~母と〝彼女〟~(『夢時代』より)
天川裕司
~母と〝彼女〟~(『夢時代』より)
~母と〝彼女〟~
片麻痺を煩う母と二人で一つの自転車に乗り込み、栄光教会から自宅迄への帰り道を、昼と夜とが交互に凄まじく早く訪れ始める交差点や車道を、何処(どこ)へ向くのかはた又見知らぬ夢遊病者の目的(あて)など見付けてひそひそ連れ添い走って行った。涼風(かぜ)が恐らく吹く中、暑さを感じさせ得ぬ陽(よう)の光は宙に浮き立つ木陰を連れ添い地味な成りして輝き翻(かえ)り、俺と母とはこれまで見て来た自分の過去など、柔く立ち得る絵画に並べて気丈を振舞い微笑(わら)って在って、とても陽高(ひだか)い真昼の最中(さなか)をげんなりしながら疾駆(はし)って行った。先程迄には自分へ対する助力と称した手厚い〝息吹〟を陽(よう)の内からこっそり連れ添い肴(あて)とするなど、未熟な空想(おもい)に終ぞ遣られぬ遠回りをしてぽつんと在ったが、独りの〝住処〟に揚々在る内、俺への孤独は母を外して気色を彩(と)らせて、これから始まる無重の展開(はこび)に俺の感覚(いしき)を埋没させ行き、母と俺とは果てを知らない記憶の旅路へ辿って行った。呆(ぼ)んやり始まる展開(はこび)n脚色(いろ)とはこれまでそうした他人(ひと)の絵画に気取れぬ儘ある微弱(よわ)い表現(わく)へと散在したまま自分を呈せる神秘の画力(ちから)はすっと解け入る空気(もぬけ)に象(と)られて無色に響き、透明色した昼中(ひなか)の涼風(かぜ)など人と人とを結んで行け得る柔い風力(ちから)を取り留めた儘で、暖風(だんぷう)混じりの地味な流行(ながれ)に邁進して行く無知の欠伸を呈してもある。教会から出る自宅への岐路には、舗道に降り立つ昼中(ひなか)の薄化粧(けしょう)の陽炎など見せ淋しく在ったが、〝有名無実〟を匣に詰め込む未知の人には〝堂々巡り〟の砂の砂漠が如何(どう)にも斯うにも渡海に見得出し、坂を下(お)りても舗道(みち)を下りても、結局返らぬ自然の神秘(ベール)を後(あと)にし飛び込む、無局(むきょく)の褥を後生大事に携帯するまま睡魔に襲われ、〝自分の還り〟を遠くで湧き立つ歪水(みず)に預けて徒労を吟味(あじ)わい、この世の固さが何処(どこ)に在るのか揚々観ぬ内、再び宿った睡魔の局(やど)へと浸透して生(ゆ)く。母の背中は過去が起した固い感覚(いしき)が奇妙に並んで散乱しつつも、幻にも見た陽(よう)の馬酔木が陽炎など着せ柔弱(やわ)くして行く個人の火花が輝き始めて、明日(あす)を見取れぬ不思議な神秘(ベール)を、現行(いま)でも落ち行く陽(よう)の輝彩(ひかり)に向かせた儘にて、自然と幻想(ゆめ)との淡(よわ)い境界(さかい)を分らぬ対象(もの)へと変質させ行き二人に落ち得る真昼の最中(さなか)は人から零れた無様(むよう)の残骸(むくろ)を喝采して居た。道理を見知らぬ二人の表情(かお)には、自然が発する白光(ひかり)の最中(さなか)に空覚(うろおぼ)えに在る人と未知との共鳴(さけび)など観え弱々しく在り、説明ばかりを好んで欲しがる現代人へのひ弱な学(がく)には、止まる事無く憤怒を兆した俺の乱心(こころ)が表情(かお)を擡げて空虚を煩い、母へと透り、浮かぬ顔した母の未知には、人が古した無様(むよう)の残骸(むくろ)が幾つも並んだ無暗の生命(いのち)が火炎を吐き活き徒労を識(し)るなど、自然が呈する個人(ひと)への摂理は無体を呈して懐ける儘にて、歴史が呈した七つの泡(あぶく)に年齢(とし)を報さぬ俺の躍起は若気を彩(と)り得る若い男女へ奔走したまま自分が担げる小さな神輿を揚々大きく掲げる企図へ向け得て奮闘して居り、母の背後で何にも見知らぬ幼児を呈して黙っちゃいるが、俺を象る人の影には、如何(どう)とも呼べない悪魔の朗笑(わらい)が残存して居り、詳らかであり、哀しい程度に人へ生れた俺の孤独は、人と拝せる霊を見ぬうち解体され得て、人の手腕(うで)から手軽に彩(と)られた硝子の道具は〝ぱりん〟と響いた無音(おと)を立てつつ俺の背後へ大きな〝感覚(いしき)〟を立たせた儘にて、「明日(あす)」を望める微力の優雅をきちんと置いては奈落へ旅立つ。何時(いつ)か憶えた幻夢(ゲーム)の衝動(うごき)が白壁(かべ)から抜け出て疎かに彩(と)られ、黒い話を根深(ねぶか)に被(かぶ)った作業着姿の眠たい男が一つくしゃみを挙げた後(のち)には白壁(かべ)を初めに、そこから漏れ出た幻想(ゆめ)の一滴(しずく)は瞬く間にして蒸発し始め黒暗(やみ)へと隠れて、俺の脳裏に死太く懐けた幻夢(ゲーム)の土台(ありか)はひゅんひゅん跳び行く稀有な交響(ひびき)を大手にしていた。白煙(けむり)を吐かない女性(おんな)の感覚(いしき)が常識(かたち)を先取り男性(おとこ)と身代わり、黒い点から美白の点へと牛歩を続けた〝独立闊歩(どくりつかっぽ)〟の乱歩に紛れて全く気取れぬ新たな異界を構築した儘、現代社会は身軽・尻軽・無駄な明瞭(あかり)を得意と成し得た新たな恰好(かたさ)を(
稚児の昔に日本で憶えた子供の幻夢(ゲーム)に視座を当てると、小さく輝(ひか)れる赤いベースが幾つか活き得る無理な土台(どだい)が立脚して活き、俺から始まる幻夢(ゲーム)の容姿は〝母体(はは)〟を脚色付(いろづ)け生き生きする儘、猿と豚とが天竺目指して冒険して行く小さな世界が拡がり始め、俺と母とは〝母体〟を呈した〝ひ弱の土台〟を根深く講じて愉しみ始めて横這いにも成り、宙(そら)を眺めた二つの目には、父から灯った生活母体も薄ら挙がって逆走し始め、俺へと対する母の背中は、白壁(かべ)に止まれる蝗を呈して身細(みぼそ)くされ行き、俺と二人の冒険譚へと勢い任せに出された節(ふし)など俄かに上がってぽんと失(き)え得た。〝赤いベース〟は俺の記憶が柔々(じゅうじゅう)和らげ、生きる記憶を上手に運べた時間の静寂(しじま)に揚々象(と)られた形態(かたち)を保(も)たされ、うっかり弾んだ〝熱〟を講じる記憶の手順(いろは)が順々仕上がる青い以前(むかし)を解体して行き、何も分らぬ母の脳裏が俺へと対せる無力の連想(ドラマ)を持ち込むついでに煽れた代物(もの)にて、〝赤いベース〟は角(かど)の取られた楕円を呈して軟く馴らされ、〝SONSON〟と銘打たれた淡い幻夢(ゲーム)へ化(か)わって行けた。宙(そら)から降り得る柔い雨など、水密漂う甘い蒸気に薄ら解(と)け得て無難に仕上がり、俺と母との柔い記憶は、天竺迄への懸橋(はし)を辿れる脚力(ちから)を保(も)たされ牛歩を象り〝ジャーニー〟を観て、無為に解けない強靭(つよ)さを大手に振り振り振り撒き、人間(ひと)の世界(うち)から上手く離れる至難を採らされ華(あせ)を牛耳り、憤悶(ふんもん)だらけの魅惑の園(その)にて、人間(ひと)から挙がった固い常識(かたち)を宙(そら)へ根付ける白雲(くも)の切れ間に上手く隠せて自分に仕上がる〝過去〟の上気は人間(ひと)が馴らした無味の常識(かたち)を記憶に留(とど)めて巧みに忘れた。黒い煙だけ見て、目視に準ずる淡い女性(おんな)が決して辿れぬ白い煙へ行く行く辿れる、無聊を葬る途次での所業でもある。女性(おんな)の空想(おもい)を仔細に懐ける思考の手順(いろは)は寸とも狂わず感覚(いしき)を忘れて、忘却され行く孤高のシグマに不純を識(し)るまま脱色され活き、〝白い煙〟に揚々自体(からだ)を頬張らせた後(あと)、空気(もぬけ)に失(き)え得る透った鎧を着せられ始める。俺と母とに、個人(ひと)の感覚(いしき)が見事に灯って確立され得た、記念するべき夜でもあった。真昼というのに母と俺との周辺(あたり)の景色は何も見せずにまったり暮れ行き周辺(あたり)に咲き得る建物・草木を一掃して行く強靭(つよ)い虚無など観せながらにして、脆弱(よわ)い個人(ひと)からゆっくり上がった僅かの独気(オーラ)を野平(のっぺ)り拡げて感嘆し始め、俺と母とは、俺が具えた土台を呈せる場面の内へとぴょんぴょん跳ね活き元気を保(も)って、青い空へと景色の上がった二人の古巣へ、二人の途次から酷く目立てた使命の糸などするする解(ほど)けて薄ら延び行き、人間(ひと)から翻(かえ)った、二人の独歩(ある)ける白い気配は、お尻を振り振り天国迄へと、共同作業で二手に分れた黄土の岐路へと向かって行けた。
メディアの仕事を上手く逃れた俺の活気は母を連れ添い雨乞いをして、軒並み担いだ父の華(あせ)から地道に挙がった〝延命上手〟を流暢・豊かに着飾る振りして、その実、まったり拡がる自分の感覚(いしき)に華咲く幻夢(ゆめ)などお調子ついでに覗いて行って、稀有にも見取れぬ程好い功徳は偉業を象る俺の功(こう)へと翻(かえ)って行けた。出過ぎず付かれず母と俺との〝幻夢(ゆめ)見る波紋〟は、この世の常識(かたち)を上手く晴(ば)らして創れた対象(もの)にて、真向きに捉えた世情の灰汁など、二人の掌(て)からはすらすら零れて固体(かたち)を射止めず、母の呼吸(いき)から、俺の呼吸(いき)から、真綿に包まる白い吐息は何物にも似ぬ夢想が芽生えて怯む事無く、理想を掴めた大きな両手は、二人の頭上に薄ら上がって〝宙(そら)〟と地とを巧く繋いで独走して居た。黄泉の郷里(くに)にも「明日(あす)」の郷里(くに)にも人の未熟がほっそり返れぬ〝真綿の感覚(いしき)〟は鋭く透ってぱたぱた揺らめき、涼風(かぜ)の麓へむっくり落ち行く奇妙な嗣業は人間(ひと)の因果を事々馬鹿にする儘、野平(のっぺ)り透った褥の女性(おんな)を象り始めて、俗世(このよ)には無い〝褥の女性(おんな)〟を巧みに仕上げた俺の意図には、無難を飾った女性(おんな)の記憶が俗世(ぞくせ)を介してやんわり付いた。縋り付き行く女性(おんな)の記憶は縋り付き行く男性(おとこ)の落ち目を鋭く見張って静観する儘、自体を着飾る幾多の装飾物(ドレス)を「明日(あした)」から採り身軽に手懐け、自分の縋った男性(おとこ)の落ち度が何処(どこ)に在ろうといとも容易く目視で見限り、心身憂いだ男性(おとこ)の文句は女性(おんな)へ届かず、男性(おとこ)と女性(おんな)は欲に紛れて失(け)されて行った。消され始める男性(おとこ)の〝意味〟には、初めから無い自尊の感覚(いしき)が女性(おんな)の片手へふらと寄り付き滅法脆(よわ)まり、それでも絶え得ぬ女性(おんな)の柔生(やわら)に気高く巻かれる〝褥の手順(いろは)〟を強欲塗れの生気の内にて酸卑(さんび)を識(し)りつつ把握して活き、やがては自分の円らな生気を今にも気取れぬ黒い古巣へ投げ込まれて行き葬られるのを、薄ら気取れて報(しら)されつつも、男性(おとこ)の強さは女性(おんな)の目前(まえ)では弱気を諭され、派手に着飾る悶(もん)の晴嵐(あらし)は男性(おとこ)の宙(そら)へと上手く仕上がり虚構を識(し)る内、悶々し出した精(せい)の疼きは無能に酔わされ甘美を識(し)り抜く。女性(おんな)が着飾る哀れな残骸(むくろ)は〝死地〟を射止めて弱く立つのに、未だ目視で古巣へ還った邪気を観る内、太古(むかし)に翻(かえ)った男女の立場を引き合いに立て、盲目ながらの無知の強靭(つよ)さは蛇に呑まれた人間(ひと)の枯渇に準ずるものなど、独言(どくげん)して行く女体の晴嵐(あらし)は精(せい)を識(し)り行く疼きを見るまま無我に構えた稚拙を被(こうむ)り節制を識(し)り、男性(おとこ)の前方(まえ)では自分へ課された臆病(やまい)を見抜いて一向辿れぬ秘密を掌(て)にして冷笑して居り、美談に仕向けた朝日の温(ぬく)みは、女性(おんな)の色香を不断に呈させ男性(おとこ)に対せる快感(オルガ)を秘め得て女性(おんな)が成り立つ。男性(おとこ)の精神(こころ)は壊れた儘にて、世間に放(ほう)られ孤独を知るのを何より嫌って女性(おんな)へ縋り、小慣れた鉄騎は女性(おんな)を徘せる首尾を辿って強気に在ったが、いざ自分の周辺(あたり)に女性(おんな)が無いのを察知したなら気狂いし始め、夜道に降り立ち、女性(おんな)の肢体(からだ)を欲する儘にて欲(つみ)に塗れて投獄され得る。白く立たせた浮世の煩悩(なやみ)を遠目にする内、俺の元には理想の母体がくっきり挙がって精製され活き、悶々塞がる危篤の完就(かんじゅ)は星を観るまま無臭を識(し)り抜き朧気(おぼろげ)に活き、俗世に識(し)り得た欲(つみ)の大手を、芥(ごみ)の内(なか)へと一掃する儘この世の空気(もぬけ)を離れられ得た透った肉体(からだ)を保(も)ち得た俺には、俺の元まで自在に辿れる理想の母など、容易く観得行く自然に在るのは幻想(ゆめ)でも何処(どこ)でも何も翻(かえ)れぬ強靭(つよ)い土台を構築出来得た。幻夢(ゆめ)の火照りが自分を過ぎ去り母へ往(ゆ)くのを自分の情緒に上手く包(くる)まり見ていた俺には、好んで辿れる母体(はは)への肉の経路が細々(ほそぼそ)浮き立ち真横にたえて、俺の目前(まえ)ではこれまで幾多の既婚の人間(ひと)など、俗世に彩(と)られた甘い夜気(やぎ)など形成した儘、地(した)から宙(うえ)へと、空気(よこ)から空気(よこ)へと、活歩(かつほ)を呈して渡って往(ゆ)くのに、俺と母体(はは)とは一向止まらぬ〝縦軸時間(たてじくじかん)〟に奔走したまま冷たさを知り、〝甘さ〟に唄える人間(ひと)の強靭味(つよみ)を何処(どこ)まで齧って正気を識(し)るか、と一層辿れぬ二人の世界へ埋没した儘、浮かれ騒ぎを遠くで始めた人間(ひと)の俗世(ふるす)を遠目に見て取り細目に閉じ込め、閉口して行く二人の〝幻想(ゆめ)〟には人間(ひと)の温身(ぬくみ)を闊歩し得ない脆(よわ)い姿勢(すがた)が仰け反り出した。前進して行くステップ踏むのに、三度地を蹴る物音を識(し)り、灼熱(ねつ)に問われる煩悩(なやみ)の火種は人間(ひと)に纏わる欲(つみ)を飾って大童と成り、人間(ひと)の温(ぬく)みは人間(ひと)の身内(うち)にて弱体を識(し)り、何時(いつ)か果て行く人の躯(むくろ)は残骸(むくろ)を示せる〝横軸時間(よこじくじかん)〟に一斉豊かに拡がり始めて冷たく成り行き、そのまま活き得る二人の姿勢(すがた)は、黒暗(やみ)を呑むまま未想(みそう)を仕上げて人間(ひと)と交わり、俺は俺にて母を離れて理想を象り、理想の内では俗世に活き得る母を元手に残骸(むくろ)を仕上げて温(ぬく)みを識(し)り抜き、俗世を上手く離れた夢物語が母体(はは)と俺とを自然に掌(て)にして進んで行った。
幻夢(ゲーム)に象(と)られた猿の名はそんそんと言い、豚はとんとんと言い、俺と母とは、母が脳出血を患う以前、もうずっと以前の、俺が未(ま)だ小学生だった頃(詰り二〇一四年から三十年程引いた年数となるが)、俺の小学校仲間の友人や幼馴染・親戚達が、良く俺の家へ泊り掛けで来て母共々ファミコンゲームをして遊んであって、そのゲームの内にこの二匹のキャラクターが登場する「SONSON」というゲームが在ったのである。俺の幻想(ゆめ)はそうした以前(むかし)のワン・シーンずつを発作的に集めて編集して行き、現行(いま)、目の前で繰り広げられている「母と俺との光景」を映しているようで、その景色は体感出来る迄の光景でもあり、俺の心中(こころ)は母へと寄り添う、円らな魅惑を具に手に取り円熟して活き、過去と現行(いま)とが白い煙にいとも容易く巻かれる態(てい)にて奔走し始め、元気に渡った月の光へ〝輝夜(かぐや)〟が還って深夜(よなか)へ着く迄、幻夢(ゲーム)の当りは俺の感覚(いしき)に新しかった。一人ぽつんと、曇った眼(め)をした辣韭頭の可愛い童子(どうじ)が〝白さ〟に問われた微かな震動(ゆるみ)を遠くから見てふらふら近付き夜気(よぎ)に当って、俺の足元(ふもと)で懐手をして母へ対する無欲の保身を始めた頃から、俺から生れた、透明色した〝向きの気質〟は有名無実に象られて活き、遠い目をした生臭坊主に、ほとほと円らな歪曲部分を幻想(ゆめ)へ放られ彩(と)られた事などそれまで静かに空転(ころ)がり続けた小さな〝矛盾〟と結合して行く、新たな基準を思惑(こころ)へ設けて上気して行く。これまで通(とお)った幾多の〝白紙〟を揚々掲げて吟味を図れば、幻想(ここ)に居座る全ての〝調子〟は形(なり)を潜めて赤らみ始めて、俺の心身(からだ)を非常に小さく解体して行く自然の重力(ちから)を分散させ行きしいんとする儘、俺の記憶へすんなり通える無機を呈する至純(しじゅん)の連動(ドラマ)は、明け方迄にはすっかり透った硝子細工へふらふら落ち着き気丈を透し、何にも言えない無力な常識(かたち)が粉砕せるまで小さく棚引く小僧から成る発破の意図まで明るくして行く。俺を象る〝母〟の目前(まえ)での陽気の源(もと)には、そうした複雑怪奇の神秘より成る暗い光景(ベール)が幾つも連なり白壁を成し、気取って這入れぬ未完の〝シグマ〟が長蛇を表し〝記憶〟を紐解く固い衝動(うごき)を器用に終らせ、俺の元までせっせせっせと編み行く境界(うち)には、厚い静寂(しじま)を上手に利(い)かせる〝孤独の怪奇〟がすっかり地に着き手腕を生け捕り、俺と母とに常に〝陽気〟な新展開など、余所で遊べる遊戯を見せ行く挙動を採った。
俺と母とは過去に懐いた幾多の〝彼等〟を余裕の表情(かお)して置き忘れて行き、自分と彩(と)られた装飾(ふく)の照輝(てか)りに陽(よう)を流行(なが)した虚空の広さを好く好く識(し)るうち冒険へと出て、腰掛け程度の遊びの旅路に、何処(どこ)かで彩(と)られる異様の目的地(ゴール)を下目に見上げて闊歩を愉しみ、行く行く見分ける幻想(ゆめ)と幻夢(ゲーム)の脚色(いろ)の旋律(しらべ)を自分の周囲(まわり)の何処(どこ)にも落せる小さな拠点と甚だ識(し)る儘、各自に纏わる幻想(ゆめ)の神秘(ベール)に自然を見付けて遊泳して行く。そうした旅路を愉しむ為に、と俺が心身(からだ)を押し遣る最中(さなか)に、はっとするほど母の背中が大きく身構え障害と成り、宙に浮き出た〝問えぬ神秘〟を彷彿させ行く孤島の熱尾(ねつび)をちらちら見せ付け俺へ疾走(はし)って、母の妙味が俺の心身(からだ)を囲む頃には、中々押せない〝初出(はつで)〟を意味する丸い釦が、指から離れる固い空気に呑まれてはっきり、…はっきり目に彩(と)る異様な黒さを暗(あん)に仕上げて揚々気高く、俺へ対した柔い淡さは、木陰に隠れた揚羽(あげは)の態(てい)して野平(のっぺ)り落ち着き、所々で小さく揺れては壊したくない脆弱(よわ)さを見せ付け仄(ぼ)んやりしている。俺の脚(あし)には何時(いつ)しか知れない空気(もぬけ)に問われ固い枷など酷く付けられ重たさが在り、〝堂々巡り〟に呼吸を取れない脆(よわ)い歩調(ペース)が如何(どう)にも懐けず俺の活気は陽(よう)へ逃げ行くひ弱を呈して奇遇を見限り、淡い〝初穂・初歩(はつほ)〟に母を認めた軟弱極まる礼儀を見て取り、これから始まる夕日を背にした〝語らい程度の悶々日記〟を二人で見詰める過去の経過(ながれ)へ取り置く内にて、それでも始まる奇麗な幻夢(ゲーム)に形成(かたち)を付けない強靭(つよみ)を見て取り落ち着き始めた。奇麗に盛った日の輪が現行(いま)でも遠くに見得たり近くに見得たり色々彩(と)られる非力を呈して新たに在ったが、母の居座るTV(テレビ)の前では人の座れる一人分しか空間(すきま)が無い儘、俺の心身(からだ)はずるずる解(ほど)けて遠慮をして行き〝魅惑〟を見忘れ、何時(いつ)しか敷かれたTV(テレビ)の面には二人から出た独気(オーラ)の仕上げる夢物語が天井(そら)を外して上手に居座り輝彩(かがやき)を保(も)ち、新たに生れた新たな〝旅路〟を、二人で射止めた刹那の温度はTV(テレビ)から発(た)つ仄かな熱気に集められると、本気に寄り付き按じた際には、二人に揃えた冒険譚には一時(いっとき)縮まる安堵を灯して終局している。終着点へと気取れぬ間(あいだ)に空転(ころ)がり込んでた辛(つら)い旅路の終了でもある。
俺と母とは画面に映った各自のキャラなど巧く操り天竺迄へ…、とそれまで気取った自身の生身を電子に置き換え追走して行き、各自が各自に現行(ここ)にて設けた刹那の手段を熱く採り得た事実と向き合い、落ち着く矢先を思考の支点へほっそり置き換え、現行(いま)まで観て来た〝操(と)られ加減〟を虚無へと映した〝冒険譚〟での秘密(からくり)でもある。母の心身(からだ)はそうして揃えた一人分での座席に居座り延々愉しむ幻夢(ゲーム)の醍醐味(あじ)など表層豊かに象られて行く自然の腕力(ちから)にあれよあれよと執着して活き、腱鞘炎でも再発させ得る熱い熱気に俺をも呑み行く気迫を置き遣り愉しんで居たが、ふとした調子に細切れから成る〝刹那〟の場面へ漂着して行き、自分の置かれた孤立の砦を俺へ目掛けて放って行く時、ついつい窺う退屈(ひま)を見抜いて土台を崩され、蓮華に座った〝気迫〟の程度はTV(テレビ)の面(めん)から〝蓮華〟へ逃げ行く逆行(もど)りを感じて遣り切れない儘、何処(どこ)まで行っても同じ脚色(いろ)したTVの画面を一瞥した後(あと)、自分の座った現行(いま)に流行(なが)れる身軽の調子についつい振られて気運を委ね、俺の気配が見送る目前(まえ)にて、飽き飽きして来る自分の調子に仕方の無いほど相対(あいたい)する内、とうとう席から外れて空間(すきま)から脱(ぬ)け、TV(てれび)前から外界(そと)へと出て行く軽い気流(ながれ)へ身を預けた儘、ふらりと立ち行き、我が子を乗せ得る荷籠を付された自転車を持ち、夕日に暮れ行く見掛けた景色の背中の奥まで道なり走って辿り付け得る自転車道(じてんしゃどう)へと走って行って、母の背後の子供の椅子にはちょこんとしっかり座って落ち着く俺の姿勢(すがた)が映って在った。何時(いつ)か何処(どこ)かで微かに見知った風景ながらに、母の走らす車輪の向きなど向きに違(たが)えて自由であって、何処(どこ)でも走れる〝気運〟を見付けて無邪気に燥ぎ、陽(よう)の照るうち真っ赤に成り行く夕日の細道(みち)まで立派に走って恰好(かたち)を操(と)った。しかしそうして走った母の背中は、揺ら揺ら揺らめく夕日の紅(あか)からちょいと逸れ行く気丈を照輝(てか)らせ膨張した為、俺の方でものらくら走れる母の歩調(ペース)に気持ちを害してむっつりし始め、少々怒った態度を表し母へ向かって、
「もうちょっと早く走られへんの?」
と焼噛み半分、気忙に問うと、背中を見せつつ慌てぬ歩調(ペース)を維持して朗笑(わら)える母は、
「これでも自転車免許一級持ってるけどな」
と嬉しい覚悟を笑みへ隠して挑戦して来る丈夫な気色を俺へと見せ付け気勢を纏め、我が子に対する絆を見せ付け愛情豊かな母の姿勢(すがた)を頭上へ掲げて倒れずに居た。涼風(かぜ)がそれから二人の間(あいだ)をさあっと流行(なが)れて熱気を沈め、仄かに浮んだ母に対する懐かしさを観た俺の表情(かお)には仄(ぼ)んやりして行く母の以前(むかし)が元気を象り笑って在って、矢張り倒れず、気丈を振舞う母の姿勢(すがた)は夕日に溶け入る回顧を連れ添い微妙を被(かぶ)ると、俺の目前(まえ)からするする逃れる柔い気質を暗中模索に創作して行く〝家庭の温(ぬく)み〟を表してもいた。俺の幻想(ゆめ)にはそうして立ち得る母の姿勢(すがた)が具体に嬉しく深く小躍(おど)って、これから何処(どこ)かで静かに始まる二人の回顧が〝気忙(きぜわ)〟を忘れて立脚して行く永久(とわ)刹那へ悠々這入れる人間(ひと)の活力(ちから)を器用に見て取り俺の心身(からだ)は母の背中へ密着する程〝近さ〟を感じて仕様の無いほど遊び回った。嬉しい気配は母と俺とに等分されつつ分散して行く淡い朗らを揚々映して晴空(そら)を象り、〝土台〟を設けた自転して行く可笑しな車は車輪を丸めて地面を蹴りつつ、行く行く明るい景色に打たれて白煙(けむり)を吐き付け、吐かれた白煙(けむり)は青い気色を重々重ねる空の固体(かたち)を充分識(し)るまま〝未熟〟を冠した刹那の〝紅(あか)み〟を俺まで返して凡庸に活き、母の背中は時折り見せ得る母の表情(かお)など小さく灯して地団太踏みつつ、脚を組み換え独走して行く車輪の芳香(におい)に魅惑を飾らせ、俺と母との〝新た〟の場面は〝永久(とわ)〟から返った〝刹那〟の内にて、端正(きれい)に仕上がる空気(もぬけ)を講じて生き生きしていた。俺は永久に呑まれる母から下(お)り行く背中を識(し)る儘、凡庸から成り青さを咲かせた晴空(そら)の純度に、ほとほと嬉しい気色を覚えて快活を知り、何処(どこ)へも咲けない過去から仕上がる母の心身(からだ)は現行(いま)にも還れる延命(いのち)を咲かせて朗笑(わら)ってあった。
遂に見得ない父の姿勢(すがた)は、俺の自覚か母の自覚で二人の帰りを仄(ぼ)んやりしながら待ち続けている。そんな気色を静かに放(ほう)って返らなかった。それで在りつつ自然の気流(ながれ)は父の背中を何処(どこ)かで仕留めて弱々しく在り、母の背中と一緒くたにして俺の目前(まえ)から少し離れる会話の内へと放(ほう)った程度に両者を離し容易く会えない固い温和を上手に仕立てて平(たいら)を決め付け、俺と母との二、三歩前では、夕日の緋色に染め上げられ行く関電社宅の広い敷地がベージュの壁など立派に建て付け、俺と母とを歓迎する程奥行きさえ見せ、三つに止まった〝永久の刹那〟を空転(ころ)がし始めて動かなかった。不動に落ち着く社宅の前では自転車道(じてんしゃどう)から緩く漏れ得た〝刹那〟を愛した二人の姿勢(すがた)が、現行(いま)には返らぬ父の姿勢(すがた)を心静かに待ち続けて居る。
父母の映った景色を離れて、俺の心身(からだ)は段々遠退く虚空に浮べた路地の内(なか)へとすうっと解け入り人気(ひとけ)を失くした場末の場面を見付けて行って、宙(そら)へ突き刺す反射陽(はんしゃよう)から次第に仕上がる〝人気(ひとけ)の園〟へと独歩(ある)いて行っては知人を探し、その内日暮れに懐かしい陽(ひ)を仄(ぼ)んやり眺めてうっとり身構え、向こうにてくてく独歩(ある)いた一人の少女を視野に捕まえ、彼女が進んだ俄かの軌跡を自然に準(なぞ)って近付いて居た。彼女が残した仄かな芳香(かおり)は以前(むかし)に匂った女性(おんな)の芳香(かおり)とほとほと好く似て暖かみは無く、何方(どちら)かと言えば、少々眠たさ払拭され得る嫌った女性(おんな)に連々(つれづれ)似て来てじんわり柔んだ精神(こころ)の加減は俺の目前(まえ)にて活気を帯び行き、彼女の容姿(かたち)が燻り仕上がる〝刹那〟の頃には俺から覗ける淡い輪郭(かたち)が顔から胸から足先迄もがくっきり仕上がり紅(あか)みを帯び活き、俺の前方(まえ)へと歩いて行かない固い信念(おもい)にやんわり彩(と)られて女性(おんな)を着飾る煌めきばかりを陽(よう)に晒して突っ立っていた。彼女の姿勢(すがた)は遠いお空の白雲(くも)の体(てい)してゆっくり流行(なが)れる靄の流動(うごき)に揚々自体を屈曲させ活き、青さの透った遥かな宙(そら)へと何時(いつ)しか失(き)え往(ゆ)く寂寥など観(み)せ形成(かたち)を揃えぬ女性(おんな)の感情(こころ)をしどろもどろに変形させては俺の幻想(ゆめ)でも過去の幻想(ゆめ)でも実に見事な立脚さえ観(み)せ、自分の温度を気体に仕留めてうっとりし始め、白煙(けむり)に巻かれた女体は何時(いつ)しか〝少女〟の成りから成人(おとな)の成りへとしっくり身代わり変身して生(ゆ)き、俺にとっての仇と成り行く無顔(むがん)の思いを構築して居た。何処(どこ)へ行っても彼女の縛(ばく)から逃れられ得ず、はた又弱った自分の脚力(ちから)を傍(そば)にたえ得る茂みの内へと迷走させ行く身分の相異を彼女の眼(め)に見て、のらくろ踏ん反り隠した魅力は、彼女の身体(からだ)を巧く透して俺の胸中(うち)へとすんなり這入れる厚顔(あつみ)の露わを鋭く魅せては、俺の傍(そば)からひたすら逃げ得る〝逃げ水〟みたいに何処(どこ)まで行っても両手に包(くる)めぬ未開の〝魅惑〟が瞬時小躍(おど)り続けて、俺の記憶は成人(おとな)に実(みの)れた〝少女〟の発声(こえ)など、片耳に聴きつつ、思惑(こころ)の内(なか)では彼女に宿った〝俺〟に対する〝分身〟など観て、何処(どこ)ぞで流行(はや)った端正(きれい)な小躍(おど)りを幻想(ゆめ)の間際に浮き出たせていた。存分燥いだ彼女の両眼(まなこ)は、これまで辿れた〝しどろもどろ〟を幻想(ゆめ)を語れる文士の手腕に巧みに影響(ひび)かせ単語(ことば)を設ける小さな〝魔法〟を何処(どこ)かで落して活力(ちから)を交響(ひび)かせ、俺の麓(もと)へと淡く凌げる自分の活歩(かつほ)を非力に観る後(のち)俺から奪った〝母〟への覚悟は雲散霧消に空転(ころ)がり続ける未知の体温(おんど)を想像した儘、〝夕陽ヶ丘〟の細い路地にも静まり返った〝二人〟へ対する暗闇(やみ)の旋律(しらべ)を巧みに操(と)れ得る陶酔観(とうすいかん)まで仔細に仕上げて無機を仕留めて、俺と彼女は何処(どこ)まで行っても親子の情(じょう)など一切語らず、遠いお宙(そら)に逆行して行く小さな分身(からだ)を夕陽ヶ丘(ここ)の細道(みち)から、素早く奪える人間(ひと)の仕種に〝自分〟を象(と)るうち眠たくなり得る人間(ひと)の景色は〝二人〟と離れて利口な〝以前(むかし)〟へ逆行(もど)って入(い)った。
母の身体(からだ)は以前(むかし)のまんまで一切彩(と)られぬ女性(おんな)の情(じょう)など、稀有にも新たな未熟を灯してしっかり在りつつ、生き行く両脚(あし)には片側だけ奪(う)る哀れな枷など未だに付き得て微動だにせず、子供の遊びを遠くで見守る〝大和の母〟など、壮大・清閑、何にも出来ない微笑を操(と)っては自分に纏わる全ての小事(こごと)をむしゃくしゃするうち放(ほう)って消し去り、自分を束ねる定めの源泉(ありか)は、ここぞとばかりに〝母〟を沈めて水面下を彩(と)り、俺の目前(まえ)では一切気取れぬ淡い夕日が何時(いつ)まで一切、気取れぬ淡い夕日が何時(いつ)まで経っても何処(どこ)まで行っても、血色化(か)え得ぬ微動の〝夕日〟と暫く鳴り止み、俺と彼女の〝二人〟の感覚(いしき)を遠く薄めて仄(ぼ)んやり在った。俺と〝彼女〟は〝母〟の元から暫く離れて口論してたが、二人の間(あいだ)を疾風程度の涼風(かぜ)が先行き微温(ぬる)さを引き立て、俺と〝彼女〟の二人の両手を一切透らぬ肌色だけ立て、後(あと)の血色(ちいろ)は瞬く間の内、茂みへ隠れた俺の脚力(ちから)に故郷を見て取りじんわり和らぎ、狂った〝刹那〟は未重(みじゅう)の残骸(むくろ)を上手に取れない淡い残骸(むくろ)を量産する内、〝母〟が落ち着く白雲(くも)の中では、〝彼女〟の事など〝懐かしさ〟に見た孤独の死相と何ら変らぬ、無機の描写に事々塗られる脆(よわ)い「明日(あす)」へと還らせていた。俺の思惑(こころ)は〝彼女〟に対して、何か以前(むかし)のじんわり落ち着く昔語りを挿話に引き立て、〝彼女〟の過去(むかし)に潤色して行く新たな細工を並べてもいる。
~母と〝彼女〟~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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