆめ)の許容(うち)には、暗くなるまで自活を続けぬ俺の〝帳〟が動悸を鳴らし、返り咲けない無重の重荷を故無く預けた記憶の寝言(こえ)から、取手の要らない幻(ゆめ)の空間(すきま)へ誘(いざな)う扉がぽんと飛び出て俺に現れ、俺の身辺(あたり)を闊歩し得ない草臥れ通せる幻想(ゆめ)を手に取り、慌てふためく双子の記憶は未熟(あお)い延命(いのち)を逆手に着飾り将又騒げる明日(あす)の夜宴(うたげ)へ気品を呼び掛け成熟していた。

 色葉歌留多(いろはかるた)の子守歌など、途切れ途切れに幻想(ゆめ)へ絡まり、遠(とお)に吹き止む北の涼風(かぜ)には、晴嵐(あらし)の前夜に轟き渡れる塗装のいきりが突っ立って居た。弄(あそ)び始める俄かの歌留多は、俺の幻(ゆめ)から真綿に包(くる)まり、脆(よわ)い現世(うつしょ)にそこそこ絡める舌の脚色(いろ)から続きを夢見て、黄昏れ始めた普通の文句(ことば)を音波に変えて、境界さえ無い二極の空間(すきま)を立たせて行った。女性(おんな)から成る現(うつつ)の仄香(ほのか)は干乾び始め、尻尾を出さない男性(おとこ)の嫉妬(ほのお)は欠伸をしながら膨張して活き、限界(かぎり)を報(しら)さぬ夢路の脚色(いろ)へは遠巻き遅れて、靡きに絶えない独学の音を真向きに捉えて放心している。きつきつ、きちきち…、つとつと、ほろほろ…、暗(やみ)の許容(うち)へと葬り損ねた忌々しい〝気〟を独断に観て、「明日(あす)」の気力を放り損ねる向きの出足を俯瞰した儘、俺の幻(ゆめ)には通りに咲けない青い屍(かばね)が散乱していた。「働き場所を…」と脆(よわ)り切らない怒調(どちょう)の美声(こえ)から大目に見る儘、活路を灯せぬ現実描写は始終褥に巻かれて在って、脆々(もろもろ)崩れる現(うつつ)の涼風(かぜ)から過去の冷風(かぜ)まで、俺の居場所を突き止め始める〝現実模様〟の浮き立ち方には、俺への定めを装い続けた孤独の素顔が素描(デッサン)された。「働き場所を…」と何気に呆けた淡い口には微笑を立たせた透った照輝(てか)りが機敏に紅(あか)らみ、仄かに浮き出る他(ひと)の素顔の出で立ちにはもう、何も描(か)かない片仮名描写が奥歯を鳴らして悶々している。俺の心身(からだ)を受け止め得るのは褥に揺らげる現世(うつしょ)の肴で、辺り構わず他(ひと)に気取れる空蝉(からせみ)の実(み)を、両手に取れない現実発起に露頭を描(か)いた。

 何処(どこ)かへ遠退く自己(おのれ)の感覚(いしき)に注意しながら、俺の心身(からだ)を賄うムードは欠伸をしながらぽつんと在った。これまで俗世(このよ)に如何(どう)して活きて、如何(どう)して在るのか、定かでないのがぽつんと突っ立ち、自分に彩(と)られた欲の内にて寝首を擡げる。明くる朝から、俺の周りを失踪して行く幾多の温身(ぬくみ)が人影(かげ)を被(こうむ)り謎へ失(き)え果て、可笑しくないのにけたけた嘲笑(わら)える暗(やみ)の許容(うち)へと顔色変えて、何処(どこ)へ行くのか一向識(し)らずに、どんどん膨らむ暗(やみ)の許容(うち)へと邁進して行く。紫煙(けむり)の立たない日々の人山(やま)には無重の追想(おもい)が在るには在るが、呼笛(よびこ)を持たない俺の表情(かお)には甘い匂いが漂い始める。冷めた感覚(いしき)が微妙に尖れる安い裏道(みち)には紫煙(けむり)も立たずに、何処(どこ)からともなく、朝陽に茂れる脆(よわ)い景色が霧散を呈して支配され行く。脆(よわ)く突っ立つ女性(おんな)の縁故が何はともあれ目出度いものだと、酒席を設けて俺の感覚(いしき)を放り投げ得る新たの心境(さかい)を見逃してもいた。水面(みなも)に映れる黄色の剣士が怒涛に逆巻く潮音(おと)を通して、俺が佇む淡い立場へ空気(もぬけ)を追立(ついた)て茂れる宿まで呑めり込みつつ露わに呈し、何処(どこ)へも辿れぬ〝意味〟の樹海を我が物顔して得意気に立ち、俺と他(ひと)との仲を取り持つ仲介者として現れていた。俺に背負わす定めの幅には何も気取れぬ〝意味〟さえ在るが、〝深い果て〟には人の生き血を吞み込み始める黒い勇気が散々(さんさん)している。人の動きと他(ひと)の動きを何処(どこ)まで辿って掬い得るのか、一向見知れず気取らないのは俺に置かれた定めなのだ、と一蹴しながら、煙(けむ)に巻かれる甘い簀子へ一万人目の来訪者と成る。白い呼笛(よびこ)は自体(おのれ)を咲かせぬ青い花への合図を奏で、人山(やま)の麓でほっそり伸び得る淡い気色を順に取り次ぎ、決った幻(ゆめ)への小路(こうじ)を持ち得ぬ俺の気色を逆手に採った。此処(ここ)まで生き立ち、人の麓で喘ぐ姿勢(すがた)は透明色した硝子箱に見る脆(よわ)い人身(からだ)を追い立てそうで、儚く哀しく、中々険しい、人間(ひと)の鬱へと失踪(はし)って行った。緑豊かな俗世(このよ)の景色に見取れていながら白亜の真室(まむろ)は空を識(し)らずに宙ぶらりに成り、欠伸しながら経過を啄む俺の呑気と追随して行く、白亜の幻(ゆめ)へと外見(そとみ)を成した。初めから在る既出の声には陽(よう)の灯(あかり)がぽつんと明るみ、漆黒(くろ)い宙(そら)へと吸い込まれて行く人間(ひと)の興味を失くしていながら、大運河に咲く小さな畔は経過(とき)の終始に逆行して行く丈夫な流行(ながれ)を呈し続けた。女性(おんな)に彩(と)られる正義・誠実・理性の程度が、男性(おとこ)の俺には重荷を忘れる、桎梏(かせ)を想わす箍にも観えて、積極的から消極的へと、全ての事象へ跨る際にも、俺の精神(こころ)は理性を退(しりぞ)け欲へと活き得る何等の趣向を大事に観ていた。頓馬(とんま)の欲から他(ひと)を取り出す哀れな人形(すがた)を真向きに捉え、直ぐに壊れる女性(おんな)の感覚(いしき)を逃していながら、身軽に死に往(ゆ)く女性(おんな)の初生(いろは)を憎み続けて空気(もぬけ)を抱いた。黒目(ひとみ)に映れる白い肢体(からだ)の女性(おんな)の化身(かわり)は、漆黒(くろ)い夜気(やぎ)から未熟に活き得る褥の〝愛〟など仄かに掲げ、男性(おとこ)に生れる俗世(このよ)の煩悩(なやみ)の数多の正義を全て捕えて、頭から喰い四肢(てあし)を捥ぎ取る、女性(おんな)の嗣業へ精進して行く強靭(つよ)い定めを掲げてもいた。幼児(こども)の未熟に柔く騒げる〝褥〟をぶら下げ、女性(おんな)に対して何も気取れぬ男性(おとこ)の強靭味(つよみ)は疾空(しっくう)を切り、表情(かお)の無いままぶら歩きをする女性(おんな)へ目掛けて罵声を投げ掛け、俗世(このよ)に生れた男女の気色を軟く切り裂き葬っていた。俺の周囲(まわり)に揚々集まる見知らぬ空気は次第に崩れ、抱擁され行く男性(おとこ)の脆(よわ)さは宙(そら)から気取れる自分の淡い灯(あかり)をぽんと立たせて弱気を呟き、自分に宛がう救いの躰を永久(とわ)に生き得る言葉の陰から自然に引き抜き、俗世(このよ)に象(と)られた悪の栄える無理の檻にて、自分を保てる柔い平和を未然に仕立てて合唱して行く期待外れの幻(ゆめ)を観ながら自分と俗世(このよ)の終ぞ付かない合いの感覚(いしき)を捜して在った。そうして戸惑う俺の前方(まえ)には、褥の檻から出て来たような、淡い肢体(からだ)の教授が現れ、漆黒(くろ)い人見(ひとみ)にぽつんと浮き立つ真面目の姿勢(すがた)を俺へと観せ付け、鍵の壊れた檻の内から気丈を呈してすうっと出で立ち、幻(ゆめ)を透して幻想(おもい)を通せる強靭(つよ)い頭(かしら)を傾倒させた。

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 日本語史を教えていた浅野氏のような教授と、他の仲間、一人は小人のようで相応のハンデを世間で持っている筈だが非常に明るい性格の中年と、「大草原の小さな家」に登場するチャールズみたいであり色々変化する信頼の置ける奴とが居て、俺達は世間でなけなしの注文から貰った仕事を三人と一匹でしていた。そこの工場長として在るようだったネリーより背が低い者として時折り映る副工場長(浅野氏)ともう一人の従業員と共に、何かを捜すように世間の為にと、自分の為にと、そこに於いて働いていた。そこに健次郎が来て初め監督し始めた。又他に既知の出来事のようにして在った比較(ひき)君、何故か副工場長から平(ひら)の従業員に戻っていた浅野氏にピーター・フォークのような温かさと父性をしっかり感じながら、世間に於ける繋がりを願うなら私の為にも祈って、と言うのっぽの女の子、ニッキーの声を聞きつつ、俺は俺で介護福祉士と成り、自分の世間に働く上での初期の時代を思い出しながら、唯素直に懸命に働いた。比較(ひき)ともう二人のベテランと中堅職員に引け目を感じながら俺は唯懸命に仕事をした。

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 甘い給油の灯油(ランプ)が俺の頭上(うえ)にて仄(ぼ)んやりする頃、教授の知識は俺の心境(こころ)へすうっと解け込み、世間に敷かれた無憶(むおく)の空間(すきま)を感じさせ得た。俺の横へと比較(ひかく)するのに既出して居た痩せた男性(おとこ)が紅(あか)らみ始め、素通りして行く経過の集積(シグマ)を発音(おと)へ仕立てて、工場から成る惰性の楽器はやかましいほど震えて在った。Trembling、feeling、resembling、mourning、trespassing、invading、moaning、soaking、…、…、…、俺の心中(こころ)にふと又落ち込む文句(ことば)は、女性(おんな)の初出(いろは)に突き出始める孤高の旋律(しらべ)の酒宴(うたげ)であった。幾多の音頭が女神の体(てい)した女性(おんな)の初生(いろは)に舞い散るけれども、女性(おんな)の表情(かお)には突拍子の無い怜悧な正体(からだ)が隠れて在って、俺の傍(そば)を通る頃には人影(かげ)の無いほど身代わりを立て、橙色した無重の正味を俺へと見せ付け、何も保(も)たない古着を束ねて黙って居るのだ。俗世の空気(もぬけ)が父を通して俺へと近付く。父性を呈する父の姿勢(すがた)は何にも成れない気性を纏めて小人に成り立ち、水の態(てい)した軽い空気(くうき)に果てを据え置く、俺にとっては不要の姿で君臨して行く。父の態度は俺に嵌らない。父の表情(かお)には俗世冥利を味わう、汚(よご)れた気色が蔓延しており、俺の元へは自ら立たない、他人の姿勢(すがた)に終始している。俺は父を嫌った。父の姿がこれまで育てた息子の俺へと如何(どう)して映って在っても、俺の本能(ちから)は父が来るのを決して許さず、此の世に生れた初めの想いに永久(とわ)に生き得る矛盾を呈して、合致出来ない父と俺との不相性には永久(とわ)に咲き得る青い花など、陽(よう)に照られず固まり始める。「世間」の為にと何か繕う烏有の工場(こうば)を後(あと)にしながら、そこで彩(と)られた人間(ひと)の像(ぞう)から新たな光明(ひかり)を、生き抜く為への自活(かて)としながら傍観して生き、俺の目前(まえ)には一向退(の)かない神の像(すがた)が君臨していた。

 人間(ひと)の操作が〝創作〟して行く何等の技術へ相対(あいたい)しながら、「明日(あす)」の為にと生き抜く術(すべ)さえ血色忘れた自活(じかつ)の許容(うち)にて崇拝しながら、結局これまで自分の心境(さかい)を経過に従い分裂したのは、俺の元へは如何(どう)にも還れぬ人の動義(どうぎ)に心得ている。動く大儀は人の歴史に紐解く上にて如何(どう)でも空転(ころ)がる親子の絆を消し去りながらに、実家を離れた〝独房〟紛いの個室に於いては、俺が来るのを心待ちにする新たな〝定め〟が鎌首擡げて、俺の〝定め〟に既出(きしゅつ)している〝呼応の人路(じんろ)〟を用意している。俺の精神(こころ)は両親(おや)から離れて独り立ちして、青い宙(そら)へと目的を知り、独立して在る既成の台座へ腰掛け行く頃、これまで生育(そだ)った俺への景色は無益を唱(しょう)さず無駄と成り得ず、新たな世界へ踏み出る一歩を既成の人路(みち)へと敷き詰めていた。俺の表情(かお)には両親(おや)を離れた喜びから成る億多(おくた)を揺さぶる歓喜が挙がり、独歩(ある)く姿勢(すがた)は俗世(このよ)に於いては他と変らぬ気性とされるが、俺の元へは俗世(このよ)には無い霊の励みが満々活き出し、他(ひと)に気取れぬ個別の人路(みち)から陽(よう)の照るのを無頼に訓(おそ)わり、人が他(ひと)にて群れの内にも孤独で在るのを既成としたまま放逐して行く強靭(つよ)い傘下を与えて在った。そうした傘下に俺の発想(おもい)は這入り始めて、俺と他(ひと)との孤独の遊戯は詮無き仕種に潰えていながら人間(ひと)の温味(ぬくみ)へふいと還れる新たの水面(みなも)を構築し始め、創造して行く宙(そら)の漆黒(くろ)には俗世に問われる何等を保(も)たない幻(ゆめ)の狭間が窺え始めた。その後に見られる俺の言葉は他(ひと)の常識(かたち)に理解されない奇妙な発音(おと)から成立し始め、瞬間(とき)の経過が宙(そら)に解け入る白亜の壁へと馴れる頃には、堂々巡りの人の常識(かたち)が再び挙がって物を言い出し、理性の許容(うち)にて気取られないまま阿漕の暗(やみ)へと払拭され行く、春秋豊かな表情(かお)を添え付け、独歩に介して寝耳を立て行く孤高の勇姿を振る舞い出した。恥の気高い大人しさを観て旅情を先取り検討し始め、何をするにも自由に立ち得る幻(ゆめ)の四肢(てあし)を宙(そら)へと掲げ自分の〝定め〟に小さく抗う趣旨など見付けて騒いで在ったが、夜目(よめ)に彩(と)られる烏有の気色が未熟に灯れる疲労を連れ去り、鷲掴みにする他(ひと)の定めを宙(そら)へ葬り視界を狭め、俺の下(もと)にて活き得る主観(あるじ)は無理を横目に独走して行く独我(どくが)の様子を打ち立ててもいた。何処(どこ)へ立っても景色を誘(いざな)う初春(はる)の夕べに気性を報され、ふらふら連れ行く自分の主観(あるじ)は人の常識(かたち)に形容されない遠い強靭(つよ)さを携えながらも自己(おのれ)の真下に変れず位置する自然の流行(ながれ)に背水さえ観た固陋の企図にて自分を哀れみ、鳴るも鳴らない他(ひと)の呼笛(よびこ)は何の企図も挙げない儘にて、〝堂々巡り〟の拍車の描写を新たに拡げて喝采してある。幻(ゆめ)に跨る屏風の絵巻は人路(みち)を独歩(ある)ける人の温身(ぬくみ)を上手に認(したた)め強調するするが、血色豊かな他(ひと)の口車(くるま)に慌てて跳び入(い)る俺へと目掛け、成るも成らない他(ひと)との描写に合図の付かない暗闇を観て、識(し)るも知り得ぬ人間(ひと)の歴史は砂礫へ埋れる衝動(うごき)を頬張り明度を保ち、明暗から成る暗い律儀を憤(ふん)を晴らして揚々気取れる俗世遊びに傾倒しながら俺と他(ひと)との脆(よわ)い〝律儀〟をそれでも保持して明日(あす)へと独歩(ある)かせ、奮起の付かない脆(よわ)い瞳(め)をした俺の躰へ、「明日(あす)」を生き抜く強靭味(つよみ)を備えて微笑していた。手持ちの灯油(ランプ)が次第に宙(そら)から涼風(かぜ)を連れ込み、結束し得ずの自然と和に咲く〝青い花〟への素描を成しつつ、子供の居場所を何処(どこ)へも問えずの既成の身辺(あたり)へ対(つい)をも這わせ、自活(じかつ)を夢見る俺の糧へと自ら飛び込み輪舞曲(ロンド)を挙げた。

 明るい舞台を想起しながら人路に彩(と)られた真逆を認(したた)め、歩いた歩先は何処(どこ)へも向けずに空虚を飛び交う司教を追い駆け動じず在って、奇妙に寝向ける塵(ちり)の態(てい)した輪舞曲(ロンド)の歩幅(はば)には、易い浮世(うきよ)が間抜けにおっ立つ寧静(シビア)が配され動かずに在る。女性(おんな)の上気が再び共鳴(さけ)ばれ環(かん)に還って、男性(おとこ)の浮気を常時読み取る〝予期〟の水面(みなも)を構築した儘、一番星から二番星へと、自流に蠢く幼春(はる)の上辺を微塵に潰して放(ほう)って棄(な)げた。初めに無茶する男性(おとこ)の本能(ちから)は永く活き得る女性(おんな)の活気に疎ましさを識(し)り、忌々しいほど無駄に蔓延る女性(おんな)に与(く)まれた悪事の倣いが、東の園(その)から揚々吹き出る円らな地獄を予兆に据え置き、男性(おとこ)の素朴を悪魔に化(か)え得る無駄な屍(かばね)に欺き始める奇妙な言動(うごき)に正味を識(し)った。紫から成る人煙(けむり)の合図が〝呼笛(よびこ)〟の代わりにちりんと立った。宙へ掲げた自分の生地が如何(どう)言うわけだか定位置から擦(ず)れ、「明日(あす)」の居場所を捜し求める可笑しな行為を募らせ始めて、神秘の元から樞(ひみつ)を象る〝機械仕掛け〟を俺へと立てた。〝機械仕掛け〟は初めの輪舞曲(ロンド)を奏でながらに人路(じんろ)を象る〝舞台〟の上から人形(ひとかた)を瞰(み)て、併せ損ねた海馬の清閑(しずみ)を片手に発(た)たせて優位を気取れ、始めから在る帰趨の横手に白帆(しらほ)を掲げる、欲の深さを掴んでもいた。俺の元から離れる他(ひと)には青い孤独が繁茂に触れ活き、独創して生く俗世(このよ)の新たに〝新た〟を加えて邁進して行く小言の連呼に追従(ついしょう)していた。そうした〝孤独〟は人間(ひと)の欲しがる〝浮かれ騒ぎ〟に罪を透して楽園を建て、他(ひと)の各自は罪に隠れる漆黒(くろ)い暗(やみ)から〝新た〟を頬張り、孤独を連れ去る夢想の主観(あるじ)は白帆(はくほ)に知られぬ情(じょう)の陰にて熱病をも観(み)せ、取って付け得ぬ人間(ひと)の頭上(うえ)から俗世(このよ)に懐ける独我の真摯を導き始めた。俺の吐息は宙(そら)から返れる漆黒(くろ)い常識(かたち)の感覚(いしき)を頬張り、連れ去る温度は矢庭に構える人間(ひと)の〝律儀〟の結束から見て脆(よわ)い白亜に充分気取られ、笑い疲れた唖女(おんな)の集気は臭味を透して雲散(うんさん)し始め、女性(おんな)へ対する男性(おとこ)の労苦は俺の目前(まえ)から蒸発して活き、獣の数字を事毎当て得る空間(すきま)に埋れた樞(ひみつ)にはもう、俺の為にと構築され得た白い旅路が人路(じんろ)と称し、漆黒(くろ)い宙(そら)にて休む事無く廻り続ける。

 金魚鉢に似た俺に彩(と)られた常識(かたち)の許容(うち)には知識が無いまま知恵も無いまま常に飛び跳ね周回して居る女魔(めま)の感覚(いしき)が散行(さんこう)して行き、目的(あて)を見付けて独歩して行く夜毎の幻(ゆめ)から厚味を洩らせる巨体の畑を俺へと貸した。巨体の畑は取りも直さず自活に生育(そだ)てた作物から成る自体(おのれ)の臭味を俺へと宛がい、古巣へ還れる無性(むしょう)の愚露差(ぐろさ)に襖の破ける発音(おと)さえ聴き分け、俺に彩(と)られた不思議の許容(うち)では女性(おんな)の正味を片手に掬える自称の優美(ゆうび)が刀を抜いた。幻(ゆめ)に解け入る囲いの許容(うち)でも宙(そら)を見上げた集体(シグマ)の晴嵐(あらし)は誰彼構わず留めて射抜き、抜いた刀で剣舞を小躍(おど)れる無用の勇気を、じっと見詰める暗い勇姿へ放(ほう)って失(け)した。硝子の透明色(いろ)から何か分らぬ涼風(かぜ)が舞い込み俺へ吹き付け、堂々巡りの想起に生(は)やせた夢想の一矢はきらりと煌めき無有(むゆう)に触れ抜き、確実から成る光明(ひかり)の坩堝に天漫(てんまん)授ける白銀(ぎん)の導を少々据え置き厄日を支払い、併せ鏡に現世(うつしょ)を映せる孤高の教書(ドグマ)を感じていながら、俺の首には厚い印(しるし)が知れずに置かれて愉快にも在る。無形(かたち)を成せない俗の優美が矢庭に毀れて発音(おと)を立てる頃、旧友(とも)の心中(こころ)に朽ち行く感無(オルガ)は俺から削がれて噴散(ふんさん)していた。誠実から成る無暗の並びは俺の思惑(こころ)へすんなり隠れ、慌てる間も無く旧友(とも)の文句(ことば)へ呼応するのは漆黒(くろ)い夜雲(よぐも)に自体(おのれ)を合せる空虚と意味との集塊(かたまり)だった。

 何処(どこ)からともなく脚色(いろ)が聞える。暗(やみ)を貫く淡い怒(いか)りが俺と他(ひと)とを構築して活き、この世を捉える金の檻から小鳥が発(た)つのを具に観ながら、全く景色が動換(どうかん:変換としてよい)し得ない孤高の主観(あるじ)へ対峙しながら、土手の上にて朝陽を曇らす「昨日」の保守(まもり)を好く好く確かめ礼賛へ遣る。献示(けんじ)され得る朝陽の照輝(ひかり)が何物にも似ず、唯々ひたすら〝奥義(おくぎ)〟に我が実(み)を呈してそうした〝奥義〟が恰も自然へ埋葬され得る古来の人間(ひと)への礼儀を採っても、成らず物から無像に仕上がる自然の教習(ドグマ)は口を開(あ)けずに、俺の背に在る白亜の樞(ひみつ)を誰にも伝(おし)えず不変を噛んだ。紺(あお)い空気(もぬけ)は俺の頭上(うえ)へとぽつんと突っ立ち、宙(そら)の果(さ)きへとふらふら挙がれる人間(ひと)の温身(ぬくみ)をほとほと呈すが、鳴きながらにして暗い〝律儀〟へ跳び発(た)つ小禽(とり)の肢体(からだ)は潤々(うるうる)気忙(きぜわ)に、哀れから成る早期の述懐(レトロ)へ自体(からだ)を迷わせ遠泳して行く延命(いのち)の樹海を想起して在る。白亜の砦は牙城にも無い脆(よわ)い白亜を演出しており、俺から離れる人間(ひと)の温身(ぬくみ)は宙(そら)の白味(しろみ)に多忙を語らい、気忙(きぜわ)に向かって来訪して行く漆黒(くろ)い愚露差(ぐろさ)を確立しながら、自分の感覚(いしき)へ硬く彩(と)られる自然の防備につとつと絆され、茶色に黄(きい)ばむ可笑しな神秘(ひみつ)へ夜毎に呈した孤独を盛(も)った。段々仕上がる白亜の壁には以前に問われた俺と人間(ひと)との擬態が浮ばれ、世に問う晴嵐(あらし)の寝床が俺に在るのを人間(ひと)の余財(よざい)へ表し始めて、空の限界(かぎり)が宙(そら)で在りつつ、白湯(さゆ)の限界(かぎり)が人身(ひとみ)に在るのを空(くう)に呼ばれた樞(ひみつ)の狂言(ことば)に取り付けられ得て、以前(むかし)に隠した小言の連呼は個人(ひと)を投げ売り際限を観た。地上に活き付(づ)く時際(ときわ)の紫煙(けむり)は人間(ひと)に呼ばれた撰抜人(エリート)達から焔(ほむら)に巻かれる失墜を保(も)ち、何処(どこ)まで活きても個人(ひと)の姿が人間(ひと)に在るのを歪曲せぬまま暴露(ぼうろ)へ先立ち、「明日(あす)」の軸転(くるま)に華を得(う)るのを細目(ほそめ)に観ながら舌舐擦(したなめず)りさえして、地上へ這わせる二色の局手(きょくしゅ)は自己(おのれ)の酔いにも小躍(おど)って在った。

      *

 ランプの扱いについて、持ち方が違い、「それではランプの中身(恐らく灯油)が全部出ちまう」と笑いながら浅野教授が演じるような工場長(か唯のベテラン)からの助言も在り、まどろこしい平安の内で自分の自信が祈られる程の嫌気が差し、それでも俺は、野球(その時の仕事)をやり、何彼誰彼に気に入られようとして居た。世間での癖のような、馬鹿に見える気遣いをしながらダンスをしつつも、俺は仕事をしていた。赤ん坊のパパのような工場長は普段の儘に強く働き、俺はそれに従っていた。

      *

 旧い水面(みなも)にぽとりと落ち着く涙の一滴(しずく)が果(さ)きへ渡る頃、俺の周囲(まわり)へ象(と)られた景色はあめんどうから搾り取られる古い既物(きぶつ)の外形さえ観(み)せ、規則正しく並んで独歩(ある)ける癒しの系(つま)からこそぎ採られる淀んだ〝律儀〟へ鬱服(うっぷく)しながら、何事にも似ぬ固(ふる)い書物に蹂躙を観た。何から始まりに何を採るのか、自然の荒木(あらぎ)は何処(どこ)迄にもなく俺の背後(うしろ)へ過ぎ去り続けた過去の神木(きぎ)から遠鳴り始め、俺の延生(せい)にて早々(はやばや)片付く既物(もの)の初出(いろは)に相槌打ちつつ未完を呈され、白い喉には文句(ことば)に詰った俺の〝合図〟がここぞとばかりに脚立(きゃくりつ)を得た。独りに成るのが怖いながらに宙(そら)の高嶺に象牙が生き延び、慌てふためく二つの良児(りょうじ)は経過(とき)の取手に掴まり立った。幻(ゆめ)の藻屑が大海(うみ)から挙がって転々(ころころ)空転(ころ)がり、橙色した朝な夕なに、述懐(レトロ)を打ち立て忍んで近寄る。か細く突き出た延命(いのち)の冥利が人間(ひと)の呈する〝内輪〟に息した不貞の集積(シグマ)へぽとんと紛れ、俺の両脚(あし)には漆黒(くろ)から生れた強靭(つよ)い桎梏(かせ)など空々(からから)廻り、馬酔木から採る酔いの正味を無造(むぞう)に仕分けた糧(パン)の屑へと着染(ちゃくせん)して行き、俺の舌へと、人間(ひと)の舌へと、普遍に這わせる規矩の明かりを突き止め出した。灰色(グレーいろ)した宙(そら)の敷間(しきま)へ人間(ひと)へ突き出す露呈が示され、淡い幻(ゆめ)には俺の躰に奇妙に仕上がる述懐(レトロ)のウルカがきちんと仕上がり、自ず内から人間(ひと)の常識(かたち)を手早く離れる孤島の目的地(あて)など遠目に認めて、俺の思惑(きおく)は轟々唸った言葉の晴嵐(あらし)へ舞い込み始める。旧友(とも)の姿も両親(おや)の姿も他(ひと)の姿も暗(やみ)の姿勢(すがた)も、俗世の内輪をぽつんと離れた俺の肌理には微塵に限らぬほとぼりさえ無く、大涙(なみだ)を流行(なが)せる旧い仕手には俺の文句(ことば)に従い続けた無量の蜃気がびゅうびゅう鳴り出し、ついと付けずにおいとも逸れない幻(ゆめ)の元気が活路を連れ添い微笑(わら)って在って、背伸びしている現(うつつ)の発声(こえ)には未完(みじゅく)に仕上がる脆(よわ)い集気(シグマ)が先立つ態(てい)して無敵を識(し)った。傀儡から成る〝二つ折り〟した無重の局地は、俺の足場を青空(そら)へと拡げて硝子器を読み、無数に書かれる既知の言葉がステンレスからじわじわ拡がり荒廃して行く二つの感無(オルガ)を両掌(りょうて)へ仕上げ、古来(しきたり)からして〝通路〟を成せない三つの双頭(あたま)の大海原には、紺味(あおみ)に失(き)え得る恰好(かたち)の好ささえ未熟に成り出し、男性(おとこ)と女性(おんな)の旧い質(たち)から何にも問えずの現行(いま)の旧巣(ふるす)を示して在るのだ。

俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗俗・俗・・俗・・・俗・・・・俗・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・・・俗・・・・・・俗・・・・・俗・・・・俗・・・俗・・俗・俗

 脆(よわ)い感無(オルガ)と強い感無(オルガ)が俺の背中で交差したまま女性(おんな)の屍(かばね)を脆(よわ)く保てた白い吐息に宜しきを観て、俗世に蔓延る空虚の藻屑を机上へ放(ほう)って物臭を見た。鬼畜の如きに根強い家屋が無暗矢鱈に俺へと還り、返り咲きする〝使徒〟の轆轤は涅槃を越え行く熱夜(ねつや)の感覚(いしき)を巧みに採り抜き、「明日(あす)」の余力(ちから)が寸断され得る徒労を宛がう無力の脆(よわ)さを自分へ突き付け、月夜の俗世も日照りの俗世も、自属(じぞく)の憤怒へ絡み付け得ぬ白亜の文句(ことば)を幾度か呟き、昨日に逆行(もど)れぬ代々(よよ)の辛(から)さは自己(おのれ)の振り見て我が身を直せる不敵の強味を見せ付けてもある。過去に咲かない希望の主観(あるじ)は孤独を夢見て孤独へ息巻き、独歩(ある)ける自体(からだ)を吐息へ絡めてずんずん落ち込む、徒労の主観(あるじ)へめっきり寄り添い、自己(おのれ)に拝した円らの弱者が言葉を潰えぬ珠算を識(し)る際、事毎ばかりが生(せい)へと独歩(ある)ける人間(ひと)の強靭味(つよみ)を自生に識り得た。近しい輩も恋した輩も俺の麓(もと)から早々(さっさ)と失(き)え去り、道理に咲かない人間(ひと)の孤独を如何(どう)して俺まで運び得るか、を苦労に塗れる華(あせ)に呟き、首をこきこき鳴らしながら自己(おのれ)に敷かれた定めの途次へと、代々(よよ)に採られた人の嗣業(しごと)に自己(おのれ)の確保を精一杯した。当ての観得ない乾ける砂地を陽(よう)を夢見て戦いで在ったが、俺の下(もと)へと一面拡がる竜胆式画(りんどうしきが)は幻(ゆめ)の許容(うち)から幻想(ゆめ)の範囲(うち)へと、瞬く間にして空転(ころ)び続けて、夜の脚色(いろ)から陽(よう)の脚色(いろ)まで、事毎騒げる端正(きれい)な集積(シグマ)へ還って行った。紺(あお)い夜宙(よぞら)は俺の背後(うしろ)をすうっと切り抜け、他(ひと)に観得ない夜気(よぎ)を騒がせ妬んで在ったが、妬む果(さ)きなど自分にとっては、何の事だか解らぬ間(あいだ)に、至力(しりょく)を尽せる文句(ことば)の飼い葉が変成(へんせい)して活き、隠し切らない双(ふた)つの小さな牙(やいば)は俺の視野からすっくり自生(そだ)てる奈落の道理(みち)など用意していた。

      *

 何時(いつ)までも従うだけじゃないと、俺は自分なりに生き始めて、他迷惑(六羽:ラッパ)の前で、従順で居た。従業員の一人が中森明菜に成り代わり、まるでそれは俺の為だったようで、明菜は確かに躁鬱病のような症状が在るには在ったが、俺の様子を親身にしっかり捉えて、為に成る事をしてくれていた様子で、俺は明菜を好きだった。その頃俺達は、仕事の流れで野球をして居た。

      *

 蝶の画描(えが)きが如何(どう)でも自分に嫌気が差して、幼女(ようじょ)を賄う母性の縁(ふち)から宙(そら)へ蹴上がり自身を賭した。精神病から夜毎(よごと)の順調(リズム)に手拍子しながら蹴上がる幻(ゆめ)には、何時(いつ)か見果てた円らな少女が華麗に舞い散る四肢(しし)の灯(あか)りを皆に映らせ、俺の従順(すなお)に尽きて尽きない褥の両刃(もろは)は母体に投げ受け仄(ぼ)んやりしながら、奮々(ふるふる)震える俺の目前(まえ)での愛しい様子は、〝明菜〟を呈せる個々の魅惑を然々(ねんねん)灯して悦んでも居た。紺(あお)い華には月に華咲く人馬(じんば)の霊など端麗(きれい)に移ろい心を失い、俺の男性(おとこ)を丁度に締め切る「内(うち)」の不様を醜く切り留(と)め余程を茂らせ、独歩(ある)ける暗(やみ)には精神(こころ)を保(も)たない息を衝(つ)かせぬ無幻(むげん)の目下へ返り咲き観て、俺の元へとその実(み)を落せる明菜の魅力を当然とした。限り在るのは暗夜(やみよ)の許容(うち)だと自ら手を打ち自活に燃えて、明菜の呈した楽園迄へと、独歩を見積もり俺は独歩(ある)いた。独歩(ある)き独歩(ある)いて未完(みじゅく)の失(き)えない自然(じねん)の諸刃(やいば)が宙(そら)から降る頃、茂みに茂れる明菜の蛇足は楽然(パラダイム)を観て酔狂して行く。禿鷹から成る邪推の横羽(おおう)が始めと終りを宙(そら)へ投げ付け、俺の男性(おとこ)と明菜の女性(おんな)を横目に観ながら白亜に打ち付け、腰を振り抜き格闘交える万(よろず)の源(もと)から至極挙がれる三日月さえ観て、彼女と俺との幻(ゆめ)の規制(おきて)は軍手をしながら虚無へ唄った。言葉を遮る幻(ゆめ)の白亜と虚無の白亜は、真上から成る白雲(くも)の寝床に足止めまで観て、成り行き任せの〝褥〟の寝言に然々(つらつら)釣られる男性(おとこ)の礼儀を醸してさえ居た。女性(おんな)の水源(もと)からふさりと上がれる尖った気力(ちから)は、天然物(てんねんもの)から自然物(じねんもの)まで欲の利かない憂いの楽園(その)までその実(み)を手懐け、「明日(あす)」を気取れる個録(ころく)の裾には、〝生(せい)〟を象る脆差(もろさ)の重荷が小首を傾け前記(ぜんき)を記(しる)せる。

 羽の白亜に宙(そら)に灯れる果実を見付け、明菜の美声(こえ)から弱気を辿れる稀有の白木(しらき)を見付ける瞬間(ころ)には、「明日(あす)」を気付ける表情(かお)の歪曲(ゆがみ)は「昨日」に灯れる生気の露歩(ろほ)から暫く除ける。憂いを眼(め)にした新手の素性が死んだ経過(とき)からひょっこり現れ、何処(どこ)へ向くのか未だに識(し)られぬ人間(ひと)の強靭(つよ)さにおっとりしながら〝虚無〟に纏える私便(しびん)の幻(ゆめ)には落着を敷き、虐待して行く〝美声(こえ)〟の古巣は極みを知る程老朽しながら、発噴(はっぷん)出来ない未完(みじゅく)の言動(うごき)に自己(おのれ)を据え置き両者を束ねる〝有名無実〟の架空の匣を、俺の男性(おとこ)と明菜の女性(おんな)は汚染に敷かれる〝脱線〟から観て認めて在った。

 思惑(こころ)から成る不浄の古巣(アジト)へ経過(とき)が空転(ころ)がる不毛の様子は、初めから在る君子(くんし)の加護さえ忘れてあった。「明日(あす)」の行方をじっくり見詰めた気色の駒には幻(ゆめ)の初枝(はつえ)が丁度飛び出し、気性を擡げた幼児の様子を俺の背後(うしろ)へそっと寝かせた。透明色した紋黄(もんき)の類(るい)には揚々漂う未完(みじゅく)の感覚(いしき)が何処(どこ)までともなく順々重なり、辺りを見廻す旧手(ふるて)の欠伸も〝堂々巡り〟の華の宮(みやこ)へ真綿(しとね)を運んでついと失(け)え生(ゆ)く。両脚(あし)を引き摺(ず)る漆黒(くろ)い両眼(まなこ)は灯(あか)りを灯せぬ夜気(よぎ)の背後(うしろ)にまったり抱(いだ)かれ、思惑(こころ)の行方を丁度捜せぬ未完(みじゅく)の通りを場面に模した。俺の前方(まえ)へと活き切る幻(ゆめ)には場面を呈せぬ脆(よわ)い孤独が遠くを過ぎ経て躰を揺さ振り、遥か遠くへ人山(やま)を独走(はし)れぬ旧い両脚(あし)へと自己(おのれ)の両脚(あし)さえ促し始める。通り、通りに余程の嫉妬が空転(ころ)がり産まれ、空虚に纏えぬ小さな機敏が欠伸をするうち矮小にも鳴り、現行(いま)の〝尽きる〟を俺の過去から隠蔽していた。俺の幻(ゆめ)から密かに仕上がる個定(こてい)の〝彼女〟は背丈を延ばして俺へと辿り、俺の体温(ねつ)から自分に適した精神(こころ)の主観(あるじ)を俺へと突き付け、自分の身の内、孤独によろめく不思議の女性(おんな)を、朝に夕なに〝茂み〟に隠せずそのまま生き行く未完(みじゅく)の感覚(いしき)へ文句を脚(あし)に丈夫に伸びた。初めから在る神秘の美学が人間(ひと)の幻(ゆめ)へと知らず内にてひっそり這入ると個人(ひと)に採られた樞(ひみつ)へ対する幻想(ゆめ)の態度はがらりと化(か)えられ、明日(あす)の両眼(まなこ)も醒める調子に他人の口から全てを訊き出す固陋の主観(あるじ)にその身をを慣れさせ、明るい瞬間(とき)から暗い瞬間(とき)まで、大口(くち)を拡げる夜目(よめ)の生き血が黒目を引っ提げ注意を離せる。誰も彼もが知性の土手から自分の幻観(ゆめみ)た一本道(いっぽんみち)へと独りの合図に空虚を憶え、並に尽き得ぬ至極の連想(ドラマ)を追随させ行く。橙色した桃(はで)に気取れる外者(モンク)の脚色(いろ)へは仲見世にも似た人間(ひと)の廊下を活気の楽園(その)へと身分を偽りごそりと換えて、人間(ひと)の未(ま)だ見ぬ余命(いのち)の幻(ゆめ)から触手を手向ける孤独の主観(あるじ)を通感(つうかん)して生く。独り部屋(べや)から多くを語れぬ今際(いまわ)の楽園(その)まで活歩(かつほ)に遠退く中火(なかび)の亜(あ)の眼(め)が〝物乞い〟しながら俺へと吸い付き、他(ひと)の文句(ことば)を何処(どこ)からともなく遊覧しながら検認(けんにん)して行く外者(モンク)の酒宴(うたげ)を賄い終え生く。翳りの少ない夜の兆しは〝軍手〟を付け得る小さな棹(さお)にて〝行方〟を誤り、常識(かたち)から出ぬ人間(ひと)の逸話を常に大事に大目に賄う現代人へと姿勢(すがた)を落す。小さな覚悟は〝死〟をも意味する人間(ひと)の真面目をとかく抗う生(せい)へ対した夜気(よぎ)へと振舞い、「明日(あす)」を存(そん)せぬ人の晴嵐(あらし)は俗世(このよ)に活き行く保守の牙城(とりで)を自然に護り、人間(ひと)が制した人間(ひと)の吐息の充満している白亜の許容(うち)から決して脱せぬ短い余命(いのち)を孤独に携え、如何(どう)とも言えずの緩い坂へと自己(おのれ)を追い遣り無形(かたち)を象る。経過(とき)に抗う〝救急箱〟から「明日(あす)」の使徒へと自己(おのれ)を化(か)え得る時計の秒集(シグマ)を温存するが、人間(ひと)の温身(からだ)は小さな宙(そら)から漆黒(やみ)へと吹き抜く人間(ひと)の余命(いのち)へ注意をさせられ、気味に抗う双(ふた)つの感覚(いしき)は俺の足元(もと)から順行(じゅんこう)して生く。苦労性から過酷症(かこくしょう)へと躰を置き去り心中(こころ)を問うほど俺の幻(ゆめ)には明日(あす)の思惑(こころ)も昨日の思惑(こころ)も意味を識(し)るまで経過を厭わず〝藻屑〟の脚色(いろ)まで失踪して行く明暗(ひかり)の許容(うち)へと憎悪を灯し、矢継ぎ早から憔悴して往く人間(ひと)の定めに相対(あいたい)していた孤狼(ころう)の勇者が現れて居た。端正(きれい)に仕上がる精神(こころ)の華には昨日の幻(ゆめ)から解放され行く白紙の昼下がりを観て、「明日(あす)」へ誘(いざな)う両脚(あし)の脚力(ちから)が自身の居座る清閑(しずか)な牙城(とりで)へ尻尾を巻きつつ座位にて待った。人間(ひと)の生(せい)には生き道から識(し)る少女の魔の手が男性(おとこ)を狂わし、男性(おとこ)の小(こ)の手は小さな吐息を何処(どこ)まで吹き置く腕力(ちから)の無い儘、母性(はは)の体へ段々透れる儚い余命(いのち)を微妙に識(し)り得る。漆黒(くろ)い牙城(とりで)に俄かに咲き得る紺(あお)い華には人間(ひと)の源(もと)へと終ぞ報せる浮世の浮かれ話が身軽に跳ね活き、過酷な経路へ生(せい)を誘(いざな)う人間(ひと)の懺悔を無数に課した。人間(ひと)の発声(こえ)から俄かに伝わる嗣業の砦は明日(あす)から醒め生(ゆ)く自己(おのれ)の幻(ゆめ)から四肢(てあし)の伸び得る無垢の晴嵐(あらし)が人間(ひと)の姿勢(すがた)を真似して堕ちた。苦しむ姿を人間(ひと)の態度へほっそり化(か)え活(ゆ)く孤島の酒宴(うたげ)は初めから在る既成の魔の火を人間(ひと)の心にこっそり植え付け俺へと靡かせ、苦業(くぎょう)を知らずに苦悩を識(し)り得ぬ未完(みじゅく)の俺まですっぽり表し、果ての見得ない魔境(まきょう)の角度をずうんと仕上げて完成を観た。白亜の地味から人間(ひと)の泡(あぶく)へ七つに彩(と)られる音色効果を見付けて居ながら、如何(どう)にも成らない奇妙の幼稚を不様・豊かに露呈させ得る痩せた小唄を俺へと投げた。人間(ひと)の集まる外套にはもう陽(よう)の明暗(あかり)が堂々仕上がり、初めから成る浮世騒ぎの孤独が生きて、文句(ことば)を留(と)め得ぬ男性(おとこ)の脳裏と女性(おんな)の胸裏を、未然に表す無形(かたち)の集体(シグマ)を教癖(ドグマ)へ寝かせて煩悩さえ識(し)る。〝黒い家〟から〝明るい家〟まで、小庭(にわ)を遮る外界(そと)の虚ろは耄碌する儘、許容(うち)に仕上がる人間(ひと)の厚味は孤独の仕種をゆっくり擡げて「明日(あす)」の浮世の教習(ドグマ)へ根付かす。私闘に暮れ得る神秘の空気(もぬけ)は俺の背後(うしろ)へぴたりとくっ付き、昨日から現行(いま)、現行(いま)から未来(さき)へと、究(きゅう)の見得ない孤独の厚味を私運(しうん)と化した。非力の男性(おとこ)と他力の男性(おとこ)が紺(あお)い河(かわ)からゆっくり仕上がり、白雲(くも)の斜目(はすめ)に両肢(りょうし)を仕上げる魔楼(まろう)の水面(もと)へと薄ら還って悦び果てる。奇妙な樞(ひみつ)は俺の足元(もと)から艶(あで)を伴い両肢を見上げ、拝する加護には人間(ひと)に気付ける熱の露わが不様と成った。

 健次郎(けんじろう)も高校も他の職員も、自分の為に結構懸命に素振(すぶ)りや打ち方を話し合っている様(よう)だった。俺はそれを見て疎外感を受けつつ仕事をしていた。「待ってて下さい」と言わんばかりに、向日市に在る介護施設を目指すべく、俺は自身に課せられたと信じる使命を「その時エリヤが~」(列王記上一八・三〇)と引用を用いながら、きちんと眠れた。俺は唯、俺の為にランプの使い方や、野球のより一緒に楽しめる方法を明菜に教えられそうに在りながら、唯、明菜と別れる事が辛(つら)く、明菜の方ばかりを見ていた。その時は、遠く離れた存在ではなかった。

 微かな音響(ひびき)が男性(おとこ)の空間(すきま)と女性(おんな)の空間(すきま)に虚ろに灯り、茶色い包(くる)みにすっぽり覆われ、「明日(あす)」の景色に遠くから観て過去を築いて、意味を成し得ぬ幻(ゆめ)の小躍(おど)りに集中している。白亜に並んだ人間(ひと)の文句(ことば)が対岸(きし)から上がって俺の身元(もと)まで経過に落ち込み揚々辿り、俺の影さえ潜めてくれた。白壁(かべ)に滲んだ奇妙の一滴(しずく)が俺の身辺(あたり)を奇麗に潤し、人間(ひと)の敵から体熱(ねつ)を冷やせる実力(ちから)を費やし〝堂々巡り〟の過酷へ強いられ、morgue(モルグ)へ遣られる人間(ひと)の定めに口付けしたまま黄泉へと失(き)えた。両脚(あし)を重ねた未重(みじゅう)の獣は俺の前方(まえ)から姿勢(すがた)を失くされ、幻(ゆめ)の露わは炎の人影(かげ)から送り矢とも成り、人間(ひと)の温身(からだ)は無視を通せぬ不逞の表情(かお)して何処(どこ)かへ遣られる。俺の言葉は白い木通(あけび)に未熟が灯され、過去に仕向けた気弱の種火は勝手を知らずに明日(あす)へ赴き、旧友(とも)を失くせる杞憂を識(し)りつつ足の向くまま空の向くまま、涼風(かぜ)の向く内、鼓動の流行(なが)れる経過(とき)の行方に、無体(からだ)を呈せる主観(あるじ)を決めつつ誰の元へも寄り付かないで、俺の真摯は道理(みち)の通りを全うさせ得る契機を睨(ね)め採り慌てなかった。生きる間(あいだ)に頭上を灯せる微(よわ)い希望(あかり)に思惑(こころ)を示され、俺の余命(いのち)は過去に仕上がる無理の屍(かばね)を愛で続けて居た。如何(どう)ともし得ない浮浪の態(てい)した俺に纏わる文言(ことば)の多数(かず)から、未完(みじゅく)に採られた自決の真意を良く良く訊かれ、不意に慌てる俺の安堵は何を観ながら生きているのか当面分らず、心中(こころ)を〝古巣〟へ端正(きれい)に還せる無機の情緒にほとほと絆され、暗(やみ)に咲くのが孤独に纏わる人間(ひと)の延命(いのち)の欲望だけだと、活きながらにして事実に伏された人の感覚(いしき)を感じ得ていた。理由(わけ)無く他人(ひと)の総身を矛盾を気にせず、馬鹿にして行く平成人(へいせいじん)から次々成り立つ土偶の奥義(おくぎ)は、薄い気質に全てを操(と)られる説明文句を良く良く掲げ、朝にも昼にも、夕にも夜中も、自分が培う主張の強靭味(つよみ)を吟味(あじ)わいながら、夜中の表情(かお)など平成人には表面(おもて)の貌(かお)へと流用され活き、嫉妬に根深い自尊の不様をあからさまとして、各自、各自で、自身に舞い込む利得の様子を観察して居る。観察日記は日々の内にて堂々仕上がり他(ひと)をも呑み込み、「明日(あす)」の前途へ応用出来ない、即時の情(こころ)を大事とする儘、他(ひと)が吟味(あじ)わう幸福等へは四肢(てあし)の向かない脆(よわ)い黒目(ひとみ)を成長させ得た。平成人には平成人から空(から)の手紙が幾度も渡され、〝凄い!凄い〟〝感動!感動!〟、〝説明、説明〟、〝快楽、快楽〟、〝コンピューター、コンピューター〟、〝ゲーム、ゲーム〟、〝アニメ、アニメ!〟、〝保守こそ最大の攻撃!〟、〝きもい、きもい〟、〝虐待惨め、虐待最高〟、〝性(せい)、性(せい)〟、〝女、女、女〟、〝男…〟、〝女、女、女〟、〝男娼、好し〟、〝男と女、女の勝ち〟、〝女、圧勝の世界〟、〝時に小宇宙〟、〝小競り合い、分析、小突き合い、分析〟、〝お山の猿〟暴力が要る〟、〝暴力団こそこの世の正義!皆、この暴力団に全てを捧げ、教えを乞うべき!!〟、、〝お山の大将、褒美を貰える、たんと貰える〟、〝プライドの高い、洗練された家畜と成るのだ!〟、〝俺に、私に、儲けさせて下さい〟、〝儲け、こそこの世の正義なり、人に必要なものなり!〟、〝健康こそ、人の活源(かつげん)なり、これには食が要る、よっしゃ、これからの全世紀、全て食品関係のCMばかりで埋め尽そうYeah!価値の無い食品あげるからお金、あなたの貯金にホラ、一杯あるその貯金・お金を僕に・私に残らず下さい、くれなきゃ迷惑掛けます、暴力団様がそうしろとおっしゃっているので〟、〝無価値な代物(もの)こそ価値ある代物(もの)だ〟、〝金儲けが出来れば何でもいい〟、〝自分にとって悪い事は、皆他人の所為だ〟、〝他人が悪い事に相違ない〟、〝感性、感性〟、〝感性万歳、感性万歳〟、〝死んだ魚のような目をしてたってイイじゃあないか、生きてさえいれば〟、〝自分さえ良ければ全て良し〟、〝もっともっと目線を落そう、皆の為に目線を落そう、その果(さ)きには幼児(こども)が居る〟、〝女、幼児(こども)に合せるのだ、その為に性格を変えろ、辛抱だ、永遠に続ける辛抱だ〟、〝幼児(こども)の目線に合せておけば間違いない〟、〝女の目線に合せておけば間違いない〟、〝我々の古郷(こきょう)はここ、地球だ〟、〝そろそろここで感動話し、これら数多の薄っ平(ぺら)く至極貴重な感動話しに総員感動をするのだ、しなきゃ殺す〟、(口調を変えて)〝キレたハレたで、殺す〟、〝キレたハレたで、殺す〟、〝キレたハレたで、殺す〟、……、延々繋がる平らな文句が平らな人間(ひと)から数珠なりに成り、取るに足らないかっぺの祈りを真摯を呈して受け取らなければ、俗世(このよ)に居座る幸(こう)の在り処は暗(やみ)に茂れる不毛の台座へ据え置かれる儘、個人の意図など腐り弾ける暗(やみ)の末路が自然に呈され、懐疑に阿る馬鹿な輩は経過(とき)に捨てられ宜しきを得た。平らな時代に平らの人種が我が物顔して沢山表れ、異質を呈する垢の温味(ぬるみ)に快楽だけ識(し)り、五体満足・不感一致に自分を追い込み、女性(おんな)は未知へと、男性(おとこ)は女性(おんな)へ、片っ端から追随して行く人の本能(ちから)を大事に観ていた。過去の過失も肯定され得る嗣業の教義(ドグマ)に分断され活き、唯々、唯々、生きる為にと人を排して他(ひと)を排せる、稀有の悦(えつ)へと辿り生(ゆ)く儘、男性(おとこ)の精神(こころ)は益々未熟に生長して活き、女性(おんな)の褥に甘え始める臆病漢(おくびょうかん)へと前進していた。女性(おんな)は女性(おんな)で時代の仕手から翻弄され行く自分に丁度の空箱を観て、決起に逸れる女性(おんな)の本能(ちから)を儘に呈せる余程(よゆう)とゆとりを内と外とに大きく見上げ、自身の為にと前進して生く時代の脚色(いろ)から幸福を採り、男性(おとこ)を道具に女性(じぶん)に拝せる真意を片手に従事して行く孤独の労途(ろうと)へ真摯を投げた。自分に彩(と)られた孤独な労途を呈していながら真の孤独に遭遇する際、あれ程嫌って馬鹿にしていた男性(おとこ)の温度を再確認して、再び自活を途次に得(う)るまで、男性(おとこ)の活力(ちから)を利用して行く自身の儘には誠意が在るとの幻(まぼろし)を観た。寄れた男性(おとこ)は疑う間も無く欲に溺れて飢えている為餌になるならどんな物でも頬張り尽すと煩悩(なやみ)に乱され懊悩して活き、物理に頼った単純創意で女性(おんな)を尾(つ)けた。こうした輪を保(も)ち、男女の仲には正義が表れ清らかさが在り、正しい行為を迷う事無く自分の為にと他(ひと)の為にと、労を惜しまず愛を惜しまず、可憐な本能(ちから)を益々崇めて疾走(はし)って行った。この行為を人は革命と呼んだ。

      *

 目覚めると、又、左奥歯・歯茎から喉に掛けて鈍く痛く(シリアスな感覚ではなかったが)左後頭部辺りの頭痛が頭を擡げて来るのを感じ、嫌で許せず、眠気眼(ねむけまなこ)を嫌々擦(こす)りながらさっきからトイレへ行きたいのを我慢しながら、クーラーも消してこれを書いている。

      *

 幻(ゆめ)の両眼(まなこ)は暗(やみ)に在りつつ不快を訴え、俺の肢体(からだ)は蟋蟀にも似た初秋(あき)のぬるさを体感しながら、苦労へ掛かれる脆身(よわみ)の在り処を俺へ見せ付け呼吸していた。不惑を擡げる珍事の微声(こえ)には何も問わずの〝昔語り〟が延々煌めき微力に遣われ、父母の温身(ぬくみ)をふいと忘れた幻(まぼろし)が鳴り、思惑(こころ)の荒野に活き続けて行く自分の安堵に引き時さえ観た。美声(こえ)の鳴らない虚無の奥地へ次第に遠退く人の生気は呪文を唱え、何も問えずで唱えられない俺の感覚(いしき)は俗世(このよ)を見忘れ、明日(あした)から成る〝生き血〟の独気(オーラ)に孤独を留(と)め得る、虚無に見紛う自分の郷里を、心成らずも二、三度認め、活きる姿勢(すがた)へ逸る思惑(こころ)は徒労の遊離を現実から見た。精神(こころ)の瓦礫が俺の勇気を覆って隠し、宙(そら)へ飛び生く不動の欠片(かけら)を人の幻(ゆめ)へと熟させ化(か)えて、昨日まで観た俗世(このよ)の酒宴(うたげ)は人を排せず小躍(おど)って在った。逆行(あともど)りの無い拙い輪舞曲(ロンド)は漆黒(くろ)い様子を人間(ひと)から引き抜き、包み忘れを人間(ひと)の樞(ひみつ)を当然顔(とうぜんがお)して暴食して活き、俺の周囲(まわり)が物静かな程、齷齪費やす人の経過は乏しく独歩(ある)き、俺の活気を水面(もと)から費やす暴挙の器に呑ませて行った。

 白い壁から人に観られる白い人影(かたち)が仄(ぼ)んやりとまって横手に遊泳(およ)ぎ、自己流(カリスマ)から観る強靭(つよ)い芳香(かおり)が男性(おとこ)の童貞(せいぎ)を具に睨(ね)め採り、明日(あす)の傘下へ空虚を呈して棄てられていた。女性(おんな)の息吹が人山(やま)の裾からじんわり死に行く過去の連想(ドラマ)を一瞥に見て、脆い〝人の粉(ひとのこ)〟が俗世(このよ)に在るのを充分識(し)った。

      ★

 俺の星には一等星から五等星まで順々遊泳(およ)げる規則が先立ち、「明日(あした)の街」から「今日の街」迄、彩り豊かな血色(ちいろ)にも似た、馬酔木の緑樹(りょくじゅ)が想い豊かに四肢(てあし)を拡げ、如何(どう)にも成らない俗世(このよ)の主(あるじ)を人へ代え行き明かりを点けた。天然星から未完(みじゅく)を呈せる黄泉の文句は無言の姿で、清閑(しずか)の宵には微声(こえ)を窄める命の幻(ゆめ)さえ幻惑を観た。



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~命の幻(ゆめ)~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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